2014年11月25日火曜日

メモ − この経済音痴ぶりはなぜか

いま「不況」だと野党は言っているようだ。大衆系週刊誌も「不況」だと書いている。

しかし、政府が意図的に不況にしようと考えるはずはないわけで、そもそもそんな政策は公約違反だ。

消費税率は引き上げる。財政支出は増やさない(そもそも国債発行を減らすのが目的だから、増税+支出拡大では元も子もないわけだ)。この場合は、家計の手元に残るカネが減るので、消費が落ちるのは当たり前だ。増税が景気を悪化させないようにするには、同時にどんな需要を増やすかを考えておかないといけない。ここの配慮が−財政再建原理主義者が政府部内で強い影響力を持っていると想像するが−足りなかった。そんな所だろう。財政再建自体が景気にプラスだと説得するのは、余りに精緻な理屈をこねる必要があり、説得は極めて困難なのだな。財政再建は景気というより、長期的に見た日本への国際的信頼を高め、投資や起業を活発にして潜在的成長力を高めることに戦略的意図がある。社会保障を充実させるためというが、そもそも財務省には今以上に社会保障支出を充実させる意志は希薄だとみている。増税の目的は財政再建。ここでウソをつくべきではないだろう。

「アベノミクス」というのは、現政権のマクロ経済戦略で一定の行動方針のことを言っていると理解しているが、その道筋は

  1. デフレ脱却 (← 物価 ← 量的緩和・金融政策)
  2. 財政健全化 (← 消費税率引き上げ+インフレ)
  3. ビジネスに優しい制度改正

この三本柱を順に実施していく。戦略の目的は「潜在的な経済成長率引上げ」だと言っている。こんなところではないか。

これに対して、先代の白川日銀の狙いは少し違っていた(ように見ていた)。高齢化が進む債権大国・日本がとるべき道として<通貨の信頼性>に重きをおいていた。ところが、日本の金融政策が世界から評価されることで<円高>が進む。円高は円ベースで資産を有する高齢世代には優しいが、デフレは持続しがちになるー実はドルベースの資産も減価する。そのデフレは短期的には実質金利を高く意識させるのでビジネスには厳しい。とはいえ、デフレは物価の低下。商品価格が下がったと(短期的には)錯覚する人もいるが、長期的には重要ではない。こんな見方であったに違いなく、これまた一つの完結した経済戦略である。そう見ていたのだな。

どちらも将来の日本人の暮らしを守る戦略にはなっている。あとは日本人がどちらを選ぶかである。どちらが目的を達するのに効果的な戦略か。それがディベートの論題だ。ところが<伝道者>なり、<啓蒙者>がいまの日本には不在なのだ、な。そもそも政府の経済戦略を分かりやすく伝えるはずの『白書』がずいぶん難しい本になってしまった。官庁エコノミストという職業集団もほぼ消滅した。

いまいるのは足元の景気が上がっているのか、下がっているのか。そんな景気判断をするエコノミストである。景気判断は確かにニーズのある専門家サービスだからなくなることはない。

独自の・自分だけの意見を発表して、専門家の世界で自分が占めるポジションを上げたところで、社会的なインパクトは誤差の範囲である。本来はいずれかの陣営に分かれて論争するべき問題が、実は目の前にあるにもかかわらず、専門家は論争せず、自分と他人の違いを説明することを考えている。論争しないから普通の人たちも路線選択を迫られていることに気がつかない。間違いを正そうと。そんな原始的な発想でニュースを聞いている。

政治家やマスメディアの経済音痴の背景には、専門家の論争回避、論争をして負けるというリスクを避ける。こういう安全第一の姿勢が遠因であると。そう見ているところだ。せめて経済閣僚同席の場で、あるいは国会の公聴会という場で、経済専門家が二つの陣営に分かれてディベートする。そうすれば、直観にすぐれた政治家は”御前試合”の成り行きをみて、どちらが信頼に値するかを悟るに違いない。いま為すべきことは<決着>をつけて、その結果を国民に広く語り、最終的な目的とそのための戦略を国民が意識として共有することだろう。

このようにしても直ちに理想的な経済戦略が採用されるとは限らない。しかし、少なくとも「社会保障充実」と一方で唱えながら、一方で「暮らしを守るため」に家計への増税には反対、国債増発にも反対、企業には増税を、と。こういう愚かな大衆扇動型の政党を淘汰するには極めて有用なはずである。

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