2013年6月21日金曜日

政策の「透明性」と戦略効果のバランスとは?

「手の内を明かさない方がよい」という言い方がある。あらかじめ言ってしまうと、相手がそれに備えるので、かえって善かれと思った効果が出てこない、というものだ。

「▲▲政策を実行していきます」と公表することをゲーム論では<コミットメント>という。このコミットメントが実効ある前提として、言ったことは守られるという「信用」がある。もし発言が信用されないなら、何を言っても言わないのと同じであり、無視されるだけである。

値上げ戦略は経営戦略分野では「デブ猫戦略(Fat Cat Strategy)」に分類されている。というのは、値上げの直接効果をみると相手の利益にとってプラスであるから、ライバルにとってはソフトコミットメントである。また、自社の戦略から予期される相手の反応も「同調値上げ」であるから ー その方が相手にとっても足下の利益拡大に沿う ー 戦略効果もプラスであるからだ。戦略効果がプラスだから、値上げ戦略を実行するなら、自社の方針を事前に公表し、競合企業にも知ってもらう方がよい。コミットすることでプラスの戦略効果が速やかに現れるので、自社の戦略がそれだけ効果的になるのだ。

反対に、値下げ戦略はライバルの顧客を奪うタフコミットメントであり、それゆえにライバルから報復的値下げを招くことが予期される。それゆえ、値下げ戦略をとる場合は、あらかじめ公表するなどは愚策であり、沈黙したまま実行するべきである。いずれ販売数量減少に直面したライバルは、その原因を調査して、自社の戦略変更を知るだろう。知った後は、対抗的な値下げを行うだろうが、こちらから先に言って、自社によいことは何もない。

このように<コミットメント>が望ましい場合と望ましくない場合があるわけで、その使い分けは自らの行為が相手に与える影響をどう読むかという戦略的効果の分析いかんにあるわけだ。

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黒田総裁は、逐次投入はしないと言って、緩和バズーカ砲をはなった。市場はそのつもりで日銀をみるようになった。バーナンキ議長は、これから締めていくからネ、とコミットした。

FRBは、量的緩和からの出口戦略を予告し始めた。国債の買取額は、年内にも削減を開始し、来年の前半には終了する見込みであると、「前ビロに」予告したわけであるが、このコミットメントは必要だったのだろうか。

アメリカでは必要な金融データは十分に提供されている。市場参加者は、いくらでも現状を分析できるし、将来を予測できる。FRBが状況判断を微調整し、<沈黙のまま徐々に国債買取額を減少させていったとして>、それは金融データから<事後的に>確認できるわけである。政策レジームは一定のまま、市場の需給調整に対応したと言えば、そう言えたはずである。議会で、今後の金融政策運営方針を質問されたとき、常に具体的にその通りに予告する必然性はない、政策効果から判断するべきだ ー 実際、前任のグリーンスパン議長は曖昧な説明で対応することも多かったと記憶している。

国債買取額を減少させていくつもりである、と。このコミットメントから、いかなるプラスの戦略的効果を期待しているのだろうか。当然、株価は急落するわけである。仮にコミットメントをしない場合に予期されるであろう状況よりは、コミットした今の市場の反応のほうが、より望ましい、と。そう判断したという理屈なのだが、それはどんなロジックなのだろう。コミットメントによって、出口戦略がもたらす効果が速やかに浸透することは、市場の変動を観察すれば明らかなのだが、緩和減速の効果を<速やかに>浸透させることが、現在の本筋にかなったことなのだろうか。

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