しかし、もはやホワイトボード+スマホの組み合わせも旧式になりつつある。
教卓サイドの人間は、タブレット+プロジェクター+デジタルスタイラスで手を動かすのが簡単だ。新しいページはすぐ作れるので、どんどん書き足せる。黒板では一度消すと復原は無理だが、タブレットだと前のページをいつでもすぐ再表示できる。授業後にすぐ全てのページをアップロードすれば学生の便にもなる。というか、学生の方もスマホで大事だと思うページを撮影しているようだ。教える方も書いた内容はすべてファイルに残っており、それをEvernoteなりGoogleDriveなりに保存しておけば、いつでもどの端末からでも参照・確認できる。
一口にいって、授業現場の効率性はこの数年間で飛躍的に向上している。
今日の学部向け統計学では一様変量を二乗した時の確率分布を導出する話題をとりあげた。XがU[0,1]なら
のPDFは
となるとパワーポイントで説明したあと、『PDFが分かったから変数Yの期待値と分散も計算できるよね』と学生に促した。しばらく時間を与えたあと、小生はデジタルスタイラスを手に持ってタブレットの画面上で以下の手計算をした。計算はプロジェクター経由、スクリーンに投影されるので学生は黒板を見るのと同じように見る。授業後、計算した画像をパワーポイントに挿入してから「本日の授業概要」としてアップした。黒板とチョークではこんなことはできない―できないから学生は一生懸命に板書を書き写すことにもなる。そのため話に集中できない。これが従来の教室の風景だ。
積分計算の検算にはフリーの数式処理ソフト”Maxima”を使えばこれまた効率的だ。
できれば学生もタブレットを貸与され、同じツールを持っていてほしい。そうすればフリーの高機能統計ソフト”R”でモンテカルロ実験もできるし、サンプリングの感覚も容易に身につくだろう。
アカデミック領域で定番となっている多くの高機能ソフトがフリーであることは、知識の共有性と平等なアクセスを保証するうえで、欠かせない活動だ。
ただ、あまり学生の利便性が向上すると、どこでも授業内容を閲覧できることになり、結果として授業には出てこなくなる傾向が助長されるかもしれない―未検証な可能性ではあるが。
今までと同じ知識レベルに学生を引き上げるのに、授業の提供側がより少ない労力ですむならば、明らかに授業現場の生産性は上昇している。学生側の満足度が依然とまったく同じであったとしても、ICT技術の導入は確かに教育生産性を高めるものだと実感しているのだ。教員の交代や共同担当に際しても、支援ツールが同一なら、授業水準は安定的に管理されるだろう。学生がICTツールの利用に習熟し、ビジネス現場で活用するための土台が学生時代に形成されるとすれば、それもまた教育効果である。
とすれば、いま現時点において、大学の教育生産性は予想以上の速さで向上しつつある。「変わらぬ教育現場」と言われて久しいが、それはもはや昔話になりつつあるのではなかろうか。
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