同様の傾向はすでに昔になった感もするが米国産牛肉にまつわる狂牛病騒動からもうかがえた。
その頃、日本への輸入が再開されるかどうかで全頭検査をしようという声があり、日本の世論も強くそれを支持していたが、アメリカ政府は「全頭検査が必要であるという科学的根拠がない」として拒否した。ちょうど、その頃にビジネススクールの授業で統計的検定の考え方を解説していたのだが、「5%、1%を有意水準にして間違いがないかどうかを検査しても、間違いを見逃す確率はゼロではないわけですよね、検査の見落としがありうると知っていながら出荷するのはおかしい」と、そんなクレームを履修者から承ったことがある。この辺の事情はWikipediaにも詳しい。
間違いはあってはならぬこと、危険はあってはならぬこと。「そう思いたい」が、いつしか「そのはずだ」に転じる日本の社会心理は、これ以上面白い分析テーマはないのではないかと、そう思うほどのものだが、色々なところで顔をのぞかせる「国民性」であると見ているのだ。
ところが・・・
消費税率の10パーセント引き上げを延期したい。2015年夏場から国際商品市況は50%以上下落しており、正にリーマン危機に匹敵する「危機(Crisis)」である。とても増税できる経済状況ではないと。そんな安倍首相の現状判断に対して、『そんな危機なんてありませんよ』、『上げると言った以上は上げるべきだ』と。様々な異論が噴出していると伝えられている。
確かに石油はバーレル50ドル台に一時的にもせよ回復するなど価格反転の動きが顕著である。国際商品市況全般をみても、実は2016年初めから回復への動きが見られる。株価は上海市場で昨年8月とこの1、2月に底を二度打ったが、どうやら今年初の下落は「余震」であり、昨年夏の暴落が「本震」であったようだ。そう見れば、『いまは世界経済の危機である』とはとても言えない。増税という嫌なことから逃げる方便である。そんな批判もあるのだろう。
しかし、データを淡々と見る限り、日欧米の株価には底打ちの気配が確かにあるが、鍵となる上海市場についてはまだ断定はできまい。
上の図を見る限り、6月に、あるいは7月あたりに三番底があってもおかしくない。まだ中国の株価は下がり切っていない。
そもそも中国経済は個人消費を軸とした内需中心の経済成長を目指すべきステージに来ているにも関わらず、輸出主導型の経済構造は旧態依然であり、ほとんど改革が進んでいない。中国政府は痛みを伴う構造改革より、元安、金融緩和を織り交ぜた軟着陸を目指している。その政策効果は永続的なものではありえない。問題は解決されていないのだ……。とすれば、もっと下がることは十分ありうる。
確かに、現時点では株価や商品市況は回復途上にある。しかし、このさき1年間は何が起こるか分からない。なぜそんな声が上がらないのだろう?
東日本大震災を上回るほどの巨大地震がまた来るのではないか・・・そんな心配をするなら、今度は中国経済が震源地となって、リーマン級の恐慌が来るかもしれないと。なぜ心配をしないのだろう。確率的にはこちらの方が高いのではないだろうか。
中国を含めた世界経済が<十分に>安定してから、日本の消費税率を引き上げて行こう。いま引き上げれば、来年3月までは駆け込み需要が期待できる。しかし、来年4月以降はマイナスのショックが出る。その頃、上海市場が暴落して、中国発の金融不安が発生したらどうするのか。そんな心配を語る<(自称)経済専門家>がメディアに登場しないのは、小生、不思議でたまりませぬ。
(日本の)メディアと言うのは、いつも、何についても、実にバランスが悪い。
ある事ではひどく心配症になり、別のことでは『そんなことはないでしょう』、甚だ論理の通らないことを世間ではお話しになっているようで・・・。