2014年4月29日火曜日

覚え書―情報と公正のバランスは予定調和しているか

こんな報道があった。
厚生労働省の地方機関・福岡労働局が2012年7月、翌春に高校卒業予定の就職希望者に「てんかんの生徒は主治医の意見書をハローワークに提出」するよう、福岡県を通じて各高校に文書で依頼していたことが分かった。雇用における差別的な取り扱いを禁じた職業安定法などに触れる疑いがあり、厚労省は福岡労働局を指導した上で、同年10月に全国の労働局に再発防止を通知した。(中略) 
てんかんを巡っては11年4月、栃木県鹿沼市で、てんかんの持病を隠して運転免許を不正取得した男がクレーン車を運転中に発作を起こし、はねられた小学生6人が死亡した(男は懲役7年が確定)。12年4月には京都市東山区の祇園で軽ワゴン車が暴走し、観光客ら7人と運転していた男性が死亡、京都府警は男性が持病のてんかん発作で事故を起こしたとして容疑者死亡で書類送検した。福岡労働局によると、事故を受け求人側企業から「生徒の面接時にてんかんの有無を確認していいか」などの質問が多数寄せられたという。 
 このため福岡労働局は同年7月17日、てんかんを含め企業から質問や要望の多い項目について回答をとりまとめた文書を職業安定課長名で作成して県と県教委に通知し、各高校長への周知を依頼。「持病がある生徒、障害を持つ生徒を一律に選考から排除することはあってはならない」とする一方、「てんかんの生徒については保護者の同意のもと、精神障害者保健福祉手帳所持の有無にかかわらず、主治医の意見書をハローワークに提出し、早期の職業相談を」などと求めた。
(出所)Yahoo!Japan ニュース (元記事)毎日新聞、4月29日配信

職業に就くには満たすべき条件があるのは分かっている。特定の持病があるとき、その事が職業的能力を決定的に制約することもある。これもわかる。しかし、本当に特定の職業につく資格を制限したいのであれば、あらかじめ公開されたフェアなルールの下で、資格試験を実施するべきだろう。職業の自由は基本的な人権として誰もが持っている以上、恣意的にその権利が侵害されることがあってはならない。これを否定することはできない。

これが原理原則であるのだが、もつべき資質・能力を志願者がもっているかどうか当人に直接確認したい時というのは確かにやってくるものだ。また、ある業務に配置する人材が持つべき資質・能力を正確に理解し、、志願者にそれを確認することの必要性を明確に認識していながら、企業がそれを敢えて確認することなく採用をして、もし万が一あとになって、潜在していた病気が発症して、重大事故が発生するとすれば、採用時の過失責任が企業にあるのかないのか?これも問題だろう。

しかし、そんなことを言い出せば、雇用側があらかじめ把握しておきたい情報は山のようにあるだろう。「てんかん」にとどまらず、「狭心症」などの循環器の持病も該当しよう。不整脈ですらアウトかもしれず、最近30日間の最高血圧が150を超えていればそれもダメ、そんな風になるかもしれない。かもしれないと言うより、そう扱わないと「てんかん」の患者を不当に差別することに該当する。そこが問題なのである。

病気ではなく、犯罪歴ならどうか?ある百貨店で買い物をしていたところ、犯罪歴のある契約社員がいることが(どういう経路か知らないが)分かってしまい、「不愉快だ」と顧客からクレームが寄せられてしまった。それでも百貨店はその社員を解雇できないか。会社側は、あらかじめその人の履歴を知っておくべきだった、知りうるべきであった、その人は採用を希望した時点で自分に関することを全てではないにせよ、聞かれることには全て正直に回答するべきであったと言うべきか。百貨店という場所は、すべての客が安心して、愉快に、楽しく買い物をするところである。過去に犯罪をおかしてしまった人物が働いていることは、顧客の希望をないがしろにすることなのか?それとも社会の側に<偏見>という問題があって、そちらを改善するべきなのか?

そもそも、仕事に就こうという人の立場から言うと、資質や能力、適性を言うのであればそれは採用された後で企業が実施する教育訓練や健康管理体制によって、結果は変わるであろう。最初からその人が持って生まれた資質や能力を、その人が歩んできた過去の履歴を問う事自体がフェアではない。こうした意見があってもよい。これが真の意味で「未来志向」というものじゃあないか。

福岡労働局の措置は多数の希望に沿って行われたことであった。それを不適切であったと指導したわけであるが、こうしたことは司法の場で審議を行い、結論を出した方がよい問題であると思う。議論の積み重ねがもっとも重要だろう。行政官庁の指導でケリがつく問題ではない。

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