2011年11月3日木曜日

死せるギリシア、生ける独仏を走らす

国家財政としても、国民経済としても、死に体にあるギリシアという一小国が、何故にこれほどまで巨大メガ経済圏EU全体を揺るがすことができるのか?

ギリシアの不健全経済の為せる結果であるが、ギリシアが不健全である原因は過剰債務にある。その過剰債務はギリシア以外の欧州主要国が貸したために生じた。それ故に、ギリシアの過剰債務は他の欧州主要国の対ギリシア過剰融資と同義である。貸すか貸さないかの判断は、借りる側ではなく、貸す方が行うので、ギリシア不安の責任の半分以上はギリシアではなく、貸した主要国の側にある、と考えるのが理にかなっている。

先週、合意された欧州包括策 − ギリシア国債の50%棒引きもその一環だが − は、見返り条件としてギリシアの財政再建を求めている。同時に、経営不安に直面する欧州金融機関を公的資金で救済する(欧州金融安定化基金=EFSF)ため、資金余剰国である中国などにもカネを出してくれと要請しているところだ。中国はカネも出せば口も出すという姿勢をとっている。これは欧州が負わなければならないペナルティになるが、貸す中国にとっても、もし依頼を断れば余剰資金の運用先に困るだろう。結果として、世界市場でカネが回らず、中国製品の販売にもマイナスの影響が出るのは必至。だから中国はカネを出すだろう。日本は何も言わずカネを出そうと既に表明済みだ。

ところが、ギリシアのパ首相がこの救済策受け入れを国民投票にかけると表明した。ドイツ、フランス、EUの首脳は急遽会合をもち対応策を協議することになった。これは文字通り<死せるギリシア、生ける独仏を走らす>というか、シッポが胴体を振っている図である。

困ったものだ。とはいえ、経済学で<市場メカニズム>という時、それが最適である根拠の一つとして<資本市場の完全性>がよく挙げられる。資本市場の完全性とは、必要な資金は市場金利の下で常に無制限に調達できるというものだ。金融工学でも資本市場の完全性はしばしば前提される。資金が市場からとれない事態が起こりうるのであれば、標準的な金融工学は理論が相当複雑になるはずだ。有名なブラック・ショールズのオプション価格公式も成り立たなくなるはずだ。市場の完全性というのは、要するに「返せると言っているのが信じられないのですか?」、「分かりました。信じましょう」、そういう状況だ。もちろん借り手のリスクに応じて、金利(=リスクプレミアム)は上乗せされる。

ギリシアは(あくまでも)返すつもりで資金を調達した。そう考えるのが自然だ。貸しておいて、急に不安になったからといって、今すぐ返せというのは理不尽だ。これはポスト・リーマン危機で目立つボラティリティの上昇、そして金への逃避からも窺われるリスク回避度の上昇のためだ。つまり先が見えなくなったので、以前の貸し手心理ではなくなったのだな。今はマネーが大事というわけである。しかし、恐怖のあまり市場が資金需要に応じないのは、<金融市場>という経済インフラとしては、崩壊している。

ギリシアが死に体なのではない。金融市場組織が死に体というべきだ。

資金不足の裏側には、それと同額の資金余剰が必ず存在する。ギリシアの資金不足があったから、資金余剰国はいま保有しているだけの資金を蓄積することができたのだ、そうも言えるのだ。資金余剰国から資金不足国にマネーが流れないことがギリシア不安の根因である。いま大事なことはギリシアを悪者にすることではない。国際的な金融市場組織を再建し、資金取引をノーマルな状態にはやく復帰させることである。であれば、金融取引を規制するような政策は自殺行為である。

標準的な経済理論を信頼するエコノミストであれば、上のような議論になるのではあるまいか?

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