国民の概ね半分は財政再建が必要だと考えていることは、(ずいぶん以前から)多くの世論調査が示してきた。
消費税率を8%に上げて、その後また10%にまで上げることは既定路線なのだから、あとは淡々・粛々と実行して行けばよい、というのが現時点のオーソドックスな考え方だろう。
とはいえ、経済成長の実現を目指すうえで、本当に<いま>増税を実施するのがベストなのか、というと様々な異論が―国内はもとより、海外からも―出てきて、百家争鳴の状況になっている。Yahoo!のトピックスのトップに以下の報道が出てきた。
今年の秋にはいよいよ消費増税の最終判断が行われる。消費増税に関する法律には景気条項がついているとはいえ、基本的に来年4月からの引き上げはほぼ規定路線となっている。その最大の理由は限界まで来たといわれる日本の財政問題である。そりゃまあ、上にも書かれてあるが、増税に財務省の意向が強く働いているのは、当たり前である。一体、財務省以外の誰が<増税>をしましょうと言い出すだろう?
(中略)一方、日本の公的債務のリスクが強調されるのは増税を主導したい財務省の意向が強く反映されており、世界最大の債権国である日本は、それほど公的債務を気にする必要はないとの見解もある。果たして日本の公的債務は本当に危機的な水準にあるのだろうか?
ただ増税は景気回復を台無しにするのか、景気回復の追い風になるのか、この論点はこれから議論を重ねて行くべきだろう。
マクロ経済学の初歩に「均衡財政乗数」というのがある。政府が100の増税をして、100の支出を行うと、100のカネをとられて、とったカネを政府が使うだけだから、差し引きチャラになるかどうかという問題だ。回答は、GDPは最終的に100だけ増える、だ。もちろんケインズが言った<乗数効果>は、状況を単純にする多くの仮定がある。あくまでも授業の中の話しの一つだが、それでも『増税路線が景気の足を引っ張ることはない』という一例にはなっている。
しかしながら、いまの日本経済に上の議論は当てはまらない。増税をした分、政府はそのカネを使うわけではないからだ。政府は、国債(=借金)で資金を調達して、支出をまかなっている。増税をすれば、カネを借りなくてもすむというだけで、使う金を増やすつもりはない。政府が借りたカネ(=国債)は後で戻ってくる建前だが、税はとられっぱなしだ。だから、民間で使うカネは必ず減る。政府が使う金は同じで、民間は減るので、ほかに何もしなければ必ず景気にはマイナスになる。ヨーロッパの<財政緊縮路線>が、経済成長をおさえ、所得をおさえ、税収も増えず、増税の目指す結果が中々出てこないのはそのためだ。
他方、『財政再建』はその国の経済成長にとってプラスであるという研究成果もある。増税をする場合も含まれる。需要は減るはずなのに、なぜ成長するのか?それは、<財政破綻リスク>が低下し、その国でビジネスをする企業が増えるからである。投資が増えるからである。ちょっと考えれば、当たり前の話しだ。インフレ率がゼロ%のまま、日本の国債がいきなり売り浴びせられるとしよう。長期金利は今の0.8%から5%に跳ね上がるかもしれない。もしそうなったら、利益はふっとぶし、事業にカネを使おうとするお目出度い人もいなくなる。円高になるかもしれないし、経済混乱をみて資金が流出し、円安が進み、金利はもっと上がるかもしれない。ま、地獄絵である、な。その時になって、<年金>などを論じた幸せだった時代を、多くの日本人は懐かしむであろう。
ということは、増税・財政再建路線のコアとして、企業の投資促進、日本への資本流入を促進して、経済成長を追求する姿勢を明らかにする必要がある。日本企業に対するM&Aを「黒船来襲」呼ばわりするようじゃ、覚悟が足りない。企業優遇なき、投資優遇なき増税路線は、愚かな自滅路線になるだけだ。国民は、本当にここまで十分理解しているだろうか?
財政再建?だから増税でしょ。子供の世代から借金するなんてよくないからネ。それでも足りなきゃ、年金を減額するしかしょうがないっしょ!だって、年金生活者が財政赤字の原因なんだから…これぞまさしく「金庫番経済」です、な。そもそも「モラル」に適っている。平成の松平定信だ。もっと景気は悪化する理屈である。この程度の浅知恵でマクロ経済を運営しようとすれば、流言飛語で政治を行うデマゴーグ―具体的に誰がそうだとは言わないが―が活躍するだけである。
上に引用したYahoo!の記事も、成長重視の観点から次のように結んでいるので、まだまだ正論が絶えたわけではない。
カナダでは1990年前半に政府債務のGPD比が100%を超え、財政再建を決断した。だが緊縮財政で景気に悪影響を与えないよう、成長率がプラスになるタイミングを見計らって、支出の抑制を断行した。(中略)
高齢化が進み、極めて重い社会保障負担に苦しむ日本と単純に比較することはできないかもしれない。だがカナダの事例は、財政再建を実現するには、順調な経済成長が何よりも重要であることを示している。
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