この年末もまた選挙と政治の季節になった ― というより、ちゃんとなっているかねえ…。
今回のテーマはアベノミクスに対する信任投票であるというが、これは安倍政権による「注文相撲」であるのは分かりきったことである。
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この7~9月期の実質GDPは、確かに季節調整済み前期比で2期続けてマイナスとなった。実は、塩をキズに塗り込むようだが、原系列の前年同期比でみると、より際立った落ち幅となっている。
7~9月期の前年同期比はマイナス1.3%。4~6月期は消費税引き上げの反動があった(はず)とはいうものの、前年比ではマイナス0.2%の微減にとどまっている。
記憶にも残っているだろうが、小売現場では税率引き上げの反動減を先読みして、4月に値下げセールを設定するなど価格設定には工夫がされていた。それで年度末をまたいでもそれほど客足は落ちなかったのである。報道でも何度か伝えられていたはずだ。
とはいえ、前年比にみる7~9月期のマイナスが長期的な目で見てそれほど惨憺たるものではないことも明らかだ。
というより、アベノミクス云々によらず、日本の経済成長力はこの20年間ずっと同じである。
成長力が同じである。これは当たり前なのだな。何も成長力を高めることをしていないからだ。
……カネをばらまいても、日本人の仕事ぶりが実質的に変わらなければ、生産される価値は同じであり、経済は成長しない。
カネをばらまくのは廃業と起業の新陳代謝を加速する。これが目的だ。ところが、別の方向から、日本経済にイデオロギー的なギプスをはめる。こんな逆噴射をすれば、国内にはカネだけが増えて、株価が上がる。そのうちに物価も上がるであろう。
物価が上がれば賃金も上がるだろうが、賃金が上がれば物価も上がる環境にある。つまり、実質賃金は増えない。生活水準はあがらない。生活水準は仕事の中身を変えて生産性を上げなければ向上しないからだ。仕事のやり方を変えるには、世代交代が定石だ。その経路も高齢者の雇用確保で機能不全になっている。
いま日本では、本来は社会保障政策として解決するべき問題を、政府がビジネスを規制する、ビジネスのやり方に介入する手法で何とか対応しようとしている。そうできるのは、企業に対して中央政府の権力が強すぎるためだ。というより、ビジネスの声をきこうとする国会議員をマスメディアが批判するからでもある。
結果として、ビジネス現場の効率性が停滞し、所得が停滞し、暮らしも停滞する。暮らしを支える所得は、ビジネスが生むのであって、政府はピンハネしているだけでカネは本来何も持っていないのである。豊かになるには、政府に要求するより、ビジネスを育てるしか道はない。マスメディアはしばしばその事実を忘れる。
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上図でタテに引いた点線は、安倍内閣誕生が事実上内定した2012年第4四半期を示している。成長力は何も変わっていないが、株価は以下のように推移してきた。
2012年末から2013年の初夏に至るまで信じられないほどのラリーを続けたわけである。
当時の世界的な報道を見ても、黒田日銀総裁によるバズーカ砲(=超量的緩和)と「デフレ脱却」をかかげたアベノミクスが、相当の期待を形成したことは間違いない。多くの国は日本経済が活性化することを喜ぶ。外国にとっても日本経済の活性化は利益になるからだ。
しかし、上に述べたようにアベノミクスによって、というより黒田日銀総裁の<バズーカ砲のみによっては>日本経済は活性化しない。このことが明らかになってきている。雇用が改善したというが、増えたのは非正規労働者だけである。野党の批判はもっともなのである。
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しかし、『当社の株価はずっと下がってますが、社員一同ハッピーに仕事をしていますヨ』と、そんなことをいう経営者は結局は無能である。
株が下がっても、日本企業はみんなハッピーで、非正規労働者も正規労働者になった。一件落着だよね、だからいいんだよね・・・とはならないわけである。
株価は上がったのだから、今後為すべきことは、カネではなくモノの次元。つまり仕事の中身、規制や安全管理、健康管理など仕事のルール、その他の諸々の行政上のシステムを変えていく。残っているのは実はこれだけである。しかし、時間がかかる。全般的にやり遂げるには10年から15年はかかる。新幹線計画並みの根気がいる。
日本と外国を同じシステムにするか、世界市場以上にビジネスにとって有利な制度にしていく。もはや成長にはこれしか道がない。それが理屈なのだが、これをやると生活基盤を奪われる国民が少なからず出てくる。それでも多くの人が助かるなら仕方がない、と。
まあ、こんな風に損得勘定に徹底できるかどうかは、やはり危機感というか、「生き残るためには何をいま為すべきか」と、こんな感性を日本人が共有しないと経済成長は難しいのだ、な。
ま、難しいならこれ以上の豊かさを諦めてもいいわけだ。
こう考えると、率直に日本人がいま為すべきことを語っている政党がひとつもない。これには呆れ果てるばかりだ。某政党などは『まず国会、霞が関が身を切らないといけない』と、そんなことをまだお経のように唱えている。バカではないのか。ほんとにそう思います。
当たり障りのない世間話をしながら選挙をしている。なので、小生、今度の選挙は「井戸端選挙」と言うことにした。本来あるべき「世直し選挙」とは全然別である。為すべきことを率直に語って信任を問うているわけでもない。だから「信任投票選挙」でもない。