2016年8月14日日曜日

ドーピング防止の特効薬?

リオ五輪は、トイレやプールの水質など施設上の不備、国旗や国歌の間違いなど運営上のミスに加えて、ロシアによる国家的ドーピング制裁から始まるドーピング防止でも色々と話題を提供するオリンピックになった。

オーストラリアの某競泳選手が中国の長距離スイマーが以前にドーピングによる出場停止処分歴があることをとりあげ、「インチキ野郎」と痛罵し、これに対して中国の組織委員会が正式に抗議する。こんな事件もあった。

上のやりとりに品格はないが、処分歴のあるアスリートの公式記録を本当に信頼してよいのかという問いかけには、なかなか、回答が難しいのも事実だろう。




小生は大学という場で教育・研究サービスに従事しているので、「インチキな手段」で成績をあげる誘惑にどう対抗するかが大変な難問であるのは日常的に体感している。

レポートや試験で、コピペをしたり、カンニングをしたり―あるいは研究上の論文で盗作をしたり―そんな不正は国を問わず、時代を問わず、常にあり続けたわけであり、スリや詐欺がなくならないのと同じく、こういう行為は人間性そのものから発していると考えれば、不正の発生を嘆くことそのものには大した意味がない。

「不正」は人間社会に常にある。

大学では(小生の勤務先に限った措置かもしれないが)、試験室でカンニングなど不正が確認されれば、その学期の他の試験科目はすべてゼロ点となる。たとえ、他の科目で不正を行ってはいなくとも、すべて零点である。定期試験が零点となれば、もちろん単位も認定されない。レポートの盗作など他の不正についても同様である。

要するに、一回の不正を行うことにより、不正を行わなかった他の成果もすべて抹消されることになる。

(重要な事実は)それでも現実に不正は時に発生しているということだ。今後将来とも不正は永遠になくならないだろう。


もし、当該学期の試験科目だけではなく、不正を犯したその学生が入学後に修得したすべての科目をゼロ点にするという方式だとどうだろうか?

これは極端に厳しい。上級生の場合、一回の不正でその学生は卒業が事実上困難になる。だから退学を余儀なくされる。つまりは、一度のカンニングで放校にするという考え方に等しいわけだ。

「不正」を決して許さないという観点にたてば、一度でもそれが確認されれば、ただちにレッドカードを出す。これ以外の選択はない。不正をおかしたその大学を退学し、別の大学に入りなおして、やり直してほしい。確かにこんな発想もあってよいかもしれない。

これをさらに厳しくすれば、不正で処分された学生は、他の大学の受験資格をも失う。こんな方法もあるわけだ。不正を決して許さないと考えれば、いくらでも厳しくしてもよい。理屈はこうなるだろう。大学ではなく、別のところで人生を生きてほしい・・・こう考える立場である。

・・・ホント、きりがありません。



しかし、苛酷にすぎる制裁は、本人が潜在的にもっている成長の可能性を一挙に奪う。これは全体の利益を損なうものである。そう考えれば、制裁の厳しさには合理的な水準がある。

現在の法律・規則・制裁については大体はこんな考え方で構築されている。

簡単に言えば、不正を十分に抑止できれば制度としては機能しているわけである。


一度でもドーピングが確認されれば、その選手のそれまでの公式記録をすべて抹消する。但し、その後の試合への出場権はそのまま保持させる。積み重ねてきた実績を失う一方で、未来への機会は与える。一度の不正でその競技者が参加している競技の場から「追放」されることはないという点で、この方式は大学における現在の不正処理にかなり近くなる。



まあ、不正を行わなかった試合の記録がすべて取り消され、それまでに得たメダルもすべて剥奪されるとなれば、かなりの厳格化にはなる。が、世界の大学ではこの位はやっているものであり、なにも甘いわけではない。

中国の長距離スイマーがもっている世界記録は、したがって、上の観点に立てば処分された時点で抹消されていることになろう。また検体が残っている限り、将来いつかの時点で自らの不正が暴露されるかもしれない。自分の成果がいつか抹消されるかもしれない。これは相当の心理的プレッシャーになるだろう。

ドーピング防止の特効薬は、未来に向けての出場停止ではなく(服用効果の消失まで一定期間の停止は必要だろうが)、過去の実績抹消のほうが一層厳格であって、小生はこちらのほうが抑止効果があると思う。

とはいうものの、仮にこうしたとしてもドーピングはなくならないだろう。スポーツで失敗しても、人は、いろいろな生き方ができるからだ。賭ける値打ちがあることなら、人は自分の人生をそれに賭けるものだ。

それに、個人競技なら適用も容易だが、団体競技で、それも短時間だけ出場した選手に不正が確認された場合はどうするか。そんな細かい点も残されている。


0 件のコメント: