今夏の参院選は小生の経験している中で最も下らない国政選挙であったことは投稿済みである。その下らなさをもたらした主因は、足元の問題を解決すると各政党が「のたまう」提案が、どれも非現実的で、(事実上)実行不可能であるにもかかわらず、それがまるで《選択肢》であるかのように、メディアが争点設定をして放送をし続けたことである。
思い出したのは、大学入試センター試験のことだ。試験当日の解答開始後に、時々、問題修正を板書することがある。これが結構面倒くさいのであるが、放置していると選択肢の中に正解がないということになるので、修正は絶対に必要だ。それでも、試験終了後に出題の誤りが発覚し、その場合は「全員正解」になったりする — 実は正しい選択肢はなく、全受験生は誤答なのであるが、正解が含まれていない以上、全員を誤答とするわけにはいかず、正答として扱うわけだ。ま、グダグダ対応ではあるが、そうしないと当該科目を選んだ受験生は100点満点ではなかったことになるので、不公平になる。仕方がないわけであるな、とまあ思いをめぐらしながら、現場で試験監督をやるのも独特な面白味があるというものだろう。
今夏の参院選はそんな感じで、どの政党の提案も誤答で、それをメディアは指摘するべきであったにもかかわらず、それが有効な選択肢であるかのように報道したのは、稀に見る不誠実さであったと、いまも益々憤りを感じる今日この頃であります。
ところが、その不誠実な姿勢を、自民党総裁選挙でも続けている。
世も末だネエ
と、慨嘆に堪えないとはこのことだが、逆に番組編成側にはそれなりの戦略があって、あえて欺瞞的な放送を続けているのではないか? こう思うこともある。
財源もなく消費税を減税したり、ガソリン暫定税を廃止したりすると、当たり前の理屈だが国債を増発して財源とするわけであるが、仮にそうなるとその後一年間にどんな経済問題が新たに発生すると予測されるか?
予測可能であるにもかかわらず、マイナス面には触れず、減税が《選択肢》であるかのように報道をし続けているのは、
崖から落ちれば、落ちた後にまた皆で知恵を寄せ合って這い上がればイイ
確かに、これもまた政治哲学、立派な報道理念と言えるわけである ― 日本発の金融危機は世界にとっては大迷惑なのであるが、もしそこに目が向いていないとすれば、「国際的信頼性」が日本の貴重な国富であることを認識できない島国根性とも言えるわけだ。
しかし、小生が知っている報道理念とは
真の報道は大衆の一歩前から有益な情報を提供することである。
誰が言ったかは忘れたが、「一歩前から」というのが記憶に残っているのだ。これに反して、近年の報道は、一歩前からではなく、「一歩遅れて」だろうと感じる。
大衆から一歩遅れて、大衆が聴きたい報道をするのが報道ビジネスなのである。
感心できないが、これまた選択可能な一つのメディア企業経営理念ではある、と。そう思うようになった。
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話しは変わるが、上の議論とも少し関係があるような気がするので、書いておきたい。
アメリカの経済学者・クルーグマンはThe New York Timesのコラムニストから身を引いた後、substack.comから精力的に意見を発信している。
基本はトランプ政権批判で一貫しているのは分かり切っているが、最近ではこんな調子になっている:
Can we blame Trump for rising electricity prices? Not yet. The AI boom began well before Trump won the election, and the grid just wasn’t ready. Trump is, however, doing all he can to make the problem worse — boosting crypto and AI while blocking the expansion of renewable energy, which has accounted for the bulk of recent growth in electric generating capacity ...
Many people, myself included, have drawn parallels between the current AI frenzy and the telecoms boom and bust of the late 1990s — an alarming parallel, because the telecom bust led to years of elevated unemployment. But as Peter Oppenheimer of Goldman Sachs has pointed out, there have been many such boom-bust cycles over the centuries, going back to Britain’s canal mania in the 1790s. And here’s one analogy that has occurred to me: What would have happened if, midway through the 1790s canal-building boom, investors had realized that there wasn’t enough water to fill all those new canals?
So the electricity crisis is serious, adding significantly to the risk of stagflation. Unfortunately, it would be hard to find policymakers I’d trust less to deal with this crisis than the Trump administration, whose energy policy is driven by petty prejudices (Trump is still mad about the windmills he thinks ruin the view from his Scottish golf course), macho posturing (real men burn stuff), and hallucinations (the imaginary windmills of New Jersey.)
・・・
It also endangers America’s future. The Fed’s perceived independence is a major source of economic stability — more about that in this week’s primer. We’re already worried about stagflation. The risk will be far greater if Trump can dictate monetary policy by bullying individual Fed officials and creating a servile Federal Reserve Board. Just look at what happened in Turkey.
Author : Paul Krugman
Date : Aug 22, 2025
URL : https://paulkrugman.substack.com/p/kilowatt-madness
Googleで和訳させると
電気料金の上昇をトランプ大統領のせいにできるでしょうか?まだ無理です。AIブームはトランプ大統領が選挙に勝利するずっと前から始まっており、電力網はまだ整備されていませんでした。しかしトランプ大統領は、暗号通貨とAIを推進する一方で、近年の発電能力の伸びの大部分を占めてきた再生可能エネルギーの拡大を阻止することで、問題を悪化させようと躍起になっています。
私を含め、多くの人が現在のAIブームと1990年代後半の通信ブームと不況を比較しています。これは憂慮すべき類似点です。通信バブルの崩壊は長年にわたる失業率の上昇につながったからです。しかし、ゴールドマン・サックスのピーター・オッペンハイマー氏が指摘するように、1790年代のイギリスの運河ブームに遡り、過去数世紀にわたり、このような好況と不況のサイクルは数多くありました。そして、私が思いついた一つの例え話があります。1790年代の運河建設ブームの中頃に、投資家たちが新しい運河を満たすのに十分な水がないことに気づいていたら、どうなっていたでしょうか?
電力危機は深刻であり、スタグフレーションのリスクを著しく高めています。残念ながら、この危機への対応において、トランプ政権ほど信頼できない政策立案者を見つけるのは難しいでしょう。トランプ政権のエネルギー政策は、つまらない偏見(トランプ氏は、スコットランドのゴルフコースからの景観を台無しにしていると考えている風車に未だに憤慨しています)、マッチョな姿勢(男は物を燃やす)、そして幻覚(ニュージャージー州の空想上の風車)によって動かされています。
・・・
これはアメリカの将来をも脅かします。FRBの独立性は経済の安定の大きな源泉です。この点については、今週の入門書で詳しく説明します。私たちはすでにスタグフレーションを懸念しています。トランプ氏が個々のFRB職員を脅迫し、従属的な連邦準備制度理事会(FRB)を創設することで金融政策を主導できるようになれば、そのリスクはさらに大きくなります。トルコで何が起こったかを見れば一目瞭然です。
たとえ主観的には気に食わなくても、ト大統領は(曲がりなりにも?)民主的選挙で選ばれた(それなりの?)正統性がある米・大統領だ。しかし、そんなことには遠慮も頓着(≒忖度)も一切することなく、電気料金暴騰の背景とトランプ政権の無策から中央銀行に相当するFRBへの人事介入へと、当たるを幸いとばかり、斬りまくっている・・・とにかく毎投稿、そのたびにこんな調子である。さすがにThe New York Timesの紙上でここまでズケズケ言うと、会社に迷惑が及んだでありましょう。そして、クルーグマン先生とは価値観を異にする自分を確認することが多いのだが、小生の目にもKrugmanの指摘はとても正しい。
本来、民主主義社会の運営はこうでなくてはなりますまい。上ばかりではなく、下の方にも期待されることは多く、覚悟も必要であるのが、民主主義である。
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今夏の日本の参院選から現在の自民党総裁選にかけて論議されている政策案は、具体性、実行可能性に欠けており、どれも下らない。
これを《下らない》と指摘して批判したり、理論的妥当性を疑ったりするメディア企業が日本国内に1社としていないのは、日本のメディア産業が保護産業であり、スキャンダル発生時を除けば、政治にはなにも逆らえない体質が染みついているからであろう。
日本の政治家に何も忖度しない外資系企業がメディア産業大手として1社でもあれば、いまの情況はまったく違っていたと思う。そう思うと、本当に情けないのが今日この頃であります。この意味でも、小生は移民大歓迎、外資導入大賛成であります。国立大学法人の一つや二つ、海外の大手私立大学に買ってほしいくらいだ。政府には臨時収入が入り、運営交付金支出の国庫債務が減り、加えて大学経営の合理性が日本に導入できることにもなる。正に一石三鳥である。
人の構成は変われど、日本列島で暮らす人たちが豊かな生活を送れるなら、それがベストである。文化の継承、文化の創造は、未来の人に任せるべきである。これがいま持っている社会哲学である。唐様で「売り家」としか書けない凡々の三代目は、継承だの、伝統などとはいわずに、黙って家を売るのが合理的行動なのである。
苦い薬を飲むべきときもある
敢えてこう報道するのもメディアの役割であろうと思うのだが、ここ日本では誰も傷つけたくはないという感情の方が優先されるようだ。
政治家は数多おれども政治なし
「下らない政情」、これもムベなるかな、ではないか。
仁は人の心なり、義は人の路なり
孟子の言である。なるほど全ての人にやさしくありたいという思いは、報道業界(?)だけではなく、政治家も(ヒョッとすると?)共有しているのかもしれない。しかしながら、現代日本社会は
心はあれども路はなし
いまの日本社会で、仁は求められているのだろうが、義は無視されて誰も省みない。
【加筆修正:2025-09-28、29】
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