2012年3月7日水曜日

最近の石油価格上昇を楽観して良い国と悪い国

石油価格上昇は先進国の景気を悪化させる主因である。これほど一貫して確認されてきた法則はない。2008年のリーマン危機ですら、その背景に石油価格急騰があった。石油価格急騰とそれがもたらす景気先行き懸念の高まりがあったからこそ、金融不安は現実のバブル崩壊につながっていった。ここの関連は大事だ。金融激変の背景には、リアルな面での相対価格変動があるわけだ。

その石油価格が再び上昇し始めていて、回復の緒についたと思われる世界経済に冷水をかけている。


ニューヨーク市場(WTI)は上図にみるとおり昨年10月から40%弱上昇した。この急な石油価格上昇が今後の景気回復の足を引っ張らないはずがないという意見が増えている。

ハミルトンによる著名なブログeconbrowserでは以下のような見方が述べられている。
Although the prices of oil and gasoline have risen significantly from their values in October, they are still not back to the levels we saw last spring or in the summer of 2008. There is a good deal of statistical evidence (for example, [1],[2]) that an oil price increase that does no more than reverse an earlier decline has a much more limited effect on the economy than if the price of oil surges to a new all-time high.
実際、上のブログでも指摘されているようにアメリカで販売されている自動車のうちSUVなど軽トラック 部門の動向は2007年の2月よりまだ28%も低い数字である。どうもリーマン危機以降のアメリカ人は、ようやくにして省エネルギーに目覚めたというか、これまでの消費行動とは明らかに変化の兆しが認められる。ここはアメリカ経済をみる上で注目するべきポイントかもしれない。

更に、下の図を拝借させて頂いた。総消費にしめるエネルギー支出の比率をアメリカの家計部門についてみたものだ。


これによれば最近の石油価格急騰を反映して、確かにエネルギー支出の比率は上がっているが、家計の消費全体において今やエネルギー支出は低い割合にとどまっている。石油価格上昇がアメリカ経済を悪化させる経路として、それがアメリカ人の消費行動を急変させる ― たとえば燃料多消費型の大型車から海外の省エネ車に需要が急激にシフトするなど ― といった点が挙げられていた。そのような負のショックは、今後生じるとしてもボリュームとしては限定的であると予想される。

こうしたことから最近の石油価格急騰が回復過程にあるアメリカ経済に重大な負の影響を与えるとは考えにくい。これが趣旨である。石油価格上昇に対する抵抗力はアメリカにおいて随分高まっている。もちろん、このこと自体は、日本経済にとっても一面ではプラスなのである。

反面、日本経済は石油価格上昇に対してかなり脆弱になっている。そう考えておくべきだろう。その理由は、言うまでもなくエネルギー構造の「先祖返り」である。原発再稼働がいつになるか分からない状況で石油価格が上昇すれば、それはそっくりエネルギーコストに上乗せされる。電気料金をあげなければいいのだと単線的に考えてはいけない。エネルギー生産においてより高い石油代金を海外に支払うという事実がある以上、国内の購買力合計は必ず減るのである。当面、電力会社に負担をさせても、それは電力会社の資金繰りを圧迫し、設備投資・更新の余力を奪い、供給余力を低下させて製造業の海外シフトを加速させるだけのことである。復興事業の高まりは、国内の生産を増やすというより、単に日本の輸入を増やし、経常収支を悪化させるだけ、そうなるかもしれない。それが明らかになった段階で急激な円安が始まるかもしれない。もちろん、それは悪夢にとどまると思うが。

天然ガス価格も上がっている ― 密接な代替品であるから当然であるが。

今夏には、多分、新エネルギー計画の大枠が見えてくると予想される。そこで原子力発電がどう位置づけられるのか、再エネがどう加速されるのか、電力買取価格がどのように設定されるのか、産業構造はどのように変わっていくと展望されるのか等々、戦略的に重要な点が決定されることになるだろう。どちらにしても原発再稼働は避けて通れない問題だ。新規建設はまず認められないと予想するが、ずるずると全原発停止のまま放置すると、石油価格急騰が日本の製造業、経常収支、ひいては為替レート、国債市場に<想定外>のショックを与えることになるかもしれない。おそらく当局は経済的というよりか、日本の場合は政治的というべきだが、乱気流(Turbulence)に入った時の強権的アクション・プログラムについて、既に極秘のシミュレーションを終えているはず、小生にはそう思われるのだ、な。

このように、いま日本は相当に、というか非常に危ない橋を渡っている。日本の政治家やマスメディアは悠然と構えているように見えてしまうのだが、事実悠然としているのであれば、彼らがそんな余裕をもてる根拠を、小生は想像できない。

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