2011年9月12日月曜日

足もとの日本経済と世界景気

金価格の動向が毎日のようにマスメディアを賑わせている。景気の先行き不透明により金市場へマネーが流れ込んでいる。こんな言い方は、実は経済の本質を誤解させるような気もするのだが、その根拠は最近の本ブログ投稿を参照してほしい。

ともかくも7日に内閣府が公表した景気動向指数を見よう。

本年7月分の景気動向指数速報(内閣府)

内閣府では、いわゆるComposite Index(CI)とDiffusion Index(DI)の二つを作成している。それぞれ一長一短があるが、まずは主たる指標であるCIは下図のような動きになっている。

CI、2000年1月から2011年7月分速報まで

何といってもリーマン危機による深い谷が目立つので東日本大震災の影響はすぐには分からない。ごく最近の浅い低下が3月のデータ、つまり大震災のショックである。この凹みを含めて、えび茶色の一致指数の動きに示されているように、日本のマクロ経済は、昨年の春以降、巡航速度に復帰し、順調に(とはいっても構造改革が停滞しているので低成長ではあるが)拡大してきたことがわかる。3月の大震災にもかかわらず、その大きな傾向が崩れることはなかった。データはそんな形になっている。

内閣府は、直近(7月時点)における先行指数の大幅な上昇に着目しているが、昨年春以来の先行指数をみると、ほぼ水平飛行を続けていて、むしろ変動が激しくなっている。このグラフだけをみると、CIの先行指数が明るい先行きを伝えているとは言えない。

では、結局、7月、8月を経て、これから景気はどう動いていくと見ればいいのか?いまは景気後退に陥りつつあるのではないか?その判定には、むしろDIのほうが見やすい。

DI、2000年1月から2011年7月分速報まで

景気動向指数(DI)は、採用系列の中で上昇を示したデータ系列が全体の何%を占めるかという簡単な方法で作成されていて、誰でも<マイDI>を作ることができる。しかしながら、これが実に使い勝手が良いのだ。景気拡大期には概ね全データ系列が上昇を示す。だからDIは100%になる。景気の山付近では、下降を示すデータが増えてくる。はっきりと景気後退に入れば上昇を示すデータ系列が50%を割るはずである。それ故に、上の方から50%ラインを割れば、その時点が景気の山。同様の理屈で下の方から50%ラインを越せば、その時点が景気の谷であったことになる。

上の図をみると、リーマン危機に先立って2007年末には景気は山を越えていたことがわかる。この判断は各国政府の公式見解に一致している。

さて、ポストリーマン段階を見よう。すると、一致指数が50%を上からわずかに割っていた時期が最近あったことが確かめられる。それは2010年6月から10月にかけてである ― 但し、この時期、CIをみると、ジグザグしながら回復を続けていた。CIは、全てのデータ系列を加重平均した値に概念的には対応する。そのため大きく増加している個別データがあると、それに引っ張られて指数全体が増えることもある。で、最近のDIであるが、3、4、5月と9%、15%、0%と50%を割っていたが、6、7月は95、100と急回復している。DIの動きは、実感にもかなり沿っていると思うのだがどうであろう?

さて、DIの先行指数は東証株価指数などに基づいて作成されていて、景気の先行きを教えてくれる性質をもっている。それが6月時点では36%とはっきりしなかったが、7月には80%まで上昇し、はっきりと50%を超えてきている。こんな点も考慮して、内閣府は7月時点のCI先行指数の急上昇を前向きに解釈しているのであろう。

以上のように、日本国内の経済データだけを見る限り、景気の先行きはそれほど暗くはなく、むしろ7月までの数字に限れば、今後は明るくなってくると見る。それが自然な判断だ。

一方、日本経済は輸出需要に大きく影響される。世界景気の先行きを考慮しなければならないことは当然である。その世界景気だが、OECDが先行指数を毎月公表している。

OECD Composite Leading Indicators (6月分)(OECD統計局、8月8日公表)

この中からアメリカ、欧州、中国、OECD地域全体をまとめたグラフを見ておこう。
OECD Composite Leading Indicator、2011年6月まで

中国がはっきりとピークアウトしている ― というより金融引き締め中である。欧州も景気後退局面に入りつつあるのは明瞭。アメリカは微妙だが、財政緊縮への動きが表面化しているので、いくらFRBがQE3(第3次量的緩和政策)を発動しても、この先順調に拡大するかどうかは怪しいとみている。

7月までの数字に関する限り日本経済の足元は明るいと言えるが、世界景気の先行きを考慮すると、それは暗くなる前の最後の明かりになる可能性も高い。鍵は、国内需要がどれだけバンと出るかである。具体的には大震災復興需要、再エネ関連投資、原発再稼働に向けた原発安全投資が目下のところ期待できる需要だろう。

しかし、野田新内閣がテキパキと仕事をこなしていけるか、それはまだ不透明である。リスクを無視できない。

いま現在時点は、日本国内、国外とも株式投資を増やすタイミングではない。それは断言してもよいのではないだろうか。

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