確かに高市首相はミスをした。外交経験の不足と自信過剰、支持基盤への配慮など幾つかの理由があったにせよ、「いま言う必要がないこと」を「最悪の場所とタイミング」で発言したのは否定しがたい。
碁や将棋であれば、その時には「悪手」。対局後の検討では「大悪手」と判定される一手に似ている。
純粋のミスであれば撤回もできるが、政治的狙いが混じっていたのであれば、撤回できない。それに、今さら撤回しても有効ではなく、むしろマイナスにしか働かない。手当しなかった「断点」に石を打ち込まれれば、時に「総崩れ」になるものだ。
中国は「守りのほころび」、「日本の弱み」を突いてきている。
米国は中国とBig Dealを欲している。経済的報復の切り札を持っているのは中国側だというもっぱらの評価である ― レアアースや巨大市場としての魅力を指しているのだろう。トランプ大統領は中国と商談を進めたがっている。
その弱みを中国は突いてきている。
日本とアメリカはつながっていなかったのだ。その状態で高市首相は「いう必要がないこと」を国会で発言した。
その「ほころび」を中国は突いてきている。
日本の外堀を埋め、日本を外交的に孤立させる好機が《棚からボタ餅》のように北京政府の上に降ってきたわけだ。
日本が圧力に負けて高市首相が(事実上の?)発言撤回に追い込まれれば、日本には《アメリカは頼りにならず》という痛恨の記憶が残るだろう。
アメリカが対中商談に執着すれば、日本に対中譲歩を要求するだろう。日本の不信をかい西太平洋の重要根拠点を失ってでもアメリカが対中ビジネスを選ぶ可能性はある。
アメリカは手を広げ過ぎた。帝国ではないのだ。帝国を維持するのは膨大なコストがかかる。正に"Business of America is business"である。大アメリカではなく、小アメリカでもよい。その方が安上がりに豊かな国をつくれるというものだ。
そういうことかもしれない。しかし、それは中国が西太平洋海域を勢力下におさめる第一歩になるだろう。
地政学上の大きな変動が進む分岐点にさしかかっているのかもしれない。
トランプ政権の大局観が間違っていれば、それが第一の理由になるのだが、その大変動の始まりは同盟国・日本の新米首相が想定問答を無視して自分の言葉で語った《軽い一言》であったということか?
しかし、
戦場で歴史的大敗北をもたらした原因は、一人の兵が乗っていた馬が小さな小石を踏み損ねて驚いて悲鳴をあげたことである。その小さな事故が味方にとっては最悪のタイミング、敵にとっては最良のタイミングで起きた。
これを《バタフライ効果》というが、太平洋海域の地政学的パワーバランスが大きく変動する(ことがあるとして、その)契機となったのは、高市首相のチョットした言い過ぎであった……、事後的にそんな風になる可能性が絶対にないとは言えないだろう。
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