2013年3月1日金曜日

覚え書きー政治リスクと心身症・鬱病

アメリカ・アップルが生産の米国回帰を進めているとは聞いていたが、台湾のIT企業の経営戦略にも新しい動きが出てきたようであり、どうやら世界的な製造業ネットワークの構造変化が今後進みそうな塩梅である。

本日の日経に以下の報道がある。

台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が、米アップル製品の組み立てを担う中国の工場で新規採用を凍結すると報じられた。中国ウオッチャーの筆者、ゴードン・チャン氏によれば、この件の本質は「iPhone(アイフォーン)5」の販売減速という問題にとどまらないという。
 鴻海の中国工場は民間企業としては中国最大の雇用の受け皿。その鴻海が、今後の主な投資先を台湾にすると発表した。台中、高雄などに工場を配置する計画だ。ブラジルやインドネシアでも投資を拡大。アップルはパソコン生産の一部を中国から米国に移し、鴻海と組むらしい。
 鴻海が今後の成長の源を中国外に見いだしているのは明らかだと筆者は見る。その理由は中国における賃金の上昇などに加え「政治的リスク」が浮上したからだと指摘する。アジアで中国が絡む衝突が起こり、サプライチェーンが寸断される可能性を懸念する企業が増えるのだろうか。(出所:日本経済新聞、3月1日)
経済活動を人間の身体に例えれば、それは基礎的な新陳代謝に相当する。人間の身体はずっと同じなのではなく、日に日に個々の細胞は死んでいき、新しい細胞が生まれ、その新しい細胞が遺伝情報を受け継いで同じ機能を継承し、全体として同じ人間としてあり続けているわけだ。記憶もそうである。古い記憶は次々に消え去るのだが、それを心に刻印するかのように、日ごとに覚え直しているのである。古く古代ギリシアにおいてプラトンが代表作『饗宴(シンポジア)』において既にそんな議論をしているのだな。同じ人間がずっと80年も生きるわけではない。全体として<同じであるかのように>細胞集団が常に再生されているだけである。こんな理解をするなら、何より再生のメカニズムを人為的に妨害しないことが生命活動を維持する上で大事である。哲学や数学は命があってこその知的活動なのだ。だからこそ、身体の新陳代謝は無意識に行われている。
社会の経済活動も同じことである。政治は確かに最も高度で人間的な知的活動を代表している。だから社会経済のあり方に関係するべきだというのは、人間の身体活動は人間の大脳が受け持って、調整するべきだというのに似ている。『病は気から』という。頭でっかちの人間は往々にして心身症になる。鬱病をわずらう。人間の理性は不完全である。社会的知性はもっと不完全であり、民主的な集団意志決定プロセスをとるなら、基本的な合理性基準を満たすことすらできないことが、ずっと昔、アローによって数学的に証明済みである。政治と言えばきこえはいいが、不完全きわまりない政治的意志が、社会の経済活動を権力的に制御しようとすれば、そう考えることが即ち<政治リスク>になる。当たり前のロジックだろう。
だから米企業・アップルと台湾企業・鴻海が、共産党政府が主導する中国経済のありかたそのものが既にリスクであると。そう判断したのだとすれば、数理的考察から判断しても、大変合理的であると言える。


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