2015年6月20日土曜日

派遣労働法制改変をどうみる

派遣労働のあり方が大きく変わる見通しになった。地元のH新聞、その他マスメディアは総じて批判的に報じている。

要点は二つ。

  1. 派遣期間は3年で区切る。そこで正規社員採用を要請するが可否は受入れ側の企業が行う。雇用は派遣企業側の責任とし派遣期間が終了した社員には新たな派遣先を紹介する。
  2. 専門職種についても一律に適用する。
地元の新聞は『派遣法衆院通過 雇用を一層劣化させる』とのヘッドラインをかかげている。逆に日本経済新聞では『労働改革ようやく前進 派遣法改正、成立へ』としているのだから、自らの立場によって報道の仕方は真逆になっている。

うちのカミさんは『3年で切られるなんて可哀そうだよ』と話している。一度派遣元に帰って新しい職場を紹介してくれれば困ることはないんじゃないのと言うと、『だってその仕事をずっと続けたいと思っているかもしれないでしょ』という。正規社員も定期的な人事異動で色々な仕事をやらされるんだよ。派遣社員がずっと希望通りに続けられるわけいかんだろ。そういうと、『それもそうだけどねえ…』と釈然としない様子だ。

カミさんの感覚が世間の最大公約数なのだろうと思う。

☆ ☆ ☆

民主党の思想で考えると、派遣社員として5年(だったかな?)働けば、正規社員になる。そう企業側に義務付けるわけだ。

しかし、企業側が正規採用したくなければ5年未満のぎりぎりの期間で雇い止めとなるだろう。それが確実に予想されるので、民主党案には不安がつきまとっていたのだな。

今回の与党案は、雇用の確保を派遣会社の責務とする。「責務」とするのと併せて派遣企業に対する規制を強化する。そういう発想だ。

まあ、率直に言って理にかなっていると思う。「派遣労働」という在り方をみとめておきながら、派遣の受け入れ側に無期限雇用を義務付ける条件を設けるというのは、ロジックとしておかしい。

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働く側の願望は、続けたい仕事をずっと続けられる環境をつくってほしい。そういうことだろう。しかし、フリー、というか独立しなければ、この願望はそもそも実現はしないものだ。

共産主義社会が独裁的にではなく理想的に運営されれば、ひょっとすれば、そんな世の中が実現するかもしれない ― 極端な共同社会となり、ある意味で制約がきつく、その分だけ豊かな未来を諦めることにもなるだろうが。

ずっと昔、学生を相手に話したことだが、すべて世間で生きていくには収入がないと食っていけない。だから働くか、仕送りをしてもらう必要がある。仕送りに頼ればニート、つまり高等遊民になる。それは誉められたものではないし、カネをもらえば、クチも出される。それで働くのだが、働き方は二通りある。雇われて働くか、雇われないで働くかである。雇われて働く場合は賃金しかもらえず、何をするかは使用側が決める。雇われないで働くというのは、独立する、自ら事務所、店舗、会社を運営するわけだから、命令されることはない。しかし、経営に失敗すれば全責任をとる。失業だ。左遷くらいでは済まない。定年がない代わりに厚生年金もない。大きく違うから気をつけなさい。

そんな話をした。

要は、ただ飯はないということだ。楽に暢気に望みのままに生きていくという道は最初からないのだな。親元で養ってもらう日々は一定期限付きのモラトリアム期間だ。これを最初から何度も教えておかないと後でみんなが困る。

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それでも5年たったら正規採用してほしい。うちの上の愚息もそうだ。どれほどいいだろう。

しかし、それはうまくいかない。

正規採用すれば、(おそらく)昇給があり、処遇が改善される。だから働く側はそれを望むのだが、それは人的資源一般のコストが上昇することになるので、企業はIT投資を一層進めて、正規社員全体を含めたリストラを行うだろう。

それでなくとも、スキルのない若年層よりは経験知・コネクションを有した中高年社員のほうが企業内では生産性が高いことが多い-もちろんIT化の時代に対応できない勉強不足のベテラン社員も多数いるには違いない。その中高年層の給与が若年層に比較して全般的・相対的に削減される傾向がしばらく続いてきた。

国内企業の正規社員の賃金プロファイルは、ずっと以前に比べると、若年層がその生産性に比べて高止まりしている。それは「旧式の年功序列を打破する」という世間受けの良い方針とも合致していた。それで社内の処遇は比較的フラットになってきている。小生はそう憶測しているのだな。つまり、低賃金・派遣社員の増加は、経済的ロジックが事後的に帰結した現象である。小生はそうみている。ま、仮説である。最近は統計の方に専念して、経済学会は退会してしまったから、研究の流れは把握していないが、取り組んでみると面白いテーマだと思う。

したがって、経験の蓄積がない若年(+壮年?)派遣社員を正規採用するよう政府が誘導すれば、人的資源からよりIT化された代替的システムへのシフトが国内で進むことになるだろう。ま、それはそれで、現時点の労働力不足を解決する道筋でもあるので、やってみる価値はあると思うが、出てくる結果は狙ったものとは全く違ったものになる。これは確実だ。

いい仕事につくには手に職をつけるしかない。誰でもできる仕事はPCでもできる。そのうち、ロボットでもできる仕事にヒトを使うのは高すぎる。そんな時代になるだろう。政府にできるのは、一片の法律をつくって口を出すことではない。生産性を高めるスキルを習得するための教育コストを支援する政策である。


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