2018年12月29日土曜日

「反論はこうでないといけない」という一例

アメリカ金融市場で長短金利が逆イールドになったというので、景気後退が近いという警戒感が高まったことは記憶に新しい。

小生もFREDが提供しているデータサービスで長短金利のスプレッドを定期的に確認するのが習慣になっている。

ところが、この「常識」に対して最近になって異論・疑問・反論が結構多く投稿されている。これはなにも経済関係の話題に限ったことではない。

ではあるが、そのほとんど全ては「僕はそうは思いません」という式の主張であり、演繹的な証明も観察事実の指摘もないままに、「そうは思われないのです」という結論が述べられているだけの投稿が多い。

「思いません≒わかりません」かもしれないし、「思いません≒思いたくありません」かもしれない。もしそうなら率直に「・・・については研究したことがなくわかりません」、「そうなっては困るので、そうは思いたくありません」とシンプルに書けばよいだけである。そんな風に思ってしまうことがママあるのだ、な。

ただまあ、ブログというのは覚え書きや文章修行には格好のツールでもあるので批判するつもりはまったくないのだ。人さまざまである。

★ ★ ★

ロイターに以下のような文章(=報道?)がある:
[ロンドン 21日 ロイター] - 国債の利回り曲線で長短金利差が逆転する「逆イールド」は、米国では景気後退の予兆として極めて高い信頼性を誇る。しかしドイツや日本など米国以外の主要経済国ではそれほどでもない。 
米国債は先に2年物と10年物の利回り差がわずか9ベーシスポイント(bp)と、2007年以来の水準に縮小した。経済指標が弱いにもかかわらず、米連邦準備理事会(FRB)が利上げに傾いているとの懸念が広がったためだ。 
米市場の影響力の強さもあり、米国以外の国でも利回り曲線はフラット化が進み、ドイツでは2年ぶりの水準近くまでフラット化した。
米国では景気後退前にはほぼ必ず逆イールドが発生しており、この例から外れたのは過去50年間で1回しかない。 
一方、米国以外の状況は異なる。例えばオーストラリアは1990年以降、逆イールドが4回起きたが、その後景気後退に陥ったのは1回だけ。他の3回は成長鈍化にとどまった。 
日本は1991年以降、一度も逆イールドが起きていないが、その間に何度も景気後退に見舞われ、2014年には消費税率引き上げを受けて景気が大幅に悪化した。実際のところ、日本では利回り曲線と景気後退の間に相関を見出すのは難しい。 
英国では利回り曲線と景気後退に相関はあるが、米国ほど強くはない。1985年と1997年に逆イールドが発生したが、その後1年以内に景気後退は起きなかった。 
ドイツDE2DE10=RRでは2000年代半ばと2009年に逆イールドが起きた際、景気後退に陥った。一方、2012年の欧州債務危機の際には、景気後退には陥ったが逆イールドは発生しなかった。 
欧州最大の債券市場を持つイタリアは今年、政治危機などを受けイールドIT2IT10=RR が2011年以降で最もフラット化した。ただ2000年以降をみると逆イールド後に景気後退となったのは5回のうち1回だけだった。

(出所)Reuters、2018年12月29日 08:17配信

逆イールドはアメリカ経済に関する限り経験的に安定して確認されている景気後退の予兆であるが、その他の先進国では必ずしもそうは言えない、と。具体的な観察事実が淡々と示されている。

であれば、アメリカ以外の国に住んでいる人が自国の傾向を念頭に置きながら『逆イールドが景気後退の予兆であるとは思わない』と言うとしても、そのことは極く自然なことである。「私の国に関する限りでは」という枕詞があれば、もっと正確になる。

国が違えば、生産性上昇率も違うし、高齢化の進展度合いもまた違う。経済常識は国ごとに別々で、一律には言えないものだ。

ただ反証を示せば、決定的な反論になる。それで足りる。反証が重なれば常識は覆る。こうでないといけない。

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