2012年2月9日木曜日

世界景気の潮の目は変わるか?

株価が上がっている。年明け後、市場は妙に明るいが、本日の日経朝刊には次のように説明されている。
市場では、米景気が予想を上回るペースで回復するとの期待が浮上。7日のニューヨーク市場でダウ工業株30種平均が2008年5月以来の高値を付け、投資心理の好転につながった面もある。
欧州債務問題への懸念が後退したとの見方から、独仏など欧州株も底堅い展開だ。先進国を中心とする金融緩和を受けてブラジル、中国など新興国市場にも資金が流入している。こうしたなか「出遅れ感のある日本株にも海外投資家が資金を向けている」(大和証券投資情報部)という。(出所:日本経済新聞朝刊、2012年2月9日付けから引用)
ま、<期待>といえば、期待の上で踊っている乱舞とも評されよう。ちょっと虚しい。

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そのギリシア債務問題だが現在進行中のユーロ・グループ協議で何等かの合意に達する見込みが出てきたとのこと。ロイターでは次のように報道している。
(Reuters) - Prospects for a deal on a second international bailout for Greece brightened on Wednesday when euro zone finance ministers were summoned to talks in Brussels while Greek political leaders met to approve a tough new reform and austerity program. (Source: Reuter, Wed Feb 8, 2012 4:53pm EST)
上の情報は半日程度前の情報だ。日経WEB刊には、
【パリ=古谷茂久】ギリシャのパパデモス首相は8日、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)が求めている緊縮策の受け入れについて連立与党3党首と会談した。9日未明(日本時間同日午前)まで続いた協議後、首相は「1項目を除き合意した」との声明を発表した。仏AFP通信によると年金改革に関する項目が未解決という。協議は9日に再開し、同日夜に開かれるユーロ圏財務相会合までに結論を出す。(出所: 日本経済新聞WEB刊、2012/2/9 8:51)
とある。

合意近しとはあるが、ロイターではさらに次のような解説を加えている。
However, the leaders have been loath to accept the lenders' tough conditions, which are certain to be unpopular with voters, as they face parliamentary elections possibly as early as April. 
After a series of delays, the leaders finally received a 15-page document on Wednesday morning laying out the principles of the bailout and its conditions, a party official told Reuters. Attached were a further 30 or so pages laying out how the program will be implemented. 
The leaders will have to decide whether to push through a 15 percent cut to supplementary pensions or a combination of cuts in main and supplementary pensions, the official said. (ditto.)
最後に残ったのは<年金問題>であるようだ、やはり政治的に最も困難な項目でもめているのか。協議で合意しても、ギリシアに持ち帰ってから、本当に国民が受け入れるのか、受け入れると期待して現在の株式市場は明るいのか、それは分からない。ロイター報道の最後に次のような指摘がある。
An opinion poll on Wednesday showed that PASOK, which ruled Greece until Papandreou's government collapsed last November, has most to fear from elections. The monthly survey by Public Issue for Kathimerini newspaper showed support for PASOK had collapsed to eight percent from the nearly 44 percent it commanded when it returned to power in 2009. (ditto.)
マラソン競技の果てに<ギリシア与野党との合意>(後刻注:連立与党と報じられている、与野党というと誤りのようだ)が達成されるにしても、ギリシアに帰ってから<ちゃぶ台返し>にあう可能性はそれなりにある。関係者多数もギリシアをそんな風に見ているようでありますな。ギリシア現政権のみならず、(仮に生まれるとして)次期新政権をどこまで束縛できる合意になるのか。小生、関心があるとすれば、そこである。ま、文章にかいても、いつでもひっくり返せるが。

英紙ファイナンシャル・タイムズでは、ギリシア国内で反政府デモに参加している労働者の声を伝えている。例によって引用について厳しいのでリンクをつけておく。次は最後の下りである。
A 24-hour general strike called by unions to protest against wage cuts disrupted public transport, including ferry services, and shut down schools and government offices. 
Several thousand members of the ADEDY and GSEE labour federations, the country’s largest, staged an anti-austerity demonstration outside parliament in driving rain. A group of leftwing unionists clashed with riot police after burning a German flag outside the building. 
“We fought for two decades to get European standard labour rights and now they’re being taken away by the troika, the Europeans themselves, ” said Alexis, a 53-year-old port worker. (Source: Financial Times, 8 Feb 2012)
ギリシアのユーロ脱退が取り沙汰されているとしても当然の状況なのだが、メルケル独首相は、これまた当然のことながら、ギリシアがユーロから抜けるという結果は絶対にありえないと発言している。
Am Dienstagabend hatte sich Merkel allerdings abermals gegen einen Euro-Austritt Griechenlands ausgesprochen. „Ich will, dass Griechenland den Euro behält. Ich werde mich nicht daran beteiligen, Griechenland aus dem Euro raus zu drängen. Das hätte unabsehbare Folgen“, sagte Frau Merkel vor Studenten bei einer Veranstaltung in Berlin. Griechenland habe wesentlich größere Chancen, als es heute wahrnehme. (Source: Frankfurter Allgemeine Zeitung, 8, Feb, 2012)

日本銀行はギリシア債務問題の協議暗転の可能性を予測範囲の中に入れているようだ ― 当然のことである、確率ゼロとは言えない以上は。ロイター報道。
[東京 8日 ロイター] 日銀は13、14日に開く金融政策決定会合で、追加緩和を検討する。国内景気には底堅さがみられるものの、ギリシャ情勢の緊迫化など世界経済の先行きに不透明感が広がっていることに加え、米連邦準備理事会(FRB)が1月末に打ち出した金融政策運営に関する情報発信強化を受けて円高圧力の再燃懸念も高まりつつある。

こうした中で、事実上の踊り場にある日本経済の先行き下振れリスクに対し、資産買入基金の増額など先手を打った対応策を議論する。また、日銀の物価見通しの示し方について工夫の余地がないかも検討する可能性がある。複数の関係者が8日、明らかにした。 
日銀が追加緩和を検討するのは、ギリシャの債務削減や第2次支援交渉が難航するなど、欧州債務問題に対する緊迫感が高まっているためだ。事実上の交渉期限とされる2月中旬が迫るなかで、ギリシャが債務不履行(デフォルト)と判断されれば、ユーロの急落や他の欧州周辺国の国債価格下落(利回りは上昇)が引き起こされ、欧米金融機関にも影響を与えかねない。日本経済にも株安・円高という金融ルートを中心に悪影響が直ちに及ぶ可能性がある。 
日銀は現時点で、ギリシャ支援の交渉が妥結、欧州中央銀行(ECB)による大量の資金供給などを背景に欧州危機は収束に向かい、世界経済は新興国にけん引される形で次第に成長率を高めていくとの従来シナリオを維持している。それでも欧州の実体経済の悪化が貿易を通じて世界・日本経済に波及してきており、自己資本増強を急ぐ欧州金融機関による資産圧縮が今後本格化すれば、信用収縮による新興国経済への悪影響の強まりが懸念される情勢だ。
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 ギリシア債務問題とは独立に、欧州金融機関の不良債権処理がまだまだ未解決であることこそ、今後の世界経済にとってはより本質的である。

そして、この問題はアメリカ経済についても言えることである。政府と家計部門の重債務問題から目をそらすことはできない。アメリカの住宅価格はいまなお下図のように反転気配をみることができない。

(Source: FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis)

確かに足もとの経済動向だけをみれば、OECD景気動向指数(Composite Leading Index)が示すように、そろそろ底打ちするタイミングである。アメリカ経済は、明らかに底を打ちつつあるようだ。中国も景気後退局面から上昇局面に移る時機である。ヨーロッパは、ドイツ経済が予想外に明るい。

とはいえ、アメリカ経済の明るさは金融緩和からもたらされており、財政は緊縮へと向かうはずである。ヨーロッパも金融緩和でマネーは拡大しているが、それは突然の破綻がないというだけであって、財政は緊縮へと向かうはずである。金融機関の貸し渋りは進むはずである。

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こうして考えると、世界経済はバブル崩壊後の1995~96年頃の日本経済に非常に近似しているように思う。

ヨーロッパは、再度金融不安が高まり、ユーロが70円程度まで暴落する局面もありうるのではないか。ヨーロッパの次はアメリカ国債問題に市場の関心が向くだろう。日本の国債もそうだ ― ただ、日本の場合、小生は国債市場が混乱した場合、当局は強権的対応をとる、というかとりうる立場を利用すると予想している。というのは、日本の国債は大半が国内で保有されているからだ。日本は自国の債務問題を解決する上で関係国との合意を必要としない ― いざとなれば国内から自己資金を強権的に調達して国債とチャラに出来る。これを日本政府が利用しないはずはない。売買を制限することは更に一層ありうる。もちろん、お上が強制する国債の継続保有によって、日本の投資家(特に銀行)は損失を被るわけであり、そのつけは一般預金者が我慢することで帳尻を合わせる訳であるが、ともかくも強権的対応が可能なことは可能であると見ている。無論、その時点では消費税率は25%に達するであろう。誰がやるかはさておき、ともかくも理屈上は逃げ道がある。

さて欧州の話に戻る。欧州財政統合だけではなく、ドイツの黒字を南欧の赤字地域に再配分する欧州財政交付金システムが発足するまでは地域内のインバランスに永遠に苦しむことは必定である。しかしまた、欧州財政を地域間で均衡化するためには、欧州議会の権能を強化する必要がある。その方向にドイツは前向きであろうが、イギリスは消極的であり、おそらく<スネをかじられる>立場のオランダ、オーストリア、スカンディナビアも消極的ではなかろうかと予想する。北欧は基本的に<一国福祉主義>と見ているので尚更のことである。

つれづれなるままに覚書きを書き綴ったが、世界経済は、依然、シナリオなき回復を歩んでいる。そう見ているところだ。

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