2011年8月10日水曜日

日本の脱原発は世界で好感されているか?

今日のタイトルは必ずしも適切ではないかもしれない。本当に総理自らが唱える自然エネルギー重視路線が、日本のエネルギー戦略として採用されるのか?色々な国が期待をもって、というか虎視眈々と、あるいは嬉々として、更にはまたハラハラとしながら、日本を見ている。そんな所ではないだろうか?

Wall Street Journalの日本版だが、「日本の脱原発 ― 避けられない国民的議論」というコラム記事が掲載されていた。要点は次の下りからも推察されよう。
温室効果ガスの25%削減に原発停止とくれば、どんなに準備万端のプランナーもお手上げだろう。しかし、この2つの発表は、2人の異なる首相によって、明らかに事前準備も通告もなく、即興で行われたようだ。
それだけでも、日本政府に対する内外の信頼を揺るがすには十分だ。実際、今週の報道は、日本のエネルギー政策が経済活動と世界のエネルギー市場に及ぼす影響について、より具体的な説明を米国が日本に求めたことを示していた。
エネルギーは、今後10年、日本経済を論じるうえで焦点となる可能性が高い。政治的迎合でも空想の飛躍でもなく、真剣な国民的議論が必要だ。日本の将来は、いかにこの議論を最後まで貫くかにかかっていると言っても過言ではない。(7月29日18:46配信)
鳩山首相による温室効果ガス25%削減も、菅首相による脱原発宣言も、何か根拠があって提示した政策ではなく、時の総理大臣の「個人的思い」なのでしょ?そう言いたげであって、そんな即興的なコメントは政策方針という名には値せず、「それだけでも日本政府に対する内外の信頼を揺るがすには十分だ」と書いている。ここまで言えるのは、やはり日本版とはいえ外国紙だからである。この一点だけでもウォール・ストリート・ジャーナルが日本版を出してくれているプラスの価値がある。本国版と日本版とではポジションに違いがあるが、端的にいって、この目線は世界どの国をとっても、いま共通ではないかと思うのだ。「一体、日本は何をどのようにしようとしているのか?」、それを外国は聞きたいと希望していると思うし、日本は海外との取引を通して、現在の豊かな暮らしを実現しているのだから、いま考えている行動計画を広く説明する責任がある。この点は、誰もが同感すると思うのですね。

上に引用した箇所の前の部分を読むと、日本を破壊するようなエネルギー戦略を、日本人自らが選択するということが、ありうるのか?そんな懸念が伝わってくる。
 菅首相の行動は、福島原発事故に対する国民の怒りを受けたものだろう。しかし、原発が停止された時、相当量の代替供給を見つけられないとしたら、首相、もしくは次期首相はどう対応するのか。さらに多くの計画をもってしても、日本の蒸し暑い夏を乗り越える家庭の電力需要は満たされないだろう。
その代替シナリオとは、日本が、世界のエネルギー市場で石油・天然ガスの調達を増やすことだ。それは、世界のエネルギー価格を押し上げるだけでなく、輸入原油への依存度を減らしてきた日本の長期的傾向を覆すことになる。企業とエネルギー会社は、エネルギー効率向上の目標にはおかまいなしに、どこであろうと供給確保に素早く動くと思われる。
この結果、日本の消費者にとってエネルギーはさらに高いものとなるだろう。政府はすでに、電力会社による代替エネルギー買い入れ費用を負担するため、消費者負担につながる補助金の上乗せについて検討している。こうしたことで消費財価格は上昇し、予想される原油価格の上昇とともに、一層の内需が必要という時に個人消費を圧迫する。と同時に、それは、急激な円高がすでに輸出企業の痛手となっているなかでの、海外での日本製品の価格上昇を意味する。(出所:上と同じ)
大震災以降、産業界で進展したサプライチェーン再構築は本当に信じられない程のスピードだった。民間部門は、常にライバル企業との競争裏にあって、自らの組織と活動の最適化を求められている。だから、経営の真の目的が<企業の存続と成長>にあると、一度び目的関数を定めてしまえば、どんな条件、どんな変化の中でも、次に下すべき意志決定はロジカルに決まってくるものなのである。東日本大震災と原発事故、そして電力危機という激烈な環境変化に対しても、日本経済の生産システムは、強靭な復元力を失ってはおらず、現場が優秀であることは昔とほとんど同じである。だとすれば、日本国がどんなエネルギー戦略を選択するにしても、日本企業はしっかりと対応する。改めてそう思うのだ。

しかし、・・・ビジネスは、詰まるところ、<何を>、<どこで>、<誰のために>、<どのように>売るか?これだけである。経営戦略はこの四点を考えている。日本企業は、<日本人の求める商品を>、<日本で>、<日本人のために>、<日本の雇用を維持するように>生産する。そんな風に経営されるとは限らない。それは条件による。資本の利益と国民の利益は一致することもあるし、対立することもある。そういうことだろう。

日本が、脱原発路線を化石燃料による代替で進めようが、自然エネルギーの拡大により進めようが、電力価格は上がる ― 税金を企業への補助金に回せば電力価格は低水準に維持できる。しかし、それは家計が極端に高い電力価格を引き受けるのと同じだ。

電力価格上昇は、日本企業には不利、他国のライバルにとっては有利に働く。しかし、東アジアなど周辺国に日本企業が移転をするに伴って、日本国内のエネルギー需要圧力は和らぐ。同時に、東アジアに移転した日本企業は、当該国の低電力コストの恩恵を受ける。周辺国のライバル企業にとって、これはマイナス要因に違いない。しかし、優良な雇用機会が増える当該国政府にとってはプラスであろう。全体としては日本企業の海外移転は、日本企業の株主にはプラスであり、従業員にはマイナス、相手国の雇用者にはプラスであり、ライバル企業にはマイナスに働く。移転した企業とは関係のない一般的日本人にとっては、エネルギー高価格から解放された日本企業が海外から輸出する低価格商品の恩恵を受ける余地が生まれる。電力市場への需要圧力が緩和される。周辺国では参入した日本企業に資源が振り向けられる。日本では流出した部門から新興産業に資源が振り向けられる。経済の重心が移動するわけだ。それが関係国にとってプラスかマイナスか、よく考えないけといけない ― 小生自身は新しいことが好きですが。

電力価格上昇と製造業海外移転の目先の影響だけをとっても、効果が効果を生み、波及が波及を生む。もちろん、日本の高い電力コストを避けて海外に移転する企業があるのであれば、高い電力コストがさほど不利にならない外資系企業が日本に流入する。そうでないと、出るばっかりじゃあ、日本も苦しいはずだ。技術が外に出るなら、日本も外から取らないと。

今月2日に宮城県庁を訪れたシュタンツェル駐日ドイツ大使と話した村井知事は次のように語ったと報道されている。
村井知事は「県の復興計画には自然エネルギーの活用促進を盛り込んだ。風力やバイオマスなどドイツ国内の取り組みを先行事例として参考にさせていただきたい」と話した。
大使はこの日、ドイツ製のバイオマス発電機械を導入している仙台市泉区の産業廃棄物処理業「新興」を視察。東北大の川内キャンパスも訪れ、学生向けに講演した。(出所:河北新報08月03日付け)
 日本が、3.11の大災害をきっかけに進める産業再編成が、周辺国には技術と資本の波となって浸透していくだろう。アメリカもドイツもその波の中にビジネスチャンスを見つけようとしている。その他の国の目線も一様に同じであろう。
 

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