2011年7月7日木曜日

総理突出、これは破壊か、創造か?

本日の日経、手にとるとヘッドラインが目に飛び込んできた。

「原発、今夏の再稼働困難 ― 首相一転、安全宣言を撤回」、海江田経済産業大臣は、またハシゴを外されてしまった。首相と直接面談を希望していた佐賀県知事は態度を硬化。どうやら、この夏の原発再稼働はあり得ず、今後、定期検査に入る原発があることを考えると、この冬から来年春にかけての日本国内の電力危機、パワークライシスは現実のものとなる気配になってきた。

う~ん、なってきましたねえ、危機がやってきましたねえ。
そんな呑気なことを言っている人は、危機が現実になると言うときの現実がピンと来ているのか、と。ま、分かっていて、それもいいじゃないか、と心底から思っている人は、総理シンパじゃないかと想像します。

同じ1面には、三井物産と東京海上アセットが太陽光投資ファンドを設立するとの記事。その上には、経産省幹部による株式インサイダー取引疑惑のスクープ。「とうとう、やったな」、しかし売買したのは東電株ではない。想像するに、東電株不正取引は切り札にとっているのであろう。対象は半導体メーカー・エルピーダ株だ。政府がリーマン危機後の支援策を公表する直前に株を取得していたという疑惑である。

あるわなあ、そりゃ。ツイッターの場でも東電救済劇とお上公認のインサイダー取引奨励劇が同時進行で進んでいると何度も書いた。疑惑を受けているキャリア官僚は、資源エネルギー庁前次長である。IT産業を所掌する商務情報政策局担当の審議官を歴任し、現エネルギー基本計画で一層の原発推進が提唱された直後、昨年7月にエネ庁次長に就任したとのことだ。明らかに経済産業省主流派のホープである。

海江田経産相は新規原発については原子力安全委員会の意見を諮問するが、再稼働の場合はその必要はないと判断し、安全宣言を出す際にも総理と事前協議を行ってなかったよし。担当大臣のこの行動が、経産省事務当局の判断を踏まえたものであることは自明である。

総理が経済産業大臣のハシゴを外したことと、幹部のインサイダー取引が表面化したことは偶然ではない。

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昨日の投稿では、「組織の進化を実現する主体は、既存組織の突出した部分である」ことを述べた、というより名著「失敗の本質」の結論部分を紹介した。菅総理大臣は、自らがそのトンガッた部分になろうとしている。もはや総理の政略ははっきりと眼に見えるようになったと言えるのではあるまいか?

チキンレースと言ってしまえば身も蓋もないが、ちぇすと~で発する薩摩示現流とでも言うか、犬死覚悟の特攻攻撃というか、まさに激突覚悟の抜刀突撃である。総理自ら、こんな行動に出るだろうと、与党、野党のどの議員が事前に予想していたであろうか?同じ船にのっている細野大臣は一蓮托生と腹をくくっているのだろうかなあ?

辞めると言いながら辞任しない行動を「嘘をついている」と言うのであれば、その人は政治家ではなくて、政界に縁のない普通の人である。辞任しないための政略であったわけであり、泥をかぶった小沢、鳩山氏は政治的に「暗殺」されたようなものではないか?

そこまでして、何をやりたいのか?

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それが退陣3条件の中の再エネ法案ということになるのだろうが、それなら何故もっと早くそれを言わなかったのか?

現行のエネルギー基本計画は昨年6月に公表されている。そこでは
2030 年までに、少なくとも 14 基以上の原子力発電所の新増設を行うとともに、設備利用率約 90%を目指していく。これらの実現により、水力等に加え、原子力を含むゼロ・エミッション電源比率を、2020 年までに 50%以上、2030 年までに約 70%とすることを目指す。
と記載されている。このエネルギー基本計画を了解し公表したのは、政権発足直後の菅総理である。今後、審議されようとしている電力固定価格買取制度創設は、上の基本計画に基づいて作成された法案による。再生エネルギーを拡大することは、既に提唱されているのだが、柱はまずは原発に置くというのが、現行のエネルギー基本計画なのだ。

自分としては認めたくなかったエネルギー基本計画であった可能性はある。とはいえ、長く政権にいたいので、個人的には改変したい計画を認めておいただけなのかもしれない。それを今は否定し、政府のエネルギー計画はゼロに戻って見直すと何度も発言している。と同時に、脱原発を唱え、再エネ法案を通そうとしている。通せば辞めると言っている。

どうも一連の言動と急変を見ると、言いたかったことをやっと言い出し、自爆覚悟の特攻戦略を選んだ。どうも、そんな風にも見えるのですね、小生には。そのために先ずは経済産業省の既存勢力をひっくり返す行動に出たのではないか?

そもそも経産省は電力市場自由化、強大化しすぎた東電の弱体化を省の方針としている。とはいえ、現在の電力体制を覆そうとまではしていない。それは省益に反するからだ。それは官僚組織に共通のグラジュアリズム(=漸進主義)なのである。それを総理は弥縫策として否定し、ここで一挙に脱原発、電力発送電分離にまで持って行こう。総理の狙いは今や明確な形をとりつつあるではないか。

だとすれば、小生は先日にも予想したとおり、やはり政界、経済界、国民を真っ二つに分断するエネルギー選挙を、総理が仕掛ける確率は相当高いと思うのだ。

聞けば自民党の谷垣総裁は、歴代自民党政権による原発政策を再検討しているよし。遅い!菅総理は、自民党の態勢が整うまでノンビリと待つ意志はないと想像する。自民党もまた、原発推進派、自然エネルギー拡大派に分離するベクトルが働く。何故なら、総理が自らの敵を原発派と呼んで攻撃を仕掛けるとき、第一に被災地の現状がある。第二に、核アレルギーの底流がある。第三に、政権には基本的に従う日本の大手マスコミがある。メディアは、自然エネルギー派を支援し、原発推進派には冷淡な態度をとるだろう。国民もそんなメディアを追認するはずだ。

既にソフトバンクは定款に電力事業を追加した。楽天は現行の電力政策に異論ありとして経団連を脱退した。

節電や計画停電に困り果てている国民に「だから原発を維持するしか仕方がないのですよ」というか、「地域地域で小規模な自然エネルギー発電設備を持とうじゃないですか?それを電力会社が持っている電線で配電しようじゃないですか?」というか、どちらの言い分を国民はとるであろうか?小生は、もう今の現状を見るだけで、このガチンコ勝負。勝負は明らかではあるまいかと思うのだ。

この一連の政争劇が、日本の社会組織、産業組織が本当の意味で進化するステップであるのかどうか。そこまではなお明らかではないが、自己変革は組織内の主流派が行うものではない、異端派がなすことである。これが一般的にいえることなのであれば、いま現実に見られる日本の政治状況は、かなり典型的な進化現象であるとも思うのだ。

残る話題は、と。原発をどうするかですね?ずっと停めてしまえば、民間企業はその無駄に耐え切れず、放り出します。それを国費で安く買収すれば日本原子力発電公社を作れます。必要とあれば、国が国の責任で原発を行うことになるのではありますまいか?

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最後の残る疑問。海江田経産相は、憤懣に堪えずケツマクッテ、大臣を辞任するのだろうか?それとも総理になおも従っていくのだろうか?(投稿時点、この点について情報を得ておりません)

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