2015年9月23日水曜日

Another Black Swan: VWスキャンダル

何とクリーンディーゼルで一世を風靡してきた独社・フォルクスワーゲンが、そのディーゼルエンジンで消費者を欺く(というか、当局の排ガス検査を欺く)不正を続けてきたというので、2兆円を超えるかもしれない巨額の制裁金を課される見通しとなった。既に8千億円程度をトラブル対応に計上したということで、大体2兆円前後のVWの利益は飛んでしまうのではないかと心配されている。

独紙Frankfurter Allgemeineは、ディーゼル・スキャンダルに見舞われたVW本社は1セントを惜しむようにもなるだろうという形容をしている。

……  Und in den kommenden Jahren wird angesichts von Belastungen rund um den Dieselskandal, deren endgültige Höhe noch gar nicht absehbar ist, in Wolfsburg plötzlich jeder Cent gebraucht werden.
Source: F.A.Z, 2015-09-23

フランクフルト市場におけるフォルクスワーゲンの株価は、中国市場の失速から年初の178€から9月18日時点で既に161€まで約10%低下していたが、その後のフリーフォール的な暴落で110€にまで落ちてしまった。下落率は何と32パーセント。1億円のVW株を持っていたとすれば、週が明けたら突然3千万円以上が消えていたわけだ。

不正が発覚したタイプのディーゼルエンジンを搭載した同社製品は、世界全体で1000万台に達するという。ほぼ確実に無配となるだろう。これから1か月の間にVWの株価は高値の半分になると見る ― 半分で落ち着いたらまだラッキーだ。

日本勢のハイブリッド、電気自動車路線とは差別化されたクリーンディーゼルこそがドイツ自動車メーカーの強みだった。そのディーゼルエンジンの信頼性に傷がついたのであるから、エネルギー価格のボラティリティに対する独社の戦略的な脆弱性は覆い隠しようがなくなったと言わざるを得ない。今後の競争優位をどうやって再構築するのだろう。「顧客評価、一たび去って復た返らず」となるかもしれない。

ただ、VWがこけたメリットを韓国のHyndai社が享受しようという韓国紙の見通しは、米国市場ではVWのシェアはそれほど高くなく、欧州市場ではポジションの重複したライバル他社がひしめきあっているので、これには一寸首をひねる。

2015年にはVWがトヨタを抜いて年間生産台数のナンバーワンになるだろうと言われていた。『チャンスの後にはピンチあり』である。・・・そしてまた、『失敗は成功のもと』であると同時に、『成功は失敗の始まり』でもある。

VWは米国市場で中々シェアがとれず販売には苦戦していた。その裏側には日本メーカーのシェア上昇があった。その日本メーカーは中国市場では苦戦してきたのであるが、その裏側にはドイツ車、特にVWのシェアの上昇があった。成長率では確かに中国市場は魅力であるが、中国市場への依存性が高まることは、予測しがたい経済的クラッシュに対してヴァルネラブルでもある。そもそも中国市場を制するには利幅を薄くして、数量志向の戦略を推し進めるのが本筋になろう。それには能力拡大投資を先行的に進めなければならないわけであり、ここからもリスクの高まりが成功の背後で進行することになる。アメリカ市場でのシェア向上はVWにとってはマスト(Must)であったろう。今回のVWの失敗の遠因には北米市場における日独間競争での劣勢があった。そう言うと的外れだろうか。そしてその劣勢の背後にはHV、EVなど化石燃料後の新技術を育てる戦略で出遅れていた点がある。これまた言い過ぎだろうか。

どうやら、経営トップの誤った戦略が無理なオペレーションを現場に強いたという普遍的なパターンである、と。そう思う。ヴィンターコーン氏の責任が取りざたされているようだが、免れんネ、とみる。

マ、いずれにしても一から出直しやで。

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