2011年10月12日水曜日

TPP参加の是非は数で決まるのだろう

今日あたりの日経には、民主党内で進んでいるTPP参加論議が紹介されている。

先ずは農業問題。(高率関税が許される)例外品目は一つしか認められない可能性が大きい。そんな読みがあるようだ。とすれば、米だけ守っても、酪農・畜産が打撃を受けるだろう。こんな心配をしているグループがいる。

そもそも政権交代ができた要因の一つに農家戸別所得補償がある。農林票が若手民主党議員の支持基盤になっているケースが多いということだ。となれば、農業関係者の意見がそこに反映されるのは仕方がない。

更には、医療や金融を心配する人がいる。農業だけではなく、医療や金融なども完全自由化されると、水準が大幅に低下する。そんな主張もあるようだ。反対派が開く集会には日本医師会なども招かれるそうである。

これらの反対論を要約すると、一口で言えば、<変えるな>。つまりは、現在の収入基盤を失いたくない。ここに動機があるのは、(改めていう必要もないだろうが)明白である。当然だ。損する(と思う)から、反対するのである。

農産品に高い関税をかけると輸入品価格が上がる。だから、国内農産物も売れる。売れる以上は生産を続けるから、農地も手離さない。経営統合にも消極的だ。TPP賛成派は、ここに問題があると言っている。自由化をすれば競争が働くので、同じ人数、同じ土地を使って、多くの農産物を作らないとコストが下がらない。価格競争力を失う。日本の農家の生産現場を能率的にするためには、国際競争の場に入るのが一番だというわけだ。また、競争力は十分持てると言っているのが、賛成派だ。

確かに高齢者が片手間に農業をやりながら - いや、増えているケースは、休耕田にしたり耕作放棄地として何もせず放置してしまう - 農業を経営するよりは、農地、もっと根源的には<土づくり>にまで遡って、メンテナンスをしていかないと、農業自体が継続不能になる。そうすると、歴史を通して日本に伝えられてきた技術資産、人的資産のつながりが、根こそぎ失われてしまう。何度も耳にするのは、こちらの問題のほうだ。

保護を続けるか、弱肉強食を押し付けるか、では最早ないのだろうなあ。色々な意見を聞いているとそう思う。そうではなく、日本の農業の半分を自然死させるか、不効率な部分を退出させて、農地をまとめて有能なマネジャーに経営させるか?問いかけはこちらの方だ。国際競争は後者の路線を進めるための、行政ツール。まあ、日本お得意の<外圧>であります。農林水産省が何を言ってもダメだから、国際競争のプレッシャの中で、やって行くしかないという判断でありますな。

それ故、農業については、これはもう仕方がないのだろうなあ。そう思っている。農地は日本の資源であり、いかに個人財産とはいえ、ただ寝かせておくだけの遊休地として持ち続ける権利まで農家が持っているとは思えないからだ。

では医療はどうか?金融はどうか?「完全に自由化されれば、水準が大幅に低下する」。これは間違いである。水準は大幅に向上するはずである。現に高額の医療費を支払っても、日本でハイレベルの治療を受けたい人は多数いるのだから。自由化されれば医療の水準は必ず上がる。ハイレベルの治療技術をもつ医師は、日本にいながら収入が倍増、三倍増になるであろう。容易に予想がつくように、規制社会から自由社会に変わって、最も変わることは「みんながホドホドのものを平等に消費する社会」から「ハイエンドからローエンドまで自分の予算に応じて自らの意志で選ぶ社会」になるという点に尽きる。高額サービスからエコノミークラスまで選択範囲が広がるのは、まさに市場メカニズムが働いている家庭電気製品、テーマパークなどレジャー施設と同じである。医療も金融も、自由化されれば、必ずそうなる。だから「質が低下する」という予想は嘘である。

最も先鋭的な論点になるのは、これが良いかどうかである。どちらが正解かなど、エコノミストも法律専門家も判断はできない。結論は数で決まる。そもそもこの問題は全員一致というのはあり得ない - 経済学では補償によって全員が一致して賛成する余地があるならゴー。保障の落とし所がないならストップ。そんな純粋理論もあるが、ま、理論である。

ただ貧乏人は高額治療を受けられないのか?こんな問いかけがある。これは間違っている。自動車には自賠責のほかに任意保険のコースを自分の裁量で選ぶことができる。対人保障を無制限にしてもよいし、上限3億円まで保険会社が保障することにしてもよい。このように医療ビジネスが自由化されれば、民間の医療保険商品が多く開発されるだろう。また金融庁は、保険企業のこうした取り組みを抑えるべきではない。こういう風にことが進展すれば、政府直営の健康保険制度はその効率性が批判され、民間保険に押されるようにしてスリム化され、自動車保険の自賠責のようになってしまうだろう。というより、政府直営の基礎的医療保険は国から自治体に移管され、保険料ではなく、住民税があてられると思う。

新聞にも「国民皆保険制度の崩壊につながる」といういずれかの関係者による刺激的な科白が報道されているが、一面は真であり、一面は嘘である。政府直営の保険制度は崩壊するが、民間の保険ビジネスは必ず拡大する。まさに宅配業界がたどった道と同じである。日本郵政が直面している問題と同じだ。自由化をするとは、そういうことだ。

マスメディアは、マッチポンプのように、こんなことを言って反対している人がいる、あんなことを言って賛成している人がいると言うが、そればかりではなく、TPPに参加して自由化を徹底すれば、どんな社会がやってくると予想されるのか?逆に、TPPに参加せずに現状を維持するとすれば、どんな社会になっていくと予想されるのか?まずは、この疑問に答えてあげるような啓発を、記事にして書き込んでいくべきではあるまいか。新聞というメディアに期待されているのは、そういう貢献だと思う。

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