2016年4月19日火曜日

エンゲル係数の上昇をなんとみる

やや旧聞に属するが、読売新聞に以下のような記事が掲載されていた。最近の日本のエンゲル係数(総消費に対する食費の割合)が上昇しているという点だ。

家計の消費支出に占める食費の割合「エンゲル係数」が上昇している。経済成長、生活水準の向上で数値は小さくなるとされ、戦後低下してきたはずだ。何が起きているのか調べてみた。 
日本のエンゲル係数は、1960年代前半は40%近かったが低下が続き、95年頃からはおおむね23%台で推移していた。ただ、2005年頃から上昇基調に転じ、14年に24%を超え、15年には25%を突破し、25・01%となった。
東京都内の40代の公務員夫婦は先月、家計を見直す中、エンゲル係数を計算して驚いた。28・8%。平均以上だ。小学生の子が2人いる。仕事で帰宅が遅くなると街の総菜店で買ったり宅配の冷凍食品を使ったりする。「割高だが、調理に時間がかからない。家族で食事を楽しむ時間を持ちたい」と妻。休日はほとんど外食という。
(出所)読売新聞(ヨミウリオンライン)、2016年4月12日

これに対して専門家の見方は以下のようなものだ。
エンゲル係数の上昇は、経済的に苦しいこととされていた。しかし共働き世帯や食を楽しむ人の増加など一概にそうとも言えない。豊かさを知る指標としては今も機能しているのか。 
小方さんは「生活が多様化し、日本全体の指標とするのは疑問。しかし、低所得層は依然として係数は高く、対象を見極めれば有効だろう。家庭で時々計算し、家計を見直すきっかけにしてもいいのでは」と話す。
(出所)同上

エンゲル係数上昇の背景として高齢化があげられることは当然である。
高齢者世帯の増加も一因とみられる。おしゃれや趣味への支出が減る一方、食事は欠かせないからだ。弁当や総菜の利用も増える。都内で独り暮らしの女性(98)は「1人分の食事を作るのは気が乗らない」と話す。朝はパンとスーパーで購入したサラダ、昼はデイサービスの施設で食事、夕食は宅配の給食。
高齢者向けの総菜などに力を入れるセブン―イレブンの担当者は「食の外部化はさらに進む」と言い切る。
(出所)同上

食にどれほどカネを使うかは(基本的には)その世帯の趣味・感性による、とは確かに言える。しかし、エンゲル係数の高さを決める最重要な要因としては、実質所得水準-総消費をほぼ決める-と世帯人員が挙げられることは、概ね合意が形成されている。高齢化によって料理を省き、外食やコンビニの弁当を利用する頻度が高くなるのは、そもそもコンビニなる業態がなかった昔から、ある程度わかっていたことである。

齢をとったから食費がかさんでくるのは昔からそうだったの。だからと言ってお年寄りは暮らしの水準が落ちていたとはいえないでしょ。そうしたほうが楽だからお弁当を買っていたのよ。貧しいからじゃないの。最近のエンゲル係数はお年寄りが増えていることが背景にあるんでしょ。だからといって暮らしの豊かさが落ちているということにはならないのよ。

これが上に示した専門家の見解にかなり近い。


確かに、ミシュランの星三つで食事をしても「食費」、節約をして家でご飯をたいても同じ「食費」である。この二つともが<必需財>であり、そうである以上、生活水準に向上に伴って比率は下がるはずである、と。そうは一概に言えないだろう。

カネにゆとりがあれば、誰でも高級フレンチには行ってみたい。マル鍋やテッチリをたまにはつついてみたいものだ。これらは<贅沢財>ではないか。

共働きは、専業主婦に対する別の選択肢であって、一つのライフスタイルである。より高い所得を求めて、共働きをするなら、外食や宅配・弁当はどうしても増えるでしょうと。これもライフスタイルの選択である。

だから、エンゲル係数が高い・低いという現象も多分にライフスタイルの選択なのではないですか?

問題だと騒ぐ必要はありません。世の中うまく行っています。

なるほど一つの見方である。


統計データは平均的なトレンドを示している数字である。

食が贅沢財になっている家庭と、食は必需財であると感じている家庭と、どちらの家庭の状況が統計データに反映されているか。その解釈が大事である。

小生のカミさんの友人たちは、時にレストランで家族そろって食事を楽しむ人もいるが、そんな人ほど普段の食費は実に節約しているときいている。一円でも安く豆腐を買うべく、買い物ツアーをするバーゲンハンターであると聞いている。

それでもエンゲル係数があがれば、それは「上がってもよい」ではなく、「上がってしまった」とみるべきではないのか。

そもそも食費がかかれば、他に欲しいものは買いづらくなるのが理屈だ。他に欲しいものがないから、食にカネを回しているのか。

そうではないと思うのだがなあ・・・


エンゲル係数が上がるのも、新しいカルチャーが生まれつつあることの兆しではないか・・・。なるほど、ポジティブ・シンキングとしてはよく出来ているが、ここまで楽天的になると、「ノー天気」と批判されても仕方がないのではないだろうか。そんな心配もされてくるのだ、な。

ま、何にせよエンゲル係数を下げる特効薬。それは自由貿易。TPPをスタートさせた後、エンゲル係数がアメリカ並みに下がるのか、ドイツ程度にまで下がるのか、シミュレーションはできるはずである。

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