2025年10月1日水曜日

断想: 「生死を出る」という表現は確かに「科学的」ではないネエ

統計分析を専門としてきたせいか、ずっと観察可能な現象で世界は説明できると考えてきた。典型的な《科学主義者》である。最近流行のエビデンスを何よりも重視する立場にいたともいえる。

科学の特徴は、世界の出来事はつまるところ観察可能である、観察可能ということは、大雑把に言えば、モノとして理解するということだ。つまり《物質的世界観》が根底にある。唯物論的世界観と言っても可であろう。

デカルトは宇宙については機械論で説明しようとしたが、哲学としては物質的存在と精神的存在を区別する二元論的立場をとった。

この点では小生はデカルトに共感する。科学主義では本質的な説明が不可能な対象もありうることに気がつくに至った。その辺のことは何度かに分けて投稿してきた。


例えば、自動車の自動運転技術が更に進化して、ほぼ完璧に公道を走行できるような時代になったとしよう。事情を知らない人が観察すれば、自動車は道路状況を観察しながら、最適な走行について考えながら走っているものと理解するだろう。

それをみた科学主義者は、自動車を1台に手に入れて、徹底的に分析する。

部品と部品との関係性、つながりから、発進、加速、方向転換、停止についてのメカニズムを理解する。エネルギー源と適切な供給についても理解する。それから人工知能の中枢を占める半導体回路を徹底的に分析する。回路における電荷と電荷の運動状態に応じて、自動車が特定の動作をすることまで突き止める。

このようにして、観察可能なエビデンスを徹底的に、かつ合理的に整理して、《真理》に迫ろうとする。


では、この科学主義者はまったく同じ自動車を複製して、その自動車にまったく同じ人工知能を搭載させることが出来るだろうか?

不可能である。

半導体内部のあらゆる状態に応じて、自動車が特定の動作をすることは観察可能だが、なぜ道路状況に応じて、電子回路網がその状態に変化し、なぜ自動車がそのような動作をするのか?この疑問全体に答える《知能システム》の基本設計が分からないからである。

その知能システムは、型式の異なった自動車であっても、転送可能であり、むしろより高度の運動能力を発揮させ得るということなどは、科学データからは補足できない。

つまるところ、

自動運転で走る自動車は、自動車自体が考えているわけではなく、自動車に考えることを可能にさせている《知的実在》が先にある。

こう考えなければ、話しが終わらない。つまり、《第一原因》であるのだが、カントはこの問題は人間の純粋理性が解答できる領域を超えた問題であるとした。

いま阿満利麿『法然の手紙を読む』を読んでいる途中なのだが、

ここでも「生死を出る」という表現が出てくるが、すでにふれたように、現代の私たちには理解が難しい言葉遣いであろう。私たちは、人の一生は生まれて死ぬまでの間であり、その前後には言及しない、というのが常識になっているからだ。

こんな下りがある。法然上人と『新古今和歌集』で著名な歌人・式子内親王との交流に触れている個所である。

現代技術文明の基盤は「科学主義」で、それが「常識」になっているのは仕方のない事だ。しかし、科学が人の知性を制覇する以前の時代においては、科学者が仕事をするときの作業仮説が、科学者ではない普通の人の常識でもあったというわけではなかった。

科学はこの300年から400年の間に、人間の知的営みからおよそ《非科学的想像》を追放してしまった。「非科学的空想」には意味がないというわけだ。

しかし、思うのだが、水と一緒に赤子も捨ててしまったような気がするのだ、な。

人間に観察可能な(=測定可能な)事実が、宇宙の全ての真理を教えるとは限らない。どちらに考えても、それは一つの認識論的立場に過ぎない。

輪廻転生論をどう考えればいいか、科学で結論が出るまでは100年間では足りるまい。物質的身体の世代継承は科学で捕捉可能だが、「識」や「種子」の相続は半導体回路の電荷の分布を分析する作業にも似て、実証的には解明不能だろう。

結局のところ

人間の知性は「人間の知性」自体の所在を外側から確認することが出来ない。ここが人間の造った人工知能とは決定的に違う。

この一点にかかってくる。今はこう考えているわけであります。

結局、本日投稿の主旨は

知性(と生命は?)は自然発生的に物質の中に生まれて成長するものではない。

小生は「ない」と思うが、「あった」と考える人もいるだろう   ―   小生の目には過激派・科学主義者で完璧な唯物論者に見えてしまうが。

こういうことであります。

空海が云ったという《両部不二》、つまり物質界と精神界とは究極的には一つの実在に統合されている・・・確かに、物質と非物質とを二つに区分できるのかどうかさえ、物理学の今後の発展による話題なのだろう。これは忘れないための付け足し。

読書中に思いついたので、メモしておく次第。


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