2011年6月25日土曜日

リンク集 ― もはやリーマン危機後ではない?

アメリカの中央銀行に相当するFRBの金融政策、経済判断が、このところ注目の的である。その判断をめぐって政策論争につながっている。財政再建と経済回復とのバランスをどうとるか?結局はこれにつきる。この点ばかりは日本と世界に何の違いもない。

いま世界中の論調を調べて、整理しているところだ。


主犯は今回も石油価格。最近はガス価格もメインプレーヤーだから、エネルギー価格全般と言ってよい。

New tools for forecasting the real price of crude oil(Voxより引用)

曰く:
The real (inflation-adjusted) price of crude oil is a key variable in the macroeconomic projections generated by central banks, private sector forecasters, and international organisations (IMF 2005, 2007). The recent cutback in Libyan oil production, widespread political unrest in the Middle East, and ongoing concerns about the state of the global recovery from the financial crisis have sharpened awareness of the uncertainty about the future path of the real price of crude oil. It seems surprising that, to date, no studies have systematically investigated how best to forecast the real price of oil in real time. 
エネルギー不安とエネルギー価格の乱高下、それと財政赤字に支えられてきたリーマン危機後の経済回復、その継続可能性への不安。つまり手詰まり感がもたらす漠然たる不安が今年春先から世界に広まった。日本では東日本大震災で世界経済どころではなくなり、目が外には向かなかったという面がある。

その石油価格がピークアウトしたのではないかという状況があり、それをまたどう評価するかという議論にもなっている。アメリカは百家争鳴だ。

財政赤字の拡大と国債残高の対GDP比上昇は、いずれ財政支出の急激なカットを余儀なくされることになり、国民経済のギリシア化を招く。だからリーマン危機からの出口戦略を探るタイミングに来ているというのが一つの立場だ。その立場にたつと、財政健全化を徐々に進めていくべきであるという政策になる。が、反対の立場にたつと、それは時期尚早であり、まだポスト・リーマン危機ではないという現状認識をとる。財政政策をもっと積極的に進めないと1937年危機の二の舞になるという判断になる。1929年の株価大暴落をきっかけに世界大恐慌に陥ったが、そのパニックは1933年に底を打った。ところが財政健全化を急ぎすぎて1937年に再び危機に陥ったという痛い経験は、折にふれ話題になっているのだ。

そこでExpansionary Fiscal Contraction(拡張的財政緊縮)という発想となる。が、狙いはともかく短期的には需要抑制政策となる。下はそれに対する意見。

Short-Run Deficit Reduction is *Not* Expansionary(Mark Thoma, Economist's View)
And Policymakers Are Proposing to Withdraw Stimulus?(econbrowser)

何となくFRBが議会とホワイトハウスに押さえこまれてしまった様子すら伝わってくる。

それに対して、

The Two Year Anniversary of the Non-Recovery(J. B. Taylor, Economics One)

テーラーは基本的にはケインジアンなのだが
Today the Joint Economic Committee of the Congress held a hearing on whether a credible plan to reduce government spending growth would bolster or hinder the recovery. I argued that a credible budget strategy would strengthen the recovery, by removing the threats of another fiscal crisis, higher taxes, higher inflation and higher interest rates・・・
のように、財政健全化が与えるプラスの恩恵を高く評価する見方をとっている。

かと思うと、イギリスのファイナンシャル・タイムズでは

America’s misunderstood hero: the federal deficit(Martin Wolf, Economist's Forum)

ここでのポイントは、
Many opinion leaders claim: “America is on the road to becoming the next Greece or Ireland,” “The deficit is destroying our children’s future,” or “We need to sharply cut the deficit now before it’s too late.”
All wrong!
同じことはクルーグマンも言っている。

The Triumph of Bad Ideas(Paul Krugman, The Conscience of a Liberal)
And yet in the political domain Keynesianism is seen as discredited, while various forms of crowding out/austerity is expansionary talk, which have in fact totally failed — look at interest rates! — have become orthodoxy.
このように、最近のアメリカにおける論調に怒りを表明している。

こんな風に専門家の論調が分裂してまとまらない場合、日本では世論調査結果なるものが、すぐに報道される。日本では報道各社が競うようにやっているが(とにかく、簡単にできて、アピールしますから)、アメリカにもあることはあるのだな、世論調査が。ま、世論調査発祥の国であることを忘れてはならない。


ブルームバーグ社が実施している世論調査の結果によれば、バーナンキ議長への信頼がこのところ低迷しているよし。量的金融緩和(QE2)終了後の見通しを的確に示せない。不確実性が高まっている中で方向性を示せない。この辺りの事情は、日本ともあい通じるということか。

ひるがえって日本では、「社会保障と税の一体改革」で民主党内がまとまらない(まとまりきれない)。政府原案は「消費税率を2015年度までに10%まで引き上げる」なのであるが、どうにも結論が出ない。「経済が好転するまではダメ」、「歳出圧縮を優先せよ」。この二つは反対論ですな。「財政再建は急務でしょうが!」これは賛成論だ。

アメリカのエコノミスト層は日本とは比較にならず分厚い。1年間に発表されるワーキングペーパーなどは数え切れず、全部を合わせると内容は玉石混交だが、非常にハイレベルの成果はそれこそ山のようにあって、データ分析の裏付けで困ることはない。アメリカでも、財政赤字をこれ以上拡大することが、国民経済にとってプラスになるのか、マイナスになるのか、評価がまとまらない。ここが実験ができず、過去の経験が現在に当てはまるわけではなく、計画の成否は事前確認抜きのぶっつけ本番という社会科学特有のリスクとなる。失敗すれば経済学への信頼をなくし、単なるグッドラックで成功した場合には、今度は過剰な信頼を得る。その意味で、アメリカ政府の次の一手には大変興味を感じているところだ。

日本の財政は、数字は危機的だが、外国の債権者からプレッシャを受けているわけではない。日本の政策論争が収束しないのを見るにつけ、アメリカの専門家がまとまれないのだからなあ、日本で結論を出すのは難しいよ・・・・と、小生などは妙に納得もしてしまうのである。

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