2016年2月21日日曜日

統計音痴の一例: 介護施設の虐待件数

TVのワイドショーを見ていると、果たして介護施設内で発生した事件が話題になっていた。

そこでは虐待件数の急増ぶりが折れ線グラフで示されていた。

何か、老人虐待がどんどん増えていると言いたげである。


しかし、この話し、半分は真実かもしれないが、半分は誤解。というより嘘である。

そもそも高齢者の人口が増えれば、介護施設も増えるのは当然だ。そして介護施設が増えれば、母数が増えるのだから、虐待件数が増えても当然だ。

人口が2倍になって自動車の台数も2倍になれば交通事故も2倍に増えて当然である。人が倍になれば、窃盗事件、殺人事件の件数も増えるだろう。

こんな風にあからさまに言ってしまっては実に身もふたもないのだが、この世の現実は善いことばかりではなく、悪いこともある。現実を管理するには客観的事実をまず達観することから始めるべきであろう。

余計な道草を記してしまったが、つまりこうだ。

故に、介護施設の運営状況について何かの知見を得たいなら、虐待件数を介護施設数で割って標準化しなければならない。

また老人が虐待を受ける可能性について何かを知りたいなら、虐待件数を高齢者人口で割った数字を見なければならない。


主要経済指標の一つである全国百貨店販売額をみるときも、必ず店舗調整後販売額をみる。なぜなら百貨店の店舗数が増えれば、その分販売額は増えると予想されるからだ。だから所謂「客足」の好不調を判断するには店舗調整後の数字をみる。ただし、これにも異論はあって店舗調整後販売額は百貨店の経営効率をみるための指標であるという人もおり、その人は店舗調整前の数字を見るべきだという。確かにそれも理屈だ。

なので、虐待件数の生の数字にも読み取るべき社会的メッセージはある。それだけ多くの虐待が世の中で発生しているという事実に変わりはないということだ。この事実は、それだけで社会全体としての幸福に大きな影響をもたらすに違いない。しかし、だからといって個々の介護施設の運営の中で過去よりも多くの虐待行為が発生しつつあると示唆されるわけではない。それを言うには施設数調整後の数字をみなければならない。

個々の介護施設がいかに真剣に誠実に運営されているとしても、総数としては虐待事件が世の中で増えていく。それは将来の人口構造を考えれば、いまから当然に予測される。多くの人はこの予測に反対しないと思う。

であれば、当然に予測されることについて、その一々を善い悪いと評価しても仕方がない。少しでも予測を下回るように、施設運営システム、価格戦略、メニュー戦略、それに従業員の待遇等々、これらを少しでも改善していくしか道はない。 これが実行可能な努力目標だ。

総数としては、それでも望ましくない数字が結果としては出てくると思うのだが。

いずれにしても、到達可能な目標を設定するべきであり、絵に描いた餅を現場に強いるべきではない。

【加筆】 ここまで書いてきて、念のため統計データをあたってみた。各種介護施設が混合されており、また虐待についても様々なカテゴリーがある。ザックリと言えば、上のように言えるが、実際に施設数を調整した数値を算出するのはTV局のスタッフには難しいと思う。右から左には出ない。この件については、改めてまた覚え書を投稿したい。それにしても日本の統計ポータルサイトe-Statの使い難さはどうだ。最初から統計データの名称がわかっている場合はスラスラと検索結果が出てくるが、それは作成官庁のサイトからでも入手できる。データの名称すらわかっていない場合にポータルサイトが役立つはずだが、一番必要な時にほとんど助けにならないのがe-Statである。アメリカのData.govと比較する気にもならない(2/22)。

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