2011年5月3日火曜日

構造変化ー危機の前後

昨日(5月2日)の日本経済新聞「経済教室−大災害の経済学」で大竹文雄氏が書いているように、大災害がその国の経済に及ぼす影響は単純ではない。一部だが引用してみよう(日経に許可がいるかなあ・・・ま、WEB限定ではないしね)。


個々の家計ではなく、経済全体にはどんな影響があるのか。大災害は通常、経済成長にマイナスに働くと予想できるが、復興需要による景気拡大の効果もある。どちらの要因が大きいのか。澤田氏らが国別のパネルデータを使って、経済産業研究所で行った研究によれば、大災害は短期的には経済にマイナスであった。米州開発銀行のカバロ氏とハワイ大学教授のノイ氏の展望論文によれば、大災害が短期的に経済成長率を引き下げるという結果は、多くの研究で一致した結論だという。
一方、大災害が長期の経済成長に与える影響については、研究結果は必ずしも一様ではない。名古屋市立大学准教授の外谷英樹氏と現ミシガン州立大学教授のスキッドモア氏が02年に発表した論文は、長期でみると大災害に見舞われた国の方がそうでない国に比べて経済成長率が高くなっているという結果を報告している。同様の結果は、澤田氏らの10年に発表された論文でも確認されている。
ただしどちらの研究も、経済成長と正の相関があるのは気象衛星など現代の技術で予知できる台風や洪水などの気象的な災害である。地震や津波など予知が難しい災害は経済成長と無関係だという。
一方、ノイ氏らの研究では、長期でも大災害は経済成長にマイナスに働くとされている。結論に差が出るのは、大災害がなかったらどうだったかという比較対象の設定が困難なことが原因である。カバロ・ノイ両氏の最近の研究によれば、大災害の後に激しい政治的革命さえ発生しなければ、大災害そのものは長期の経済成長に影響を与えないとされている。 (以上、下線は当ブログ筆者による)
このように、短期的には資本ストックの損壊、サプライチェーンの寸断などによって生産が低下するのは仕方がない。他方、長期的に復興需要の増加などで生産が拡大軌道に乗っていくかといえば、それははっきりとは言えない、という趣旨である。
衰退産業から成長産業への脱皮が災害をきっかけにスムーズに進む場合もあるし、社会不安がいつまでも続き長い期間に渡って経済活動がおさえこまれてしまうこともあるということだ。
とにもかくにも大地震、大津波、原発事故の三段フックに見舞われた国など歴史を遡ってもまずはあるまい。つまり予想を立てるだけのデータがないわけだ。日本が今後将来どのような軌跡をたどるか、文字通り、それは神のみぞ知る。
ただ言えることは、危機の前後で経済秩序というか、グローバル舞台の主役、脇役はがらりと交代してしまうことだ。小生はリーマン危機以前からトヨタ株に少々投資をしている。2008年初めにはトヨタの株価は8千円台半ばに達していた。その後、アメリカ金融市場の不安から株価は下げたが、それでも9月のリーマンブラザーズ倒産直前で7千円くらいではなかったか。
その頃小生が考えていたことはこうだ。『今回の経済危機はつまりは原油高が原因だ。いったん原油価格は下がるが、これからも原油高は続く。自動車産業はいったん崩壊するだろう。灰かぐらの中から立ち上がってくる企業が次の主役だ。それはハイブリッド、電気自動車開発で先行するトヨタだ』、とまあこのように予想をたてていたのである。
ある意味でその予想は当たっていた。アメリカのビッグスリーはフォード1社のみが辛うじて生き残っただけだ。トヨタはリコール問題でつまづいたが、致命傷にもならなかった。現在、トヨタの株価はピーク時の3分の1を少し超えた水準だ。これから反撃だ。
とはいうものの、本日の日経朝刊にも報道されているようにグローバルの株価時価総額はリーマン以前の2割増しの株高に上がっている。世界は株高なのである。
大震災後の株価変化を見ると、上がった企業にはコマツ(新興国に強い)、国際石油開発帝石(資源高)、三菱商事(資源、新興国市場)などが並び、下がった企業にはトヨタ、関西電力などが並ぶ。
一つ言えることは、トヨタ対GMなどという見方は全く的外れであったこと。自動車なる商品はもうどこでも作れるようになったコモディティだ。プリウスは最高の車だが、中国やインドで爆発的に売れるかといえば売れない。GMは倒したが、無数の新人が土俵の上にあがっていて、バトルロイヤルが展開されていた。これは相撲じゃない、そんな当惑がトヨタにはあるだろう。戦い方が一変したのである。
かつて世界のエクセレント企業と言われた日本のメガ企業は欧米を相手にして相撲をとっているつもりが、いつの間にか新興国を含んだバトルロイヤルになっていて、当惑している。ゲームのルール、競争戦略が一変したことに適応できない。日本が沈み、世界は夜明けというのは、文字通り、地球が回っているからだ。経済もその通りになっている。経済学者の流儀で一口に言えば<構造変化>が起こってしまったわけだ。
そういえば、数日前に古い本をパラパラめくっていると面白い下りを見つけた。猪瀬直樹氏の「続・日本国の研究」だ。『菅直人はプリンスである。小泉純一郎もプリンスである。河野洋平は元プリンスだった・・・』1999年出版だから12年前の本である。そんな時代もあったのだなあと思った。
報道で伝えられる管政権の政治がどことなく現実とマッチしていない、独り相撲の印象を与えるのは、まさにかつて首相がプリンスであったためではなかろうか。そう思う昨今である。そう思うと、小生にはよく政局のことは分からないが、やはり大震災後の今の灰カグラの中から主役として登場するのは新しい人物でなければならないと思う。

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