「貯蓄から投資へ」という標語を拡散させたのは岸田内閣ではなかったかと記憶している(違ったかな)。日本限定か世界の課題としてかは分からなかったが、「新しい資本主義」という呼びかけもしていたはずである。
しかしながら、最近になって、「投資なんてリスクがあるでしょ?リスクは避ける方が賢いですから」と言いつつ、投資に背を向けて、(何と)家賃収入が得られるからと貸家を買ったり、直近で相場が急騰している金をわざわざ高値で買おうとする若年世代が増えつつあると、どこかのメディアで視たか、読んだかした覚えがある。
不動産など土地にしても住宅にしても流動性に欠けるし、メンテナンスにも資金がいる。金など唯々値上がりを待つのみという非運用系のゼロ配当資産である。それでも消費財ではない以上、これらを買えば資本支出。つまり投資である。
このほかにも
リスクって言葉の意味、理解していないヨネ
と、思わず突っ込みを入れたくなるような記事が結構目につくわけである。
それでも
日本人のリスク回避や安全志向が成長を妨げる最大の理由なんですヨネ
と。こう断定してしまう訳には、実はいかない。事実は、逆である(と思ったりする)。
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実際には、日本人は結構ギャンブルが好きである。
公認カジノこそまだ開業していないが、競馬、競輪、競艇は公的に認められた賭博であるし、パチンコだって実質はギャンブルである。
こんな投稿もネットにはみられる ― 数字の裏はとったほうがイイかもしれない:
【データ】日本のギャンブル依存症率
➡ 成人の約3.6%(約280万人)がギャンブル依存症(2017年 厚生労働省調査)
➡ 他の国と比べても異常に高い(アメリカ1.0%、フランス1.2%)
この原因として、日本にはパチンコが全国に多く存在する ことが影響しています。
パチンコは「ギャンブルではなく遊戯」として扱われているため、実質的に規制が緩い のが現状です。
URL: https://note.com/misa_matsuzawa/n/n52866dd75655
年末が来れば「歳末宝くじ」を必ず買う人は普通にいる。「賭け麻雀」、「賭けゴルフ」はご法度であるが、実際には厳守されているわけではないだろう。
ことほど左様に、元来、日本人は《丁か、半か》の声が飛び交う鉄火場を決して嫌っているわけではない。
ギャンブルの好きな国民がリスク嫌いである理屈はない。どこかに勘違いがあるのだ。
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小生思うに、「リスクは避けるべきだ」という注意/助言が、メディアを通じて、過剰に日本国内で発信されている。
何だかメディアが注意している通りに日本人は慎重にリスクを避けているかのように思ってしまうではないか。
しかし、事実は違っている。最近のメディアに目立つのは独演・一人踊りである。
現実には、日常生活の中で日本人は高リスクの遊びに相当のカネを支出している。但し、それらの支出は、遊び、つまり《消費》として観念されているので、《投資》とは言わないだけである。しかし、「払いっぱなし」ではなく明らかにリターンを求めてパチンコで遊ぶ心理は、値上がりと配当を求めてお気に入りの銘柄の株式を買う投資家の心理と、当事者の感覚としてはホボゝ同一である。その支出を楽しんでいる心理に変わりはないのだ。
競馬の馬券を買うときの「リスク」は、米株AMZN(=アマゾン)を買うときのリスクよりは、余程大きいであろう。公開された経営情報や随時の換金性を考えると、株式投資は極めて透明かつ合理的なカネの使い方である。
違いがあるとすれば、JRAに払われたリスクマネーが次はどのような使途に振り向けられるか。Amazon.comに流れたリスクマネーがどのような目的に使われるか。ここが違う。近年の結果から確認されるように、JRAに払われるリスクマネーは日本経済にはほとんど何の役にも立っていない。他方、Amazon.comが受け取ったリスクマネーは、同社の事業効率化やAWS拡充など生産性向上のために使われている。
本来はリスクを恐れていないにもかかわらず、日本人が支払うリスクマネーが(まったく?)生かされないのは、払う先がマネーを生産的に使わないからだ。そもそも生産的に使おうという意志すらもないためだ・・・こう考えるのが理屈というものだろう。
つまり、
日本人はリスクが嫌いなのではなく、むしろギャンブル好きな方なのであるが、自分が引き受けるリスクを客観的に認識・評価できていない。リスクとリスクをカバーするリスク・プレミアムとのバランスに無頓着である ― この根底には確率的な思考が苦手である点が挙げられるが、これはまた別に。
だからこそ、カネをドブに捨てて省みない金持ちもいれば、無駄遣いを無駄と認識できない経営者が数多いるわけである。
こういう事が、マクロ的には日本経済の足を引っ張っているのではないかと思いついた次第。
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「株式や債券(!)といった金融投資にはリスクがあります」と、(たとえばTV番組が)資金の運用を話題にする時に必ずと言ってよいほど断りを入れる。それもムベなるかな、である。そもそも、メディア企業自体がリスクについてよく分かっていないのである ― 保護産業にリスクが理解できないのは自然な結果ではあるが・・・
たとえば(株や馬券ではなく)土地や貸家などの実物資産を買う時にも、必ず(より巨額の?)リスクを負っているのであるが、そういう資金運用の仕方を(ここ日本では?)株式ほどには不健康視しない。これも不思議な感性である。
リスクという概念の定義、リスクの大小を評価する方法。消費の感覚と投資の感覚、投機の感覚。これらの経済的センスは、自動車を運転するための交通ルールと同程度の常識とするべき知識である。せっかく新聞、TVというオールドメディアが(まだ?)あるのだから、もっと頻繁に登場してもよい話題だと思う・・・ちょっと日本のメディア企業には無理な期待かな?
【加筆修正:20250918】
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