2014年6月17日火曜日

ワールドカップ: アメリカ人はこう語るか

開催中のサッカー・W杯でアメリカの存在感は薄い。アメリカの報道だと記憶しているが、五輪では大国や富裕国が金メダルをさらっていくが、サッカーは小国や貧乏国でも優勝できる。ワールドカップは世界で最も平等なスポーツの祭典だ、ということだ。

WSJにはこんなコラム記事が掲載されていた。筋が分かる程度に抜粋し、あとは出所とリンクボタンをつけておきたい。
2014年のサッカー・ワールドカップ(W杯)が12日(訳注:日本時間13日)、ブラジルで開幕する。ゴールドマン・サックスのアナリストを含め、多くの専門家がブラジルなど南米勢の優勝を予想している。まあ、そう早まらないでほしい。革新的なサッカーをする欧州勢が3連覇を果たしてもおかしくない。
 サッカーは数十年間、世界のほとんどの地域では進化することはなく、イノベーションが起きても歓迎されないことが多かった。しかし、1970年以降、欧州サッカーはそれまでとは異なる道を歩んでいる。
 現在、欧州の有力クラブのスタッフにはコーチと同じ数の科学者がいる。ドイツのFCケルンなど、コーチよりもアナリストのほうが圧倒的に多いクラブもある。クリス・アンダーソン、デービッド・サリー両氏の2013年の共著「The Numbers Game(数字の競技)」によると、FCケルンはフルタイム、パートタイムを合わせて30人以上のクオンツ(計量アナリスト)を雇っている。「The Numbers Game」とサイモン・クーパー、ステファン・シマンスキー両氏の2009年の共著「Soccernomics」は欧州サッカーを知るための必読書だ。
 科学者たちは調整や食事、移籍、選手選び、試合の計画作りを含めたトレーニングや管理に大きな発言権を持つ。最終的な決定権を持つことさえある。サッカーのデータを提供する業者は数多くあり、オプタやプロゾーンといった企業は金融業界にとってのダウ・ジョーンズのごとく、サッカーのプロに情報サービスを提供している。
 さらに重要なのは、欧州勢が戦略的に重要なポイントで統計学から仕入れた新しい知識を使うことだ。例えばコーナーキックでは、伝統的にはセンターに高いボールを入れることが多かったが、めったに成功しないことは経験によって実証されている。ゴールにつながるのは45回中1回しかない。欧州勢は短いキックでペナルティエリアにボールを入れようとするだろう。この方法なら9回に1回は成功する。
 確かにブラジルなど欧州外の高く評価されているチームも試合運びの近代化を進めている。欧州でプロとして経験を積んだ選手もチームの中にいる。しかし、欧州以外のチームは「自分たちのいつものやり方でプレーする」というスタイルを取り続けている。
 ……もっとも、野球談議のような話は終わりにしたほうがよさそうだ。
(出所)Wall Street Journal, 2014-6-8 

さすがに金融工学とビッグデータ・サイエンス発祥の国だけある。こう考えるんだねえ、アメリカ人は。

要約すると、世間ではブラジルの評判が高いようだが、南米は自分たちのスタイルを守っているだけだ。欧州はどうやったら勝てるかを科学的に研究している。データ解析スタッフがチームに溶け込んできている。これまでと同じスタイルのサッカーを繰り返すだけでは、現代化された欧州のチームには勝てないのではないか。まあ、そういうことだ。

いやあ、いかにもアメリカ人らしいと感じるのは小生だけか。おそらく大多数の日本人はこのようなアメリカ人的な議論には反発を覚えるだろう。というのは、コートジボアールに敗戦して、何度も繰り返されるのは『自分たちのサッカーに戻ろう』。原点回帰論なのだから。

アメリカ人(そしてヨーロッパ人も)が、どうやったら勝てるのかと、そればかりを考えているのに対して、日本人は(そしてブラジル人も)「どうあるべきか」を問うのが好きなようである。この差は、勝負の場においては大きいものがある。

社会科学的に言い換えれば、欧米人の議論は戦略的であり、日本人の話し方は、そして南米、韓国、中東もすべて含められるかもしれないが、倫理的である。どうあるべきかから議論を始める日本人の傾向は、日本社会全体のモラルを高め、規律が守られる主因の一つになるが、現実から発して論理的・組織的に展開するという方法論に支えられていないために、「これでいいのか」という士気の低下・価値観の動揺に見舞われると、直ちに全面的崩壊へとつながりがちである。

勝利に必要な要素は、実は理想の姿ではなく、勝つための科学的方法である。確かに一つの生き方だ。大多数の人がこのように考える国は日本社会の風土とは相当違うはずだ。

とはいえ、武士道、武道、医道、芸の道、文の道、その他諸々の修行を日本人からとってしまったら、何が残るだろう。ただ勝つことだけを考える「仁義なき戦い」に徹しきれない日本人の甘さが、案外、世界では好ましく思われている一面もある。そう思い込んで、生きるスタイルを変えないのもアリだろう。実際、上に引用したアメリカ人的な議論をしている日本人はお目にかかったことがない。誰もが<自分のスタイル>を思い出せと言っている。

それにしても、上のウォール・ストリート・ジャーナルの記事。概要をカミさんに話して聞かせると「ほんとに上から目線でえらそうに…アメリカってサッカー弱いんでしょ!」。これが健全な反応だろう。


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