2015年3月24日火曜日

エネルギー市場と市場介入政策: 普遍的なロジック

政府が市場に介入して「望ましい」成果を人為的に求めると、必ず経済的ロスが生じる。この点は、学部レベルの経済学テキストでも必ずとりあげられる実に基本的な結論である。

ドイツは東日本大震災と直後の福島第一原発の事故をみて早々に脱原発宣言をした。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度がその基盤になっているのだが、どうやらこのドイツのエネルギー政策もその行く末が懸念されるようになってきたようだ。

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GEPRが資料『二兎を追った悲劇 — ドイツの電力自由化と再生可能エネ促進』を公表している。2013年3月だからもう大分日数が経っている。その中に次の下りがある。

現行のドイツの仕組みでは、再生可能エネルギーが増加するほど、卸電力市場の顕著な価格低下につながるため、在来のガスや石炭火力発電所の収益性は圧迫される。「エネルギー転換」という国策の一環として、火力発電よりも再生可能エネルギーを優遇しているのだから当然の結果でもある。しかし、その帰結として火力発電所が電力市場から駆逐されてしまうとどうなるのだろうか。
経常補助金を支給することで会計上の利益が確保され、低価格で市場に供給できる事業形態があるとすれば、そこに競争優位が生まれるので、その他の事業形態を駆逐するのは当たり前の結果である。

最終的に、再生可能エネルギーだけで国内の電力需要が賄われるか、それでは不十分で限界的な事業が生き残るか、それはドイツ経済の成長率に依存するのだが、一言でいえばドイツはいま火力から再生可能エネルギーへエネルギー転換を実現するため、補助金を通じた産業政策を展開しつつあるわけだ。そして、発電コストは発電企業が負担するのではなく、国民が税という形で負担する形になる。

税でエネルギー部門を支えるとなれば、実質的には「ドイツ電力公社」をインフォーマルに運営するようなものであり、この点を上の資料は指摘しているのだな。

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自由経済と市場メカニズムを標榜するドイツが、なぜエネルギー部門という基幹産業で正反対の理念に立った政策を展開するのか。

『危ないものはあぶない』という感情によるものか、原発を肯定するEU他国をGivenとした最適戦略として受け取れるのか、まあ何かの根拠はあるのだろうが、即断はできない。

ただ、南欧諸国の財政不安によってユーロは構造的不安定にある。その通貨不安からドイツ製造業が「恩恵」を享けているのも一つの事実であり、再エネ政策という贅沢なエネルギー政策も実は苦難にあえぐギリシアがEU域内にあってこそ実行できることだ-本来なら、マルク高になっているか、あるいは経済的劣位にある南欧諸国にはEU理事会を通じた財政移転を行い、ドイツ・マネーがギリシア、フランス、スペインなどへ政策的に流れていかないといかんのじゃないか。その流れていくべきカネを、ドイツは自国のクリーンエネルギー・シンパの意に沿うように自国で使っている。そう思われても仕方がないのじゃないか。

先ごろメルケル首相が訪日していたが、その理念は理念として、どうもドイツという国柄は、戦前の日独伊三国軍事同盟締結の時から甘さとは正反対の位置にいる。現在のエネルギー政策においてもそんな身勝手なところがあるような気もする。僻みっぽいことにかけては人後に落ちない小生だが、この対独観は悪意にすぎるだろうか。

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