2013年12月3日火曜日

東アジアで限定戦争は起こるのか

標題の質問に対する小生の答えは「起こりうる」である。望ましくはないが、まったく無意味な不祥事であるともいえない。論理的にはそう言える。

中国が設けた<防空識別圏>に尖閣諸島が含まれているというので — 含めずに設ければ中国には決定的なマイナスである以上中国の行動はなにもおかしくはないが — <緊迫感>が増してきている。

日本と中国の2国をとって単純なゲームを考えてみても、そもそも日中両国には協調の利益があるのでゼロサムゲームではない。つまり中国の利益は日本の損失、日本の利益は中国の損失となるわけではない。

にもかかわらず、協調困難な状況に陥っている理由としてはいくつかの可能性がある。一つは協調が不安定であるという見方だ。タカハトゲームとみる立場はその一例である。両国が穏健なハト路線をとる状態は実は不安定であり、どちらの側も自国がタカとなりリーダーになる誘因を持っている。それ故、主導権争い、示威行動、政治的意志を貫徹するための武力の行使、つまり限定戦争へのイニシアチブなどなどが予見されてくる。タカハトゲームの下では、両者がタカとなって戦う戦争状態は双方が希望していない。いずれかの優位が確立された時点で均衡が訪れる。

2番目の見方は、同じく協調が不安定であるとみるが、現状を「囚人のジレンマ」と解釈する立場だ。双方がハト路線をとって協調するよりも相手を屈服させるほうが利益になる。そのことを相互が知っているが故に先手を取って相手を攻撃する。そんな誘因が双方にある。それで戦争状態になるが、戦争状態を避けたいがために回避する事はむしろ自国の不利益となると認識されるので自然発生的に平和が訪れる事はない。そういうロジックである。ただ、囚人のジレンマという状況はワンショットゲームで発生しうるが、将来にわたって何度も意思決定を行う一連の行動計画を一つのゲームと考えれば、協調+報復戦略が一つの最適戦略となるので協調の持続が可能になるはずである。年末商戦ならいざしらず、隣り合う2国の外交ゲームを囚人のジレンマとみるのは難しい。

3番目の見方は、相手のとる行動に応じて、協調には協調、攻撃には攻撃をとる誘因が双方にあるという場合だ。これは戦略関係が補完的であるケースであり、ゲーム論では「男女のデートゲーム」に相当する。この場合、2国の行動が同調する傾向が生まれてくるが、安定的なナッシュ均衡がある。ただナッシュ均衡は一つとは限らない。緊迫した現状は、自国の攻撃的な姿勢が相手の攻撃的な姿勢を誘発している結果であると見るわけであって、いずれかが戦略を変更すれば相手も同調的な変更を行う。そう期待されるのがこのケースである。

整理すると、①日中関係に戦略的補完を認める場合、②囚人のジレンマではあるが長期的な行動計画を一つの戦略であると考える場合、これらのケースでは日中協調が安定的な均衡点となる。これをケース1とすれば、ケース1の特性は「目には目を、歯には歯を」が合理的選択であるというところだ。そんな行動方針が結局は安定的協調を形成するというのは逆説的ではあるが、ここがロジックの面白い点だろう。それに対して、タカハトゲームとしてみれば相互の実力を正しく認識するまでは限定戦争が予想されるものの窮極的には「押さば引け、引かば押せ」という戦略的代替性が当てはまっている。これがケース2となる。ケース2においては、相手と己れの実力を正確に知るという点が最も重要であり、自国のとるべき行動は実力の比較から自然に決まってくる。

小生が担当しているビジネス経済学では戦略論が一つのテーマになっているが、足元の価格競争では戦略的補完性が支配し「たたきあい」になりがちであるのに対し、企業の体力を決める生産能力戦略については戦略的代替性が主調となって、相手が本気で押してくる場合、同じ行動をとって正面衝突するのは愚策である。そんな議論をしている。当然そこでは各プレーヤーが様々の<コミットメント>を行い、ナッシュ均衡崩しを図るので、現実の進展ははるかに複雑である。

米中の太平洋覇権ゲームととりあげれば、中国がタカ路線をとるなら、まず米国陣営の西の要石である日本と韓国の弱体化をはかり、併せて米中経済関係の深化をすすめ、アメリカにとっての日韓の戦略的価値を低下させる戦略を選ぶだろう。アメリカは中国市場を必要としているが、中国もアメリカを必要としている。ここで、アメリカが中国を必要とするという意図を中国が戦略的に利用する事は常に可能である。と同時に、アメリカが中国のその意図をアメリカ陣営の利益に結びつくように利用する事も可能なはずである。

まあ考察はいろいろと展開できそうであるが、このような議論をすれば、どのロジックが当てはまる状況なのかによらず、日中(あるいは米中もそうだが)相互の国力を正しく伝え、互いに相手の力量を正しく認識する情報分析がまず重要になるし、さらに協調システムの構築に力を注ぐことが2番目に大事な点となる。信頼性に疑問符がつけられている中国のマクロ経済データ、(中国が国内的必要性からそうしている可能性が強いとはいえ)秘匿的体質と形容される傾向は、日中2国間においてすら安定的な関係を模索するための障害になっていると言うべきだろう。

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