2011年8月25日木曜日

金投機犯=経済暴走族と考える理由

金価格が反落した。上がったものは下がる、の当然の理屈だ。

日経WEB版から引用すると、次のように報道されている。
高騰を続けていた金価格が急落した。ニューヨーク先物市場では24日、中心限月の12月物が前日比104ドル安の1トロイオンス1757.3ドルで通常の取引を終えた。下落率は5.6%と2008年3月以来、下げ幅としては現物価格で850ドル台の高値からころげ落ちた1980年1月以来、31年ぶりの大きさという。先高観は根強いとはいえ、最近の高騰がいかに過熱していたかが分かる。(出所:日本経済新聞、8月25日14:45配信)
1日の下落率としては31年ぶり。株価、商品市況は、大きな下落率が実際に発生すると、それが与件となって、以後の価格変動も拡大される。一定期間ごとに静穏な時期と値動きが荒い期間が交代し、ボラティリティ・クラスターが形成されることが知られている。金市場においても、今後は荒い値動きが続くだろう。ということは、さらなる暴騰も暴落もありうべし、ということだ。

金価格は1990年代は低価格安定。2000年代に入ると、にわかに上昇を始め、10年間で約4倍の水準にまで高騰したが、その間の上昇軌道は比較的安定していた。その背景には新興国による安定した需要があったのだが、今回の激しい金価格変動をもたらした主因としては、例によって投機マネーの存在が示唆されている。
このところの相場高騰で一番謎だったのは、いったいだれが買いの主役なのかということだ。中長期の上昇トレンドを支えるのはインド、中国といった新興国の買いだが、こうした買い手は高騰相場を追いかけない。今回のような調整局面、いわゆる押し目を拾うのがアジア実需勢の習性だ。相場の底上げはしても、上昇を加速する買い手ではない。

一方、ニューヨーク先物でヘッジファンドなど非商業部門の大口売買動向を見ても、直近発表の8月16日時点まで2週連続で買越残高は減少している。むしろ、ここ3週間は売りポジションが増えており、「目先の相場下落」に賭けていた。これらから推定できる“買いの主役”は宵越しのポジションを持たないような超短期売買の投機マネーだ。
これだけ高くなると、当然、空売りを仕掛けたくなる。当たり前だ。とにかく高いうちに売っちゃおう、と。安くなってから金を調達して返済すればいい、と。映画「エデンの東」でもジェームズ・ディーンがやっていた。「こんな汚いカネが受け取れるか」と、父親から拒否されていましたね・・・映画では暴騰を予想しての行為だったが、同じ投機である。空売りではないが、日本の貴金属取扱い業者にも手持ちの金地金とか、金細工品を売却のために持ち込む人が増えていたというから、もはや急落することは目に見えていたわけである。下がる可能性を意識する人が出てくるだけで、バブルは必然的に崩壊する。

実は、小生も金地金を買うつもりでいた。それは、あくまでおカネ(=マネー)としてである。日本国債の暴落、日銀による買い支えが、物価上昇をひき起こすためだ。いま小生を含めて、誰もが知りたいのは、暴落のあとは暴騰で元に戻るか、さらなる続落となって一挙に金バブルが崩壊するか。その辺であろう。普通に考えれば、一度は既往ピークに戻って二つ山を形成してから、後はジグザグと下落していく。そんなパターンになると思われるのだが、まあ、色々と思惑が入り乱れているはずである。

こうした予測は<チャート分析>であるが、予測の定番であるARIMA分析を行ってもよい。計算はまだやってない。90年代、2000年代、直近まであるデータのどの範囲を対象にして計算するかで結果は随分違うはずだ。


日経に示されていた上のグラフ ― 本年7月以降の日次データ ― を見ると、1750ドル/オンス程度までは当面下がるような気がするが(追加23:20→実際、報道のとおり下がったわけでもある)、8月15日付け投稿で使った月次長期時系列を対象にすれば、今後1年くらいの間に1200ドル/オンス程度まで下落するのではないかとも思われる。但し、2000年代以降の価格上昇が確定的なものと考えてよいなら、傾向としての上昇傾向には変わりがなく、予想は随分楽観的なものになるだろう。正しい予測というものは(理屈からして)ない。

ま、計算は気の向いた時にやるつもりだが、金投機もまた通貨投機と本質は同じである。ここがポイントだと思うのだな。金価格が急上昇するというのは、商品価格が急落するのと同じである。金を基準とした一般的な商品デフレ率が、激しく変動するという状況は、金自体がリスク資産になっているというよりも、つまりは物価の不安定。金以外のその他の商品、金融証券及び各国のマネーが、ハイリスク商品になっているのと同じだと思うのだ。

国債は、本来、無リスクの金融資産のはずだ。ところがギリシア危機、アメリカ国債格下げの後、国債どころか、ある国のおカネを持つことさえ、「ひょっとすると財産を失ってしまうのではないか・・・」という懸念から免れなくなった。その意味で、ドルもユーロも円もリスク資産になってしまっている。だから、金が究極のマネーになっている。というか、おカネの役を果たしている。こういうことではないか?

だとすれば、本当の無リスク金融資産とは<金建て国債>になる理屈だ。金建て国債なら、為替変動リスクもないし、「こんな国債欲しいなあ・・・」、そう思っている人は多いのではないだろうか?金を売らず、金建て国債のほうが欲しいという人はいるはずだ。しかし、これは金を本位貨幣として復位させるということになる。もしそんなことをすれば、激しいデフレーションと世界恐慌になるのは必定。世界の実体経済とパラレルに量的拡大が可能で、かつ節度なき増発からは免れることが担保されているような証券。そんな証券を利用できるなら、それは世界のマネーとなり、経済暴走族が金を買い占めて混乱するなどということはなくなる。それは世界の中央銀行にしかできない仕事であり、既存の機関から候補を探すとすれば、IMFだけであるだろう。

しかし、現実には簡単ではない。ユーロですら苦労しているわけだから。とはいえ、世界経済を安定させるには、世界の物価を安定させなければならない。その物価は世界がマネーと認める基準で測った物価である。それには、世界の本源的貨幣の管理が必要である。安定したマネーサプライの供給が必要だ。金は希少な自然資源であって、供給増加には制約がある。戦間期の金本位制の失敗を待つまでもなく、金にマネーとしての役割を果たさせることは、極めて危険である。その危険が亡霊のように見えてくる。

実態の根拠がない過剰な投機は、理由なく速度制限を超えて走る暴走族と同じである。少数の者が狂騒して荒れた雰囲気のプールになれば、そこで楽しもうと訪れた一般の客は帰るだろう。いま求められているのは、世界経済の暴走族を取締り、市場の安定化を約束することではあるまいか?

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