2011年5月4日水曜日

競争をするべき時と避ける時

北海道のゴールデンウィークは冬と春の間である。花はまだ何も咲いていない。私の住んでいる町で桜が咲くのは連休明けである。桜が咲くまでの北国は雨と霧の一月だ。

今日は一つトランペットでも吹くつもりで一席ぶってみたくなった。戸外は霧雨が降って何となくフラストレーションを感じているせいもあるのだろうか。

ビジネススクールで「ビジネスエコノミックス」などという授業を聴くと、まず登場する話題は顧客価値。そして価格。それと差別化だ。この差別化をめざす発想が私は最近気になって仕方がない。

作っている商品ががコモディティ化してしまって、競合企業の製品と同列に扱われてしまえば、安い方が売れるに決まっている。

というより、同じものなら相手企業よりも安く販売して顧客を奪う誘因が自社側に生じる。それを我慢して共存共栄に徹すればそれはそれで正解なのだが、相手が輸入代理店ともなれば仁義なき戦いだ。

自作自演の安値競争はこうして始まる。終わりのない消耗戦の中、利益は果てしなく減る。これは運命と言ってもよい。ついでに言えば、経営学者と経済学者の意見が最も対立するのは、上のような状況を良しとするか、最悪とするかという点である。

こうなるのが嫌なら自社製品は他社とは違うのだ。これを訴えるのが一つの方法だ。相手に勝つのではなく、オンリーワンを目指すのです、な。そうすれば、一度、顧客になってくれた人は高いからと言ってすぐに離れることがなくなる。そこで自社にとって、最も儲かる価格と出荷量をこちらから選んでいくことができる。値上げ戦略すら実行できるようになる。これが差別化、つまりはオンリーワン戦略なのである。

しかし、この戦略、本質的には競争回避策なのである。こちらが競争を避けるのだから、相手から見ても有り難いわけだ。つまりは共存共栄。ティロル・フューデンバーグの分類でいえば、競争を避けお互いに協調的高値を楽しもうではないかという<デブ猫戦略>に該当する。実際、日本の政府は大赤字、家計も貯蓄を減らす一方、企業ばかりは貯蓄超過でカネを溜めている。何か晩秋の小春日和のようで居心地がいいのですね、この戦略が成功すれば。

よくいえば顧客に密着した多品種少量戦略なのだが、叩き合いを避けて、ほどほどの低下で我慢する弱虫の作戦と評されても仕方のないところがある。いつもこうやっていると、外国企業が拡大投資を行って稼働率を意図的に抑えると、さては新規参入か、顧客略奪で来るかと怯えることにもなる。実際に参入されてくると「成長市場」に資源を集中するとかいって競争もせずに撤退する。

AppleはiPhoneを多様化していますか?どんどんグレードを増やしていますか?iPadをどんどんマルチラインにしていますか?

ここにコンビニAがある。商店街の真ん中だ。この商店街に同規模の店舗をぶつけたい。どこに開店するべきですか?競争を避けるなら商店街でなるべくA店と離れた場所だ。しかし先行したA店が一番いい場所を占めているのだから、競争を避けていては勝てっこないのである。

正解はA店の真ん前。同規模なら十分勝てるチャンスはあるし、まあ市場の半分をとることを目標にすればいい。これがホテリングの立地モデルだが、競争を正面から挑むのが正解というケースは他にもある。戦いを避けるのが一見合理的だが、実は時間とコストをかけて必ず相手を叩きつぶす方が長期的には正解であることは多い。

いまTVでガラスペンの名職人である佐瀬工業が登場していた。すごい名作を作っているらしいが、惜しいかな技術を伝授することが難しいし、大量生産にも向かない。何だか職人技に頼って生産拡大への隘路に陥った名機ゼロ戦を思い出した。

世界市場を攻略するには、もちろん差別化もよい、名作を作ればよいのだ。ファンはいつでも有り難いものだ。しかし現状を破壊する新たな標準化を目指して、その製品を大量に生産して世界に普及させる、そのための能力拡大投資を決然と実行する。これが勝利の方程式ではないのか。競争を避けて生き残るための戦略ではなく、グローバル市場を制覇するための戦略を日本の企業は本気で考えているのだろうか、そんな思いがあって仕方がない。

顧客に受け入れられるかどうか、過剰設備に陥る、円高リスクが怖い等々、本当に『世に心配のタネはつきまじ』。しかしヒュンダイもサムスンもリスクを覚悟でやっている。Appleもそうだ。Googleもそうだった。マイクロソフトはどうでした?ソフトバンクもそうだったでしょう。カローラは、ヴィッツは、プリウスは?戦う相手をみて怯むのは最初から勝てる企業ではない。

勝てるチャンスがない時には、相手の優越を認めて真似をすればよいのである。競争を覚悟して消耗戦を勝ち抜けばよいのである。それだけのカネは持っているはずである。一人当たりGDPはドル為替レートベースで日本は韓国の2倍もある。高い高度を飛んでいるのは日本である。持久戦には勝てる。勝ってから価格を上げればよいのである。勝った後、ライバルはもはや攻撃的拡大戦略に訴えては来ないだろうから。

(追伸)本当は投資家が企業内に溜まっている金を配当するように圧力をかけるべきなのだ。そうすれば投資機会が枯れ果てた既存産業から伸びしろのある成長産業に資金が流れていくのだ。投資家は日本の産業を甘やかしているというのが小生の感想だ。外国から資金を借りればこんな風でおさまるはずはない。ま、この話題は別の機会に議論したいと思います。

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