2018年2月20日火曜日

今度の忖度は厚労省のデータクッキング? ホントにそうなんですか??

愛媛県今治市の加計学園獣医学部新設に関連して、内閣府が所掌する国家戦略特区を安倍総理の友人に有利な形で調整するよう総理自身が圧力を行使したのではないか、と。特区を所掌する内閣府が「総理の意向である」と文科省に強い圧力をかけたのではないか、と。行政を歪めた、と。許せない、と。

森友問題もそうであったが、昨年の春先からずっと野党が政権攻撃の最大の理由としたのは、総理が管轄外の事柄に不当な圧力をかけたのではないかという疑惑であった。

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現在進行中の衆議院予算委員会審議では、厚生労働省の実態調査の技術的不備をとりあげ、その調査結果に基づく過去の答弁を総理が撤回したことが無責任であるとして、野党議員は安倍総理の責任を追求している。「事実に基づき政策は進められるべきであるにもかかわらず、間違った調査に基づいて答弁をするのは不適切である・・・」と、こんな風な非難である。

ことは裁量労働制の是非であり、働き方改革を基礎付ける法案とその正当性を証拠づける統計データが問題になっている。

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確かに裁量労働制になると、毎日一定時間の仕事をしていると見なされるため残業手当はつかなくなる。仕事に従事している時間が8時間を超えている場合でも8時間と見なされる。その代わり、働き方は自分の裁量でスケジュールできるようになる。

一般労働制では多くの場合、毎日8時間の就業時間を設けているので、8時間を超える時間は残業として記録される。残業には手当が支給される。もし「最長の残業時間」がわかれば、それを8時間に加えて一般労働者の最長労働時間(の目安)が出てくる(という点が問題になっている)。

実態調査では裁量労働者については労働時間を調べている。一般労働者は最長残業時間である。この二つの労働時間は概念が異なるので比較できない。これが問題のコアである。

野党は、改めて実態調査をするべきであると要求している。

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一般的に、利用できる他のデータがない場合比較をする必要に迫られたとき、結果について特定の解釈を行い、その解釈を前提にして、概念調整された数字を導出することは、経済分析では日常茶飯事的に行なっている。野党が質問をしたので答弁をする必要があった、だから厚生労働省内部では既存の情報から計算をしたものと推察されるのだ、な。

なぜ最長残業時間を8時間に加える手法をとったのか。それは分からない。とはいえ、別調査で調査実施月における平均的な残業時間分布が分かっているなら、その中央値と最大値との比率をとって、残業時間の目安がわかるだろう ― 厚労省ならこの程度の情報を持っていないとおかしいし、少し調べただけでも日経連が所定外労働時間の分布を公表していることがわかる。省内になくともデータ協力依頼くらいはできるだろう。それを8時間に加えれば、モデルケース的な労働時間は一応出てくる。どうせ(という言い方はやや捨て鉢だが)サンプル調査なのだから、行政の参考にするのが目的なら、この程度の作業で十分のはずだ。

異なった複数の統計調査結果を組み合わせて、知りたい事柄の目安となる数字を導出する作業は日常茶飯事的な分析作業である。

もし概念調整を行う統計的操作がダメだというなら、GDP統計すらもダメだという判定になる理屈だ。GDP統計もまた加工統計である。

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主旨はわかるが、非常に細かなディーテイルである。

せいぜいが「資料要求」が相場の質問である。

「適切な統計データがありませんので、裁量労働者と一般労働者の労働時間の比較については、お答えできませぬ」と答弁するべきであったのだろうか。

「きちんと実態調査をしてほしい」と、野党はまたそんなことを言っているが、厚生労働省は「予算要求の格好な理由を提供してくれた」とコッソリ喜んでいるに違いない。財務省に対して「政治問題にもなっており、大々的に調査を実施する必要がある」とこの8月には予算要求するかもしれない。

野党の当面の狙いはこれなのだろうか。

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よく分からないのだが、この件は厚生労働省の行政の細部に関わることである。担当閣僚は厚労相である。総理大臣は、(野党の理屈からいえば)管轄外である。総理の答弁を得たとしても、具体的な内容を語れるはずがない。語れば、現に「圧力」を加えたことになる。

にも関わらず、野党議員は総理の意見を求めることが多い。その主旨は、総理が担当閣僚に何かをせよと指示せよという趣旨なのだろうか?「総理の指示」は「総理の圧力」にならないか。それは加計学園獣医学部新設において野党が最も非難した行為ではないのか。

野党の議員は総理大臣の所掌と担当閣僚の所掌とどのように線引きしているのだろうか?

前もよく分からなかった。大学に戻ってからわかるようになったことは多いが、上の点だけは、今だによく分からないのだ、な。

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ま、何度も投稿しているが、韓国人の「日本バッシング」もそうだろうが、いまの世の中、バッシングするなら、先ずはロジックよりも「反▲▲」を重視するTVのワイドショー、次に小党乱立で次々に登場する野党議員の方たちだ。実にバッシングしやすい。そもそもアンバランスに目立っている。何がターゲットなのか、これが最善の戦略なのか、と。見ているこちらはツッコミどころに困らない。「何とかならんのかネエ」とさえ言っておけば、多くの人と感覚を共有できる。

こんな時代といえばオシマイになるが、この現実はやっぱり悲しいネエ・・・

裁量労働制・・・個人的には大いにウェルカムだった。時間に束縛されず、自由にスケジュールをたてて、それで毎日8時間の業務に従事していると見なされる。これほど嬉しいシステムはない。これが実感であった、な。出勤簿の煩雑さから解放されたし、超過勤務手当の支給率に目をとがらせることもなくなった ー もともと大学教員には残業手当はつかないのが通常だ。そんな仕事だから仕方がないと思うが、それでもなまじ「勤務時間」が決まっていると「これって、超過勤務してるよなあ」と。そんな思いにかられることもある。こんな職種は広く世間にあるのではないだろうか。

人は色々、仕事も色々だ。今後はもっと個人間で仕事の内容がばらつくだろう。これまたそんな時代なのだから仕方がない。

野党は「厚労省が官邸を忖度したデータクッキングである」と見ている(というより、持っていきたい)ように見える。しかし、森友や加計学園獣医学部の忖度疑惑と今回の件はスケールが違いますぜ。去年のモリカケは、まあ一言でいえば「どうでもよいマイナーかつ細かい話し」であった。しかし、働き方改革をつぶすというのは、国民全体に関係する話だ。野党も本気でやるなら、覚悟を決めてからやるべきだ。モリカケの乗りで気軽に嫌がらせ程度の気持ちでやっちまっているようだが、今回の件は経済界、労資双方ともども、高い関心をもっている大問題である。言う方も言われる方も<政策感覚>が試されるのは間違いない。野党にそれほどのリスクに耐える力はあるのか・・・小生、疑わしいと思ってみているところだ。

国会が中継される初夏ごろまでは、このブログでも格好の話題を提供してくれそうだ。


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