2012年5月9日水曜日

格付け情報は<情報>たりうるか ― 大学編

小生と関係の深い国立大学で行われた新歓コンパで9名が急性アルコール中毒で救急搬送された。その話しは日本全国に広まり ― 海外にまで報道されているとは思われないが ― 色々と話題になっているようである。かくいう小生は、事件当日はカミさんの「ぎっくり腰」で家事に忙しく、夜は統計学の授業があるので、実は知るのが大変遅かった。で、いささか驚いた次第だ。

調べてみると「北海道のFランク大学だから、騒ぎにもならないだろう」とか、「Fランじゃあニュースバリューはないしね」等々、この<Fランク>という名称が目を引いた。そういえば某予備校が全国の大学格付け情報を流し始めたと耳にしているが、このことか、と。

検索にかけてみると、ゾロゾロと関係サイトが出てきた。


いやまあ、これだけのページが検索にかかってくるからには、大学の格付け情報に対する需要がそれだけ多いということなのだろう。

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しかし、大学の格付けもそうであるし、個々の受験生の偏差値もそうである。さらに、金融機関の格付け、国債の格付け、社債の格付け、サブプライム・ローンを原資産にした金融派生証券の格付けなどなど、あらゆる格付け情報がそうである。それら<格付け>が、情報としてどれほどいい加減な物差しであるのか、まだなお理解されていないのだろうか?

格付けを主たる材料にして経営判断をした金融機関が、リーマン危機の中で、どのように破たんしたか、なぜその経験から学ばないのだろうか?小生、この辺の行動心理学的理由が、さっぱり分かりませぬ。

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格付けは、統計分析でいうところの<情報の要約>に該当する。大量のデータが集まれば、まずは分布を視覚的にみてみる。次に、平均値やメディアンなどの代表値を確認する。それと同じ行動であって、同じ動機による。即ち、時間と労力の節約である。しかし、統計分析ですら、平均値のみから分かることは余りに少ない。最低限でも、代表値+散布度、この二つの特性をみる両眼思考をしないと、全体的傾向は決して分からないのである。平均だけを確かめて議論を単純化するのは、俗にいう<平均思考>であり、これはまあ単眼思考というか、単細胞的思考回路だとバカにされても仕方がないのだ、な。

簡単なデータでも、全体を把握するには最低限、二つの数値をみておく必要がある。格付け作業とは、個々の機関について多種類のデータを集め、多種類のデータを総合的に見ながら、個別機関のポジションを洞察する作業である。多くの数値情報、属性情報を一つの順序尺度にまとめる作業が<格付け>であって、これは次元の縮約にあたるから多変量解析の一分野になる。

平均値を計算する、一つの数値にまとめて順序付けをする、いずれにしても<情報の要約>である。であるから、「御社の格付けはBになりました」とか、「貴学は残念ながらFランクです」といっても、ランク付けのプロセスで捨てている情報と、ランク指標に残している情報と、どちらが多いのかを問いかける目線が非常に大事である。ミクロ情報は一筋縄ではいかない。おそらく順序尺度を算定するまでの間で、原データに含まれていた情報の大半は失われるはずだ。たとえば、入試センター試験を6科目受けて、その合計得点だけに着目すると、個々の受験生を識別する物差しは1種類だけになって順序付けには具合がよいが、その受験生の特徴など、実質的なことの大半はわからなくなる。これと同じである。

にも関わらず、大学の選択、事業の経営において、オリジナルの原データを自ら吟味することなく、格付け情報を主たる根拠に、大事な判断をする。まあ、専門家にアウトソースしたくなる心理はわからぬでもない。それにしても「Aランク!やったぞ」とか、「Fランク!なるほどねえ」とか、それで何か大事な情報を得たものと判断する、まさにその思考回路こそが、いまは最も分析を必要とする行動パターンではなかろうか?日本経済において、いくら待っても金融サービスが高度化されないはずである。手っ取り速い加工食品、いやさ加工情報で満足するなど、あまりにも情報に無頓着というか、<情報分析グータラ症候群>というか、形容に困るのだが、どうもよろしくない。どうしても、小生、そう感じてしまうのだな。

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本当は中身がエンプティである指標に基づいて判断をすることは、サイコロを転がして出た目によって判断をするのと、本質的には変わらない。<当たるも八卦、当たらぬも八卦>。占いと概ね同じであると言っても過言ではない。格付け情報は、全くエンプティではなく、多少の情報を含んでいる。しかし、捨てた情報と保持した情報との相対的割合を開示していない。だからこそリスキーなのである。これが小生の見方だ。

思うに、<格付け>とは、情報ではなく、それ自体が収益を目的とするビジネスである。たとえは悪いが、フランスのタイヤメーカーが作成している<ミシュランガイド>、中でも話題が集中しがちな「レストラン・ホテルガイド」と概ね同類ではあるまいか。だとすると、生産しているのは情報ではなく、エンターテインメントにより近いのではないのかなあ。そう思ったりする。

情報は、<選択と判断>の役に立ってはじめて情報となる。1位から100位までに並べるための順序指標だけをみても、1位がベストであるのに決まっている。<格付け>は、実は、何の役にも立たない。この世は三次元だ。高さ×幅×奥行きをみて、物体がイメージできる。だからというわけではないが、せめて3種類の特性値くらいは情報会社と名乗るのであれば、提供しておくべきであろう。

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