2015年8月26日水曜日

安保法制審議 ー 不必要なドタバタ騒ぎか、信念による政治改革か?

参議院での安保法制審議もようやく佳境に入ってきた感じがする。これから野党が提出する対案との擦り合わせが(多分)行われ、衆議院による再可決という最悪の事態を避けられるかどうかが、今後のカギになるだろう。

やはり「我が国の存立危機事態」に対して集団的自衛権を根拠に自衛隊という武力集団が対応するという根本的設計が違憲であるという、この難問が壁のように立ちふさがっている。武力集団が海外に派遣され活動すること自体、イコール武力行使になろうという単純なロジックである。

そもそも「存立危機」に対応するためには武力行使はやむを得ないという発想は、戦前期・明治政府の理念と全く同じである。

昭和天皇による玉音放送には次の下りがある。
帝國臣民ノ康寧ヲ圖リ萬邦共榮ノ樂ヲ偕ニスルハ皇祖皇宗ノ遺範ニシテ朕ノ拳々措カサル所
曩ニ米英二國ニ宣戰セル所以モ亦實ニ帝國ノ自存ト東亞ノ安定トヲ庶幾スルニ出テ他國ノ主權ヲ排シ領土ヲ侵スカ如キハ固ヨリ朕カ志ニアラス
「帝国の自存」と東アジア地域(=東亜)の安定が目的であり、他国の主権を排し領土を侵す意図はなかったと記されている。

この立場は開戦の詔勅から一貫している。開戦時の詔勅には以下のように表現されている。

少し長いが関連する部分を引用しておく。
米英両國ハ殘存政權ヲ支援シテ東亞ノ禍亂ヲ助長シ平和ノ美名ニ匿レテ東洋制覇ノ非望ヲ
逞ウセムトス剰ヘ與國ヲ誘ヒ帝國ノ周邊ニ於テ武備ヲ增強シテ我ニ挑戰シ更ニ帝國ノ平和的通商ニ有ラユル
妨害ヲ與ヘ遂ニ經濟斷交ヲ敢テシ帝國ノ生存ニ重大ナル脅威ヲ加フ朕ハ政府ヲシテ事態ヲ平和ノ裡ニ囘復
セシメムトシ隠忍久シキニ彌リタルモ彼ハ毫モ交讓ノ精神ナク徒ニ時局ノ解決ヲ遷延セシメテ此ノ間却ツテ
益々經濟上軍事上ノ脅威ヲ增大シ以テ我ヲ屈從セシメムトス斯ノ如クニシテ推移セムカ東亞安定ニ關スル
帝國積年ノ努力ハ悉ク水泡ニ帰シ帝國ノ存立亦正ニ危殆ニ瀕セリ

要するに、我が国のほうは平和を願ってきたが、米英は「平和」を口実に日本の生存に重大な脅威を加え、平和に向けての積年の努力も水泡に帰したため、帝国の存立が危殆に瀕することとなった。こんな事実認識が文章になっている。・・・いわばまあ、日独伊三国軍事同盟は当時の政府が選択した集団的自衛権の行使であった。

もちろん、事後的に日本と日本の外側を公平に眺めれば、日本のほうが東アジア地域を侵略していると同時代で判断されたのは仕方がないし、現時点においてもそう判断するべきだと小生は思う。

とはいえ、戦前期・明治政府はただ自存自衛のために武力を行使したのだと言っている。

存立危機事態に関連する自衛隊法の改正については『「新三要件」で新たに可能となる「武力の行使」は「我が国を防衛するため」のやむを得ない「自衛の措置」で あり、「存立危機事態」への自衛隊の対処は、自衛隊法第76条(防衛出動)と第88条(武力行使)によるもの とし、第3条(自衛隊の任務)において主たる任務に位置付ける。』と政府は説明している(資料) 。

原案のままでは、太平洋戦争開戦時の理念とどこが違うのか、違いがよくわからない。

「武力行使」以外の外交的努力を政府に強制している点が現行憲法の最大の特徴である ― これは前にも投稿した。武力を使うかどうかで憲法は内閣の(改憲も可能な国家自体の、ではない)手足を縛り、政治的裁量を与えてはいない。『刀を抜くな』、『抜きたい時も、刀以外で解決せよ』と普段の行政をつかさどる内閣には求めているわけであり、これまた歴史の反省に立った一つの国政上の原理だと言えよう。現在の批判は、これを覆す意図があるのではないか、というものだ。

そんな「覆す意図はない」と(いう意味のようなことを)安倍首相は述べているが、実際には開戦の詔勅と終戦の詔(のような歴史観)は誤っていないと(ホンネでは)考えているので、今回のような原案になってきている。どうやらそう見ておくのがロジックは通るような気がするのだナ。だとすると、集団的自衛権の行使容認という今回のアクション自体は正当だとしても、意図している本来の目的について不安を持たれるのは当たり前であり、文字どおり御本人及び悪質な取り巻き達の「身から出た錆」というものだろう。

いずれにしても、9月に成立の可能性は高いし、おそらく成立するのではないか。が、成立した法を根拠に自衛隊が派遣された瞬間に、違憲訴訟が出てくるに違いない。そして、現在の学界の傾向をみれば、最高裁で違憲判決が出て来る可能性が高い。そのとき、まだ安倍政権が続いているか、他の自民党政権になっているかによらず、安全保障政策を変更しなければ内閣不信任案が提出されるのは確実だ。その不信任案を否決すれば自民党の集団的自殺につながるだろうし、仮に解散をすれば、まず100%の確率で、自民党は負けるであろう。そして安保法制は大幅に修正されることになろう。

ブレの大きいこうした進路は、日本の「評価」という無形の外交資源を浪費することと同じであり、最終的には経済的国力の維持にも負の影響を与えるに違いない。

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