2014年11月26日水曜日

いまどきの経済評論-丁寧に議論することが丁寧なわけではない

何年か前になるが小生が担当している統計科目の授業評価で、定型的な質問項目のあと、こんな自由記述を頂いたことがある。
分かりやすく説明しているつもりでしょうが、かえって分かりにくくなっています。
学部授業を担当していた頃を思い出しても、こんな回答をもらったのは初めてだったので、ややショックであった。『そうかあ、分かりやすく説明すること自体は良いことなのだろうが、それは聴く相手にとっては不親切。そういう可能性も確かにあるよなあ……』と、こんな反省をしたわけだ。

消費税率再引き上げ時期を1年半延期するという安倍内閣の判断。これをめぐって多くの評論が出てきている。全部を読む価値はないと思うが、たとえば好例としてダイヤモンド・オンラインの『消費増税先送り“YES”or“NO” 主要な対立点を整理する』がある。

日数がたてば「Yahoo!ニュース」から削除されるかもしれないので、論点だけを整理しておきたい。記事はこんな風にまとめられている。
  • 第一の論点は「経済再生が先」か、「財政再建が先」かである。アベノミクスは周知のように(1)大胆な金融緩和政策、(2)機動的な財政政策、(3)成長戦略の3本の矢から成り立っている。
  • 二番目の論点が、財政つまり日本政府への「信認」が低下するかどうかだ。
  • 第三の論点は、消費税の再引き上げを前提としていた政策が影響受けるという点だ。12年8月に成立した消費増税関連法は、社会保障と税の一体改革を目的としたもので、消費税率の引き上げが前提となっている政策も多い。
確かに丁寧な考察と丁寧な論理構成ではあるのだが、相当の経済センスをもったハイレベル・ビジネスマンでも「・・・で?」と思わず言いたくなるのではないだろうか?

『ま、要するに、これは中々難しい問題なんですよ』。どんな専門家もそうだが、そんな結論を下す医師がいれば患者はそのうちこなくなるものだ。

経済政策とは、日本の経済戦略であり、戦略である以上は目的がある。その目的を達成するための一連の行動計画が戦略である。そして、戦略を構成する一段階ごとの行動が戦術に当たる。なので、いまどんな行動をとればよいのかを検討するときは、戦略に沿った行動をとる。そんな話になるわけだ。

評者が経済政策を論評する時は、まず理念・目的を確認したうえで、戦略を二つの選択肢に整理したほうが分かりやすい。上策と下策、現行戦略自体を批判してもいいだろう。そして、今回提案されている「消費再増税の1年半延期」は戦略変更には該当せず、戦略的後退という戦術であると思われるので、その戦術の適否を論評する。『一年半延期+一年半後に必ず税率を上げる』。この戦術変更は現行戦略と整合するのか?こういう議論になるのではないか。

丁寧だが、分かりにくい説明は多くの場合、「だから何?」が欠けているためである。

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