2013年10月17日木曜日

消費税率、エンゲル係数 ― やるべき議論で放置していること

多少旧聞に属するが、消費税率引き上げに関する記事を一時保存フォルダーにとってあった。以下がそれだ。
産経新聞社とFNNの合同世論調査では、来年4月の消費税率8%への引き上げに対する容認論が強まる中、女性は男性に比べて反対論が強く、男女差がくっきり表れた。特に、子育て世代とされる30、40代の女性は増税に反発する傾向が際立っており、消費税増税が子育て支援の強化につながらなければ反発はさらに大きくなりそうだ。 
調査結果を男女・世代別に分析すると、消費税率引き上げと経済対策を表明した安倍晋三首相の方針に対し、男性の54・0%が「支持する」と答え、「支持しない」の40・8%を大きく上回った。一方、女性は「支持する」(48・2%)と「支持しない」(46・4%)で評価が割れた。20代、30代、40代の女性はいずれの世代も「支持しない」が過半数に達した。
 消費税が増税される来年4月以降に家計の支出を減らすかどうかについて、「減らす」と答えたのは、男性では54・9%、女性は62・3%だった。女性のなかでは、20代の52・5%が「減らさない」と答え、「減らす」(44・3%)を上回ったが、40代は子供の教育費負担などが影響してか、72・6%が「減らす」と回答、世代間ギャップが浮き彫りになった。 
 平成27年10月に消費税率を10%に引き上げることに「反対」というのも、男性は58・0%にとどまり、女性は67・5%を占めた。女性は各世代で3分の2以上が税率10%に反対し、「賛成」は23・6%にとどまった。
(出所)産経新聞、2013年10月8日

収入一定で消費税率が上がれば、当然、増税分だけ出ていくお金は増えるわけだから、貯蓄を減らすか、購入数量を減らして消費金額を一定に維持するか、二つに一つか両方を少しずつ実行するしかない。

ただ、子供世帯の家計が苦しくなれば、孫の教育費や出産や進学、病気などの場合の経済支援、普段の仕送りなどの形で、年金を受給している親世代から子供世代への移転が行われるだろう。だから、今回の消費税率引き上げのかなりの部分は、親世代が節約することによって、負担を引き受けるのではないかと小生は予想している。負担がどこに落ち着くかは分からないが、確実なのは、国の財政収支が少々改善される。この点だけは確実である。

しかし、消費税率をたかが5%から8%に上げるという文字通りのマイナーチェンジにこれだけ騒ぐのは不自然である。厚生年金や国民年金の保険料も「税金」と呼ばれてはいないが税金と変わらないからである。その年金保険だが、年金積立金が少なからぬ額に達している。そしてその積立金は、保険料が引き上げられた後、なおも増え続ける-積立金が増えるというのは支給以上に保険料を徴収しているからだ-この年金財政見通しは厚生労働省のホームページでも解説されている。

シミュレーションによれば、今から30年後の2045年に積立金は最大値に達する。厚生年金で200兆円余り、国民年金で概ね10兆円程に達し、それ以降は徐々に取り崩しが進み、100年後には1年分の給付費を準備金として用意する状態になる。100年後に1年分の支払準備金を用意する状態になるのであれば、なぜもっと早い段階でそうしてはいけないのか。こんな疑問を持つ人も多かろう。そもそも最近の社会保険料率引き上げを、どの程度、国民は議論したのだろうか。積立金を増やすためには保険料アップが必要なのだという説明を国民は本当に了解したのだろうか。消費税を10%まで引き上げるのであれば、年金保険料率も見直すべきではないのか。なぜ誰もこの質問をしないのだろうか。保険料は、最後には自分のところに戻ってくるから上げてもいいのだ、と。若い人たちは本当にそう思っているのだろうか?

× × ×

昨日のビジネス経済学でも、なぜみんな議論しないのだろうという話題があった。それは「エンゲル係数」である。日本のエンゲル係数は他の先進国に比べて、現在、高止まりしている。日本人の暮らしに余裕がないのは、必需的な支出割合が高く、裁量的な支出に回す余地が少ない、特に食費の割合(=エンゲル係数)が比較的高いことが主因になっていることは、以前から指摘されている。もっともエンゲル係数が低いのはアメリカで15%程度だ。それからオランダが18%、ドイツが19%、日本は23%である(出所はここ)。生活水準が上昇するにともなって下がるはずのエンゲル係数であるのに、韓国のほうが22.7%と日本を下回っている。これが昨日の授業では話題になった。

小生: 日本のエンゲル係数をアメリカ並みに下げることができれば、日本の家庭は非常に豊かになります。たとえば年収が500万円の家庭のエンゲル係数が23%から15%に下がるとしましょうか。これは食費が40万円節約できることと同じです(分母は総消費であるべきで、これだと貯蓄を入れてるじゃないかとは言われるだろうが、要修正額は小さい)。毎年のボーナスが40万円増額されるのと同じ効果をもつでしょう。この40万円で、たとえばスポーツジムに入るかもしれません。芸術活動にお金を使うかもしれません。高級オーディオを買うかもしれませんね。翌年は好きな食器をそろえるかもしれません。母親はパートを減らして、子供たちと一緒にいる時間を増やすでしょう。こんな風に日本の家庭のエンゲル係数を低くすることは、政策技術的に可能なんですよ。何をすればいいと思いますか? 
学生: 食料品の価格を安くすれば出来るのではないですか? 
小生: 具体的に、そんなことが可能なんですか? 
学生: TPPを締結して、聖域5品目に切り込めば、可能ではないですか? 
小生: なぜマスメディアはこんな議論をしないのでしょう。以前から真っ先に話をされていたことなんですよ。2012年時点、日本の一人当たり名目GDPはドル換算後で韓国の2倍あるのです。にもかかわらず、日本の家庭は毎日の食費に韓国より高い割合のお金を使ってしまっている。エンゲル係数は生活水準の実感指数ともいわれます。これでは日本人が暮らしにゆとりを感じないのは当たり前です。格差拡大とか、労働市場のゆがみとは別に、暮らしの在り方そのものに余裕がないのですよ。
これまた、議論するべきだが、誰も何も言わない。音なしの構えである、小生にとっては、七不思議の一つなのだ。 最後の段階で出してくる<政府の隠し玉>なのだろうか。



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