2015年11月3日火曜日

メモ: 「ゼノンの逆説」と同値な命題とそもそもの矛盾

ジョーダン・エレンバーグの『データを正しく見るための数学的思考』(日経BP社)の第2章ではゼノンの逆説が話題になっている。ゼノンの逆説は色々な語られ方があるのだが、この本では以下のようである。
アイスクリーム屋に歩いて行くことにする。アイスクリーム屋に行こうとすれば、その中間点まで行かなければならない。そして、その中間点まで行ったとしても、残りの中間点まで行かなければならない。それができたとしても、また残りの距離の半分を進まなければならない。以下同様となる。アイスクリーム屋にどんどん近づいていくかもしれないが、どれだけこの手順を踏んでも、アイスクリーム屋に達することはない。
ゼノンの逆説自体はずっと昔から知っているが読んでいるうちに面白い話ができることに気がついた。ありきたりだがメモしておく。


この命題を時間軸で言い換えると次のようになる。

上の命題では、アイスクリーム屋までの中間点までは行けると認めているように読みとれる。しかしこれは誤りである。仮に、中間点までの到達時間をT秒とする。すると、着いた中間点から残りの中間点につくまでの時間はT秒の$1/2$である。さらに、残りの中間点までの時間はT秒の$1/4$である。これらの時間を合計すると
$$
\left( 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{4} + \cdots \right) \times T
$$
になる。上の式の分数部分は、ちょうど一本のテープの半分を切り捨て、次に残りの半分を切り捨て、さらに残りの半分を切り捨てていったときに、合計ではどれだけのテープを捨てるのかを求める式である。捨てるテープの量が一本を超えることはないのは明らかである。故に、上の式の答えがT秒の2倍を超えることはない。だからアイスクリーム屋には必ず到着する。こういう結論になる。

しかし、この結論は最初の命題と矛盾する。だから最初の命題が真であるには、「最初の中間点に着くことはない」と前提しなければならない。では、道のりの半分の地点までの中間点につくかといえば、それを認めるわけにもいかない。着くならT秒で着くと言わなければならないからだ。すると最初の中間点には$2 \times T$秒で着くことになるので結局アイスクリーム屋に到着する。だから中間点までの中間点にも到着しない。以下同様に続けると、いかなる中間点にも到着しない。故に、現地点から別の場所に移動することは不可能であると前提しなければならない。


故に、ゼノンの逆説『アイスクリーム屋には達しない』という命題には、『ある場所から別の場所に移動することは不可能である』という運動不可能の公理が含まれている。

にもかかわらず、ゼノンの逆説はアイスクリーム屋に行くという論題を考えている。この問題提起そのものが既に論理的な矛盾である。


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