2015年7月12日日曜日

反グローバリズムの中の歴史問題

こんな報道がある。Wall Street Journalである。
 フランスの著名経済学者トマ・ピケティ氏は、ギリシャの債務減免の検討を拒否しているドイツを激しく非難した。
 同氏は独週刊紙ディー・ツァイトとのインタビューで、ドイツは第1次世界大戦後の対外債務も、第2次世界大戦後の債務も返済しなかったと指摘、「他の国に説教できるような立場にはない」と述べた。
 また、戦後のドイツ経済の奇跡的復活は少なくとも過去に債務免除を受けたことが一助になったとの見方を示し、ギリシャに対しても同様の措置が取られるべきだと主張した。ドイツは1953年の「ロンドン債務協定」で対外債務の60%が免除された。
 ピケティ氏は、「ギリシャが大きな過ちを犯してきたことは間違いない。2009年(に財政危機に陥る)まで、ギリシャ政府が財政をごまかしてきた。しかし、そうだとしても、ギリシャの若い世代には責任はない。将来に目を向けることが必要だ。欧州は債務免除と将来への投資の上に築かれた」と述べた。
 その上で、第2次世界大戦後と同じような、欧州の債務全体について議論する国際会議の開催を求め、「ギリシャだけでなく、複数の欧州諸国の債務再編は避けられない」と述べた。
 また、債務が再び膨らむ事態を回避するため、ユーロ圏諸国の財政赤字の規模を決定する新たな欧州機関の設置が必要だと主張。ギリシャにユーロ圏離脱を迫る政治家は「歴史のゴミの山に行きつくことになるだろう」とコメントした。
(出所)Wall Street Journal Japan, 2015-7-7

ドイツの歴史問題について過激なことを言っているようだが、英原文ではそれほど攻撃的でもないようだ。
In an interview with German newspaper Die Zeit, Piketty said Germany didn't repay its external debt after World War I nor did it repay debts after World War II and thus “has no standing to lecture other nations.”
Source: Market Watch, 2015-7-6


 とはいえ、独紙の中では比較的穏健、中道右派とも言われているDie Zeitに言うにしてはズケズケ言ったものだ。

同紙の記述を念のために引用しておく。

ZEIT: Aber die Schulden zurückzahlen sollten sie doch? 
Piketty: Mein Buch erzählt von der Geschichte der Einkommen und Vermögen, inklusive der öffentlichen. Was mir beim Schreiben auffiel: Deutschland ist wirklich das Vorzeigebeispiel für ein Land, das in der Geschichte nie seine öffentlichen Schulden zurückgezahlt hat. Weder nach dem Ersten noch nach dem Zweiten Weltkrieg. Dafür ließ es andere zahlen, etwa nach dem deutsch-französischen Krieg von 1870, als es eine hohe Zahlung von Frankreich forderte und sie auch bekam. Dafür litt der französische Staat anschließend jahrzehntelang unter den Schulden. Tatsächlich ist die Geschichte der öffentlichen Verschuldung voller Ironie. Sie folgt selten unseren Vorstellungen von Ordnung und Gerechtigkeit. 
ZEIT: Aber daraus kann man doch nicht den Schluss ziehen, dass wir es heute nicht besser machen können? 
Piketty: Wenn ich die Deutschen heute sagen höre, dass sie einen sehr moralischen Umgang mit Schulden pflegen und fest daran glauben, dass Schulden zurückgezahlt werden müssen, dann denke ich: Das ist doch ein großer Witz! Deutschland ist das Land, das nie seine Schulden bezahlt hat. Es kann darin anderen Ländern keine Lektionen erteilen.
Source: Die Zeit, 2015-6-27

債務というものについてモラルを説き、借金というのは返済されるべきなのだと言うドイツ人に耳を傾けていると、それは冗句だろうと思うのだ。ドイツこそ、債務を一度も弁済しなかった国なのだから。

これはキツイね。が、フランス人ならこう言いたくなるところなのだろう。

☆ ☆ ☆

ドイツは戦争中にギリシアで行った蛮行についてまだ賠償、というか戦後処理を終えていないと聞いている。それでギリシア・チプラス政権は巨額の賠償支払い要求を行うかもしれない。
 「法的に有効だ」。ギリシャのパブロプロス大統領は4月末、戦時中の占領に伴う損害の賠償請求について独メディアで語り、国際司法の場を含めた対応の必要性を強調した。ギリシャのチプラス政権は1月の発足後、「道徳的義務」として賠償請求の検討を表明しており、賠償額を約2787億ユーロ(約36兆円)と試算する。

(出所)産経ニュース、2015年5月6日

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1990年から2008年までの20年のグローバリズムの後、いまは反グローバル化に向かう反動期にあるのだろう。

反グローバル化を支える理念に、ローカリズムがあり、それが時にナショナリズムになるのは、言葉の定義からも容易に憶測できる。

そしてローカリズムの台頭の背後には、実体的要因として世界的所得・資産分布の不平等、更に自由な国際経済システムがもってきた正当性の後退が挙げられる。これまた自明の事実でありそうだ。

更に、ローカリズムやそれが先鋭化したナショナリズムが社会心理として浸透する時、歴史問題が蒸し返されることも、よくあることである。


☆ ☆ ☆

もし歴史ビッグデータが、整備されているとすれば、ここにいま挙げた幾つかのキーワードが、一定のコンフィデンスをもった有効な連関規則として結び付けられている。小生はそう思っているところだ。

歴史は、相互の異質性を際立たせ、グローバリズムやそれがもたらす普遍性という価値を崩し去る力をもつものだ。

だとすれば、歴史というのはいま生きている人間にとって、単なる一つの文化作品という以上のどんな意義があるというのだろう?

歴史とは、合意の上に成り立つ作り話以外の何物でもない。

近代市民社会は軍事力によってもたらされたというが、その主役の一人であったナポレオンの名言として知られている。

革命を新しい社会の建設と達観すれば、歴史もまた作り話であると割り切ってしまう視点が必要かもしれない。少なくとも、それは科学ではない。また、ありえないし、あるべきでもない。そう思ったりもするのだな。

必要な歴史は合意と妥協によって、その時代の人間がつくればよいのだ。そう思うねえ。

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