2026年4月23日木曜日

断想: 文明崩壊の論理、反政府的経済学者の愛国心について

 「歴史に学べ」という人の多くは産業革命後の近代世界の発展史を指していることがほとんだ。せいぜいのところ、16世紀の《コペルニクス革命》以降、ヨーロッパで進行した自然科学の発展と産業技術への応用をイメージしている見方が大半だろう。

西洋の成功物語としては適切な選択だ。

ヨーロッパ発の科学革命とそれがもたらした産業経済の巨大な成功は、いわば「科学主義」と「唯物論」を現代社会に浸透させてきたというのが小生の歴史観だが、中国やインドといった伝統的大国の経済的復権に伴って、西洋的世界観にもそろそろ限界が見えてきたのかなあというのが、足元の状況だと思っている。

もっと注目してもよいと思うのは、あの華やかなギリシア=ローマの古代社会が、なぜ、どのような過程を経て崩壊するに至ったかという問題意識だと思っている。というのは、文明の中心であったローマ帝国の盛時、いわゆる《ローマの平和(Pax Romana)》は賢君マルクス=アウレリウス帝の後を暗君コモドゥス帝が継承して以後、突然に、というか急速に不安定化し、100年の混乱と後退のプロセスに入ったのは、あまりに唐突な変動で、一人の暗君の出現で何故かくも突然に巨大な文明が変調になるのかという問題があると思うのだ。

確かに、ゲルマンなど異民族の侵入など国際環境の悪化や農業生産技術の停滞など、数多くの原因が挙げられている。政治的不安定性の高まりが為すべき政治的決定を為すのを不可能にしたという点もあるだろう。それでも帝国が健全な時代であれば、帝国から外国に文化的同化力を放射できていたのが、一人の暗君の出現以後は反対に外国の脅威が帝国の平和を直接的に脅かす負の連鎖の時代へと入っていったことが不思議であるわけだ。

ローマ帝国の衰退についてはフランスの啓蒙思想家・モンテスキューが共和制の廃止と帝政への移行を根本的原因に挙げている。しかし、帝政に移行してから200年弱も経ってから負の影響が出て来るか、という疑問がある。ギボンも大著『ローマ帝国衰亡史』を著している。ギボンが指摘する衰退の原因は

  1. ローマ帝国の市民の精神的退廃とモラルの低下。
  2. ローマ軍自体の異民族依存、つまり多民族化は、国境防衛を脆弱にして、国防軍としての軍律弛緩を招いた。
  3. キリスト教の浸透が、来世志向、現世否定の心理を蔓延させた。また一神教なるが故に皇帝の権威への忠誠が揺らいだ。
まあ、ChatGPTに聞くと、こんな点に要約される(とされている)。

ローマ帝国は西洋においては唯一無二のグローバル帝国として君臨していた。であるから、衰退するとすれば、外的要因ではなく主として内的要因からであるというのは、よく理解できるところだ。

キリスト教の普及は、帝国の経済成長が頭打ちになり、政治的不安定性が高まる中で、一人一人の市民が日常的なストレスを感じた3世紀に加速した。

キリスト教の浸透とモラルの崩壊は、ある意味で矛盾するかもしれないが、自らの義務として帝国を守ろうとする気概が衰退したことを以て、モラルの崩壊と解釈すれば、分かる話しではあろう。

現代にまで伝わる古文書には残っていないだろうが、その当時も同時代的知識人が盛んに文明批評を著し、危機感を訴える文章を公表していたのに違いない。多くの人が文明の危機、帝国の危機を議論していたに違いない。

それでもローマ帝国は衰退し、滅亡し、古代社会は完全に瓦解し、ヨーロッパ社会はカール大帝のフランク王国がひとまずは乱世を収めるまで概ね300年の暗黒時代を送ったのである。キリスト教以外の文明資産は全く失われ、貨幣経済から物々交換への逆戻りを経験したのである。

こんな事が起こったのは何故だろうか?

自然科学の発展が始まってから、産業革命が始まってから、そんな成功物語を観ているだけでは分からない《文明崩壊の論理》、《衰退の論理》というものがあるのではないか?



クルーグマンが足元の電気技術の発展についてこんな見方をしている。Google翻訳で訳された和文で引用しておこう:

また、トランプ大統領がイランによるホルムズ海峡封鎖に対抗するため、自らもホルムズ海峡を封鎖するという決定を下したことは、各国が太陽光発電や風力発電に転換しない場合に頼らざるを得なくなるであろう、米国産石油とLNGへの依存が安全ではないという認識を確実に強めることになるだろう。気まぐれな米国が、他国のエネルギー依存を武器化しようとしないと誰が保証できるだろうか?

トランプ氏のイランにおける冒険主義的な行動は、太陽光発電、風力発電、そして再生可能エネルギーを24時間365日稼働させるためのバッテリーへの投資を世界的に加速させるきっかけとなった。

では、世界が求める再生可能エネルギー機器の大部分はどこから調達されるのだろうか?それは中国だ。中国は世界の工場であり、その製造業規模は米国、日本、ドイツ、韓国を合わせた規模よりも大きい。

   (中略)

バイデン大統領政権下で、米国はバッテリーや電気自動車をはじめとする電気技術分野の発展に向けて、必要不可欠な措置を講じた。また、再生可能エネルギー全般の成長加速も目指した。しかし、トランプ政権はバイデン政権の再生可能エネルギー関連プログラムをすべて中止しただけでなく、再生可能エネルギー分野への民間投資を積極的に阻止しようとしている。

アメリカがトランプ氏の化石燃料への執着から解放される頃には(もしそれが実現するとしても)、再生可能エネルギー製造における中国のリードは恐らく克服不可能なものになっているだろう。

太陽光パネルやバッテリーを中国に依存する世界は、必ずしも悪いことではない。政治的にも経済的にも、ほとんどの国にとって、カタールや、現時点では米国からの液化天然ガス(LNG)輸入に依存するよりも、はるかにリスクが低いのは確かだ。

Source: substack.com

Author: Paul Krugman

Date: 2026-4-14

URL: https://paulkrugman.substack.com/p/chinese-electrotech-is-the-big-winner

小生は、親英米であるが、だからといって反中でも嫌中でもない。

「一つの中国」は歴史的事実というばかりではなく、そもそも日本には未だ和平には至っていない「国共内戦」という中国国内の紛争に介入する権限も、外交上の正当性もないという立場に立っている。

何より日本文化の表層を覆っている西洋由来の衣をはぎ取れば、古代から江戸時代まで続く伝統文化が表れ、そこには純国風の大和心と中国・インド発祥の文物が裏地のように織りなされてあり、日本人の感性を包んでいることが分かる。

なので、上のようなクルーグマン氏の論調には全面的に賛成する。経済的にそのとおりであり政治的にも、共和党的な政治観に好感をもっていた小生にも、上の左翼的見解は道理であると思われる。

最後にこう結ばれている。

しかし、この国が自らを破滅させ、未来を担う最も重要な産業を中国に譲り渡してしまうのを見るのは悲しいことだ。そうすることで、私たちはより貧しくなり、技術的に後れを取り、エネルギー革命へと突き進む世界において影響力を失ってしまう。結局のところ、私たちは化石燃料を燃やしているだけでなく、自らの未来をも燃やしているのだ。

愛国者としてのクルーグマンの思想が表れていると感じるのは、民主党支持者だけではなく、普通の人たちにも多いような気がする。 

 

 

 

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