2015年3月20日金曜日

芸術作品の限りのない低コスト化

レコードやCD、ネット配信以降の音楽はともかくとして、名画は本物が唯一つしかなく、その作品が提供する美を享受するためには、その絵がある所まで赴く必要があった。だからこそ、限りなく高い価格が名画にはつけられてきたわけだ。

しかし、似て非なるものが、それも無料で誰でも観ることができるなら、どんな結果になるだろう。多分、大部分の芸術愛好者は素人だから、本物とはこのようなものだという感覚が手軽に得られるなら、カネをかけずに無料のサービスで間に合わせる場合が多くなるだろう。

先日、Googleからのお薦めもあってGoogle Chromeで新規ページを開くと、そこにはGoogle Artが無作為に提供する古今の名画が表示されるようにしたー拡張機能をインストールしたわけだ。

その結果、たとえば以下のようなページが無題のページを開くたびに表示されるようになった。



Google Art, 2015-03-20 18:50

少なくとも芸術サービスを楽しむ顧客の立場からみれば、その生産効率性はこの20年間で飛躍的に高まっているのは確かだ。

ま、今の時代でも古楽器を用いてモーツアルトやバッハを演奏する機会はゼロにはなっていない。なぜならそんな演奏を求める人がいるからだ。しかし、世間でバッハのG線上のアリアが演奏される機会は、もはやCDでもネット配信音楽でもなく、YouTubeの中でだろう。

小生は、素人で画作をたまに楽しむ程度だが、絵画の制作技術をみても、絵具、支持体などの側面で次々に革新的な製品が生まれてきている。というより、油彩や水彩など伝統的な顔料をはるかに超えたタブレット状のIT製品がこれからの主流になってくるのだろう、と。これだけは確実に予想されることだ。

絵画の世界でも革新が進むだろうし、3Dプリンター技術が日進月歩であるいま、彫刻の世界でも同様の事態が進むだろう。チューブ入り油彩絵具の商品化が戸外で制作するのを旨とするフランス印象派絵画を支えたのと同じように、デジタル化された画面と筆は制作から搬入、保管、配布、褪色防止を飛躍的に改善するに違いなく、そこからどんな新しいモノが生まれてくるのか、実は期待して待っているのだな。

話は変わるが、上の画像ファイルを保存していたディレクトリーには、まったく偶然で下の写真映像が同時に保存されていた。戦前の芝増上寺にあった七代将軍家継の霊廟である。永井荷風が愛した風景とGoogle Artが提供している名画が、不思議に同居していたのがそれ自体として大変面白い話題であると思った。


将軍家霊廟は今は焼亡して、この世にはない建築物である。どちらかと言えば過ぎ去った時間の中にのみあって、その意味では実態としては存在していない音楽の方に類似しているかもしれない。



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