2013年2月10日日曜日

日曜日の話し(2/10)

旭川で司法修習を受けている愚息が、昨日は眼科を定期的に受診する日だというので、宅で昼飯を食べて帰っていった。きくと晩には某法律事務所で面接があると言っていたので、そこにうかると初めて内定をもらうわけであり、少なくとも食っていくことはできる見込みが立つ。

小生: やれやれ、そうであれば本当に安堵するねえ・・・
カミさん: こんなに成りにくいんだね、法曹って。医者は医学部に合格すると、あとは自然になれるって感じだよ。国家試験だって在学中に受けれるし、研修医も月給を借りるんじゃなくって、きちんと働いた分だけくれるしネ。
小生: だけどさ、あいつをみていると、昔な、お袋がおれに演じてほしかった役回りの作品を、もう一度見ているような気持ちがするなあ。同じ作品かなって思ってると、ちょっと筋が違っている。そんな感じなんだよね。
カミさん: それってお祖父さんのように裁判所に行くのは難しそうってこと?そこまでいい成績じゃないんだから仕方ないよ。
小生: まあね。おれの人生でもないし。ましてあいつはお祖父さんもお袋も触れ合ったわけじゃないし、頭の中で知ってるだけさ。個人的にはサ、俺一人だけの気持ちをいうと、そりゃあ嬉しいんだけどさ、何も文句はないんだけどさ、お袋はお祖父さんのようになってほしいって、やっぱりそう思ってるんだろうなあって。ガッカリするってことはないんだろうけど・・・、そりゃ嬉しいんだろうけど。これはもうしようがないよね。二人とももういないんだしさ。
カミさん: いいんじゃないの?そんな、ずうっ~と昔のことを持ち出したって意味ないよ。

☆ ☆ ☆

母親を喜ばせてやりたいというのは、まったく息子の本能、というより抗いがたい煩悩なんだろう。始末に追えないものである。
海の遠くに島が……、雨に椿の花が堕ちた。鳥籠に春が、春が鳥のいない鳥籠に。 
    約束はみんな壊れたね。 
    海には雲が、ね、雲には地球が、映っているね。 
    空には階段があるね。 
今日記憶の旗が落ちて、大きな川のように、私は人と訣れよう。床に私の足跡が、足跡に微かな塵が……、ああ哀れな私よ。 
(三好達治、『測量船』、"Enfance finie"より)
フジTV系のドラマ『ビブリア古書堂の事件手帖』では宮澤賢治の『春と修羅』が登場したが、小生にとって自分の身の一部とでも言えそうな詩人は三好達治だったのだろう。上の作品は、その三好達治のデビュー作である『測量船』の終わり近くにある詩である。手元にある岩波文庫の奥付をみると、昭和48年第4刷発行とある。鞄の中にも入れておき、学生食堂で手持無沙汰のときなど、とりだして気に入った詩を読み返していたことを、今でもありありと思い出す。

われながく憂ひに栖みて
はやく身は老いんとすらん 
ふたつなきいのちをかくて
愚かにもうしなひつるよ 
秋の日の高きにたちて
こしかたをおもへばかなし 
すぎし日の憂ひならねば
あまからぬこの歎きかな 
(三好達治『艸千里拾遺』、"秋日口占"より)
若い時分には読んでもピンとこない作品があるのは仕方がないことだ。もう20年くらい生きないと絶対に分からないことはある。そこでまだ分からないことを分かるためには、もう20年生きてみないといけないのだな。

藍ふかき海のはるかに
真白なる鷗どりはも 
一羽いてなに思ふらん
波の穂にうかびただよふ 
願はくばわが老いらくの
日もかかれ、世の外にして
 ★ ★ ★

注文していた画集"AUGUST MACKE"(Dumont)が届いた。マッケは若くして第一次大戦に散った青春の画家、色彩の魔術師である。



A Woman With Red Jacket And Child Before The Hat Store

上の作品の掲示サイトには制作年が記載されていないが、この帽子屋をマッケはよほど気に入ったのか、何枚も描いている。妻エリーザベットと暮らしたヒルターフィンゲン(Hilterfingen)の街の風景である。パウル・クレーとチュニス旅行に行ってから、画風にはまた変化が生じるが、この時代の作品はマッケが一番彼らしくあった時の作品だと言えると思う。

ただ届いた画集をみて思ったのは、マッケの静物画はこれまた非常に魅力的であることだ。上のサイトは、"The Compete Works"とはいうものの、画集には掲載されている"Walterchens Spielsachen"(1912年)が含まれていない ― Walterchenとは1910年4月に誕生したマッケの長男Walterのことであり、タイトルは「ワルター坊やのおもちゃたち」という意味合いだ。この作品がないのだな、上のサイトに。"Complete"じゃないじゃないか、そう思っても、小生が運営しているわけではないので、文句を言っても始まらぬ。近々模写するつもりだ。


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