2011年8月2日火曜日

円高介入を正当化する論理は何か?

市場のことは市場に聞いてください。通貨・金融当局の責任者は常にこう言っている。為替相場もそうである。

円の対ドルスポットレートが、今日、どのような水準になるか、それは市場に参加する主体が自由に判断して取引するべきで、その大勢から相場が決まってくる、それが理想であって、当局の思惑から特定の相場を維持しようと市場に介入すれば、かえって不適切な為替相場を導く原因になり、経済にマイナスの影響を与えるし、しかもまた当局の本音が伝わらず、市場の乱高下をもたらす可能性すらある。

要するに、当局の介入に何も良いことはない。それがオーソドックスな経済学の標準的理解であって、市場介入のセオリーなど統制経済ならいざしらず、そんなものはない。そのように小生は理解してきた(国際金融の専門家ではありませんけどね)。

にも関わらず、日本では円高になると政府・日銀による市場介入が常に期待される。「市場はしょっちゅう間違うのだから、政府が正しい方向に導く必要があるだろう」、まあ以前はそんな風に考えられていたような気もする。現時点では、介入をするにも、もう少し意識が違ったものになってきているとは思うが。

アメリカの債務上限引き上げにケリがつき、外為市場もドル高に振れ、株式市場も上に振れたのだが長続きしない。今度は、アメリカ国債の格下げが心配になってきたというのである。

やれやれ・・・格下げくらい予想できていたのではないですか?そのくらい、織り込んでおきなさいよ、確実なんだから、と。本当に金融市場は情報を効率的に処理している<効率的市場>なのですか?そう思ってしまいます。

下は円の対ドルスポットレートのグラフである。月中平均をとった。青い点線は、日本と外国の物価で修正した実質レートである ― 日本がデフレ、外国がインフレなら、外貨建ての日本製品の価格は上がってしかるべき、つまりレートは円高にならないといけない。レート一定なら、実質的には円安になる。実質レートは日本製品の真の競争力を示している。

(出所)日本銀行「各種マーケット関連統計」サイトで作成

図をみると、名目レートには一貫して円高(目盛りは逆目盛りで上が円高を表す)傾向が認められる(本日追加:赤の実線、左目盛、逆目盛)。名目レートを、たとえば日本の通貨当局の思惑で一定方向へ誘導するなどは、所詮無理なことであろうというのは、上の図のありようからも分かると思うのだ。

そもそも為替相場の決定に当局が介入したところで、(統計的に有意な)影響を及ぼせるとは考えられない。

実質レート(本日追加:青の点線、右目盛、順目盛)を見ると、2000年代に入って実質円安の傾向が続き、日本製品の国際競争力は一貫して改善されてきたこともわかる。実質円高へと方向が変わってきたのは、ごく最近である。それでも1990年代に直面した状況に比べると、まだまだ実質円安である、という点は否定できない。

それなのに、何故にいま緊急市場介入なのですか?日本経済新聞には<円急騰、緊急対応へ>、「政府介入を準備」、「介入、米も容認姿勢」。まさに出動要請をしている観がある。う~~ん、正に財界本流支持メディアの面目躍如たるものがある・・・

ロイターでは
[東京 2日 ロイター] 野田佳彦財務相は2日午前の衆院財務金融委員会で、外国為替市場で円高が進行していることについて、米債務上限引き上げ問題など対外要因によって「思った以上に強く評価されている。日本経済のファンダメンタルズを反映しているとは思えない」とし、「特に今日は市場動向を注視したい」と語った。
為替介入については「コメントしない」としたが、日銀や各国通貨当局とコミュニケーションを「しっかりとっている」と語った。茂木敏充委員(自民)の質問に答えた。
また、野田財務相は、赤字国債発行の前提となる特例公債法案が成立しない場合に予算執行が困難となるタイミングについて「10月にその危険性が極めて高まる」と述べ、「そういうことにならないよう、今国会中の(法案)成立が大事だ」と理解を求めた。
溢れかえるような危機感はないようである。どちらかと言えば、淡々と伝えている。数字としては、特に「未曾有の国難」とは、とても世界に向けては言えないなあ・・・数字はそんな数字だ。

ただ、当局の市場介入が正当化される場合もあると、最近小生、考えるようになった。というのは、マネーの投機をどこまで許容するか、である。

<市場>が信頼されているのは、適正な価格を探しだして、その価格を低コストかつ効率的に市場で成立させることによって、社会経済全体の円滑な運営に寄与するからに他ならない。だから、個々の取引に政府が権力的に介入することは有害だと見なされる。

しかし、最近目立つ現実は、マネー増殖を願う投資家が新興国の株式市場に乱入したかと思うと、石油、その他の資源、農産物を対象に投機売買を行う。そこで市場価格を乱高下させたかと思うと、今度は石油市場からは逃げ、金に向かう。そうかと思えば、今度は円通貨を買う。マネーが奔流というか、暴走族のように流出入する。それに伴って経済の実態たる市場価格は激しく変動する。価格変動を激化させること自体、リスクの高まりをひき起こしている。ここだと思うのですね。

下の図は、円の対ドル・スポットレートの対前月比を描いたものだ。目盛りは逆目盛りで上がマイナス、下がプラスである。平均線を水平に引くと、少しマイナス側に引かれる。これは数字としては、レートが低下する、つまり名目レートは長期円高傾向にあったことを意味している。


図をみると、1980年代半ばのように激しくレートが変動した時期があったかと思うと、それほど変動しない平穏な時期が交代してきていることが分かる。ただ、ずっと横にたどると、この期間は変化率がプラス、この時期はマイナスという風に、「円高の時期」、「円安の時期」が明瞭に現れているわけではない。

小生が思うのは、通貨当局は<高さには無力>だが、<ばらつきを抑える力はある>。そんな風にもみてとれるのですね。言い換えると、通貨当局の介入は、速度制限をあからさまに無視した悪質な暴走車を抑えるくらいの効力はある。それで十分ではないか。暴走を抑制するだけで状況はうんと改善される。そんな見方をするようになっている。

これは不必要なリスクを消し、金融機能を健全化し、事業投資の冷え込みを回避することにより、経済の実態にプラスの貢献をする。このロジックはありうると思う(データに基づく検証は必要だが)。このような市場介入は、価格水準に対する介入ではないし、いわば暴走の取締り。誰はばかることなく、大いにやってほしいのである。

今日は久しぶりに日本経済新聞シンパの意見を、結論としては、述べることになった。

0 件のコメント: