2012年7月6日金曜日

中身のない(?)欧州銀行同盟と先ゆき不安

ロイターが以下の報道をしている。
[ベルリン 5日 ロイター] ドイツIFO経済研究所所長ら150人を超えるエコノミストは5日、メルケル首相が欧州連合(EU)首脳会議で合意した銀行同盟計画に反対するよう、有権者は議員に働きかけるべきとの見解を示した。
ここでいうドイツ国内の指導的経済学者の提言については、独紙Frankfurter Allgemeine Zeitungが、次のようにまとめている。 

Ökonomen: Gewinner sind die Banken, Verlierer die Steuerzahler

Führende deutsche Ökonomen hatten zuvor in einem offenen Brief an die „lieben Mitbürger“ gewarnt: Mit den jüngsten Gipfelbeschlüssen zur Haftungsunion werde nicht der Euro gerettet. Vielmehr würden sie den Gläubigern der Krisenbanken helfen, schreiben die Ökonomen. Das sei der falsche Weg: „Banken müssen scheitern dürfen.“ Von den Gipfelbeschlüssen profitierten daher Investoren an Finanzplätzen wie der Wall Street oder der Londoner City sowie marode Banken. Die Wirtschaftsprofessoren um Ifo-Chef Hans-Werner Sinn und den Dortmunder Wirtschaftsstatistiker Walter Krämer riefen die Bevölkerung auf, die aus ihrer Sicht falschen Beschlüsse nicht mitzutragen, da deutsche Steuerzahler sonst für ausländische Banken mithaften müssten. (Source: F.A.Z., 2012, July, 05)
 欧州銀行同盟で救済されるのは、ユーロではなく、銀行に投資をした投資家である。ブリュッセル主導(=EU)でまとめられたこの構想は、外国の銀行が有する支払債務を、ドイツの納税者に共に負担させるものである。ドイツ国民は、自分が間違っていると考える政策を決して容認しないよう、ここに呼びかけるものである。まあ、こういう提言を経済学者たちが共同でしたわけだ。文中のHans-Werner SinnとWalter Krämerは経済学者としては相当の大物だ(日本の竹中平蔵氏よりもずっと重量級である)。よって彼らの呼びかけはドイツ国内で相当の影響を与えることは間違いないと予想する。

他方、政府側は次のように反駁している。まずメルケル首相。
Angela Merkel ist der Kritik von Ökonomen an den jüngsten EU-Beschlüssen zur Lösung der Schuldenkrise entgegengetreten. „Es geht hier überhaupt nicht um irgendwelche zusätzlichen Haftungen“, sagte Merkel am Donnerstag in Berlin. Daher sollte sich jeder die Beschlüsse „wirklich gut anschauen und dann auch das berichten, was in diesen Beschlüssen steht“.
誰かが更なる負担をするという話ではない。今回の決定は誰しもが「良し」と認めるべき内容だ。そう言っている。更に、レスラー経済相は次のように補足している。
Auch Bundeswirtschaftsminister Philipp Rösler (FDP) verteidigte die EU-Beschlüsse gegen die Kritik. „Die Ökonomen kritisieren mit der Bankenunion etwas, das es noch gar nicht gibt“, sagte Rösler der F.A.Z. in Freiburg. Erst müsse es eine europäische Bankenaufsicht geben. Dann müssten klare Möglichkeiten für eine Restrukturierung angeschlagener Banken geschaffen werden. Erst dann griffen die Beschlüsse, dass der ESM Banken direkt rekapitalisieren dürfe. Allerdings wird schon jetzt Spanien für seine Banken Geld aus dem ESM erhalten. Eine Bankenunion mit einer Vergemeinschaftung von Haftung lehne er ab, sagte Rösler.
 今回の決定は、まず第一に欧州金融機関の監査をしっかりとやる。それに引っかかった銀行は経営再建(=リストラ)を進めることを確約させる、それからESM(=European Stability Mechanism:欧州安定機構)から公的資本を入れる、これはスペインの銀行に対して既にやっていることだ。今回の決定はそういう道筋を示すものだ。欧州の銀行の支払い責任を共同で負うという話ではないと言明しておく。だから(最初の下りに戻って)反対の提言をした経済学者達は、ありもしない事柄に反対しているのだ。ま、こう言っている。何だか外国で約束してきたことが国内で騒動になって、「いや、そうじゃないんだ」と火消しに躍起になっている図に非常に似ておる。

そもそも経営破たんした銀行救済策は、日本でもアメリカでもそうだが、甚だ筋が悪い。国民が反対するのは当たり前である。ましてドイツ国外の銀行の経営失敗を、ドイツ人が自分のカネで救済するとなれば、ドイツの経済学者でなくとも(日本人であっても)「そりゃあ、おかしいよ」と言うのが当然だ。

しかし、欧州内の<資金偏在>が解決を要する経済問題であることは、ドイツの経済学者も認めるはずである。では定石はあるのか?財政統合と地域間財政移転システムの構築が本筋であることに反対する人はいないだろう。しかし、それには欧州財務省の設立が必要だ。とすれば欧州財務長官が任命されるだろう。誰が任命するのか?更には<域内個別国内税>とは別の<欧州税>が認められなければ、すべては<絵に描いた餅>である。まあ率直に言って『日暮れて道遠し』じゃな。欧州政治の遅々とした歩みは、欧州経済の地盤沈下に追いつくことができずじまいで、すべてが終わる可能性が高いと(いまは)見ておく。

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