2014年1月28日火曜日

ビッグデータ時代に乗る国、乗らない国

小生が仕事をしている分野では<ビッグデータ>という言葉が時代を解くキーワードになりつつあって、それが果たして統計学にあたるのかどうか意見が分かれている ―というか、統計専門家は「それくらいのことは従来の統計学で出来る」と思っている人が多くて、冷淡な態度をとる人が多い。ベストセラー『統計学が最強の学問である』(西内啓)もそうだ。

ビッグデータという言葉が使われ始めたきっかけは、案外、明らかではない。昨年の応用統計学会(福島市)で講演した植原啓介さん(慶大)は、最初のきっかけは2008年6月27日のWired Magazine"The End of Theory: The Data Deluge Makes the Scientific Method Obsolete"だと推測している。その後、英誌The Economistが2010年2月25日号に特集記事"Data Deluge"を掲載してビッグデータなるものが巨大なビジネスチャンスであるという認識が世界に広まった。アメリカのオバマ政権が「ビッグデータ研究開発戦略(Big Data Research and Development Initiative)」に巨額の予算をつけたのは、その後の2012年3月のことだ。

最初のきっかけだったWired Magazineはこんな風に書き出している。
"All models are wrong, but some are useful."
So proclaimed statistician George Box 30 years ago, and he was right. But what choice did we have? Only models, from cosmological equations to theories of human behavior, seemed to be able to consistently, if imperfectly, explain the world around us. Until now. Today companies like Google, which have grown up in an era of massively abundant data, don't have to settle for wrong models. Indeed, they don't have to settle for models at all.
Source: Wired Magazine, 27,June,2008

☓ ☓ ☓

Google Trendで"Big Data"をキーワードにした検索ボリュームを調べてみたところ、以下の結果が得られた。


2011年がビッグデータ元年で、ビジネスとしてのビッグデータがテイクオフしたことが見てとれる。では、どの国で最も関心が持たれているか。それが次の結果。2004年以降、現在までの動きを図にしている。

韓国とインドがトップを形成し、シンガポール、中国、日本、台湾、香港は横一線である。ビッグデータ時代の元締めであるはずのアメリカが高い順位に入っていないのは不思議だが、それでもドイツは(2014年1月28日時点で)10を少し下回る高さにとどまっており、イギリスも同様だ。

このように韓国、そしてインドのビッグデータに対する関心の高さは突出している。それだけ国民全体の意識は時代の流れに沿っているということだろう。

関連キーワードの使用状況をみると以下のようである。

やはり英単語"Big Data"が突出している。
☓ ☓ ☓

The Economist掲載記事の主旨は「ビッグデータ時代がもたらす様々な可能性とビジネスチャンス」である。
A few industries have led the way in their ability to gather and exploit data. Credit-card companies monitor every purchase and can identify fraudulent ones with a high degree of accuracy, using rules derived by crunching through billions of transactions. Stolen credit cards are more likely to be used to buy hard liquor than wine, for example, because it is easier to fence. Insurance firms are also good at combining clues to spot suspicious claims: fraudulent claims are more likely to be made on a Monday than a Tuesday, since policyholders who stage accidents tend to assemble friends as false witnesses over the weekend. By combining many such rules, it is possible to work out which cards are likeliest to have been stolen, and which claims are dodgy.
Source: Tne Economist, 2010-02-25

確かに、新しい技術的可能性はそれまでは不可能だったサービスを可能にするし、そのサービスを求める業界や政府機関があれば企業にとっては新たな需要となる。その意味でビッグデータはイノベーションの結果でもあるし、イノベーションを生み出す力にもなっている。

そのイノベーションに対して韓国やインドで高い関心が集まっている。それは、新しい可能性、新しい需要、つまりニュービジネスへの関心が高いからである。つまり、それだけ成長志向であり、拡大志向であるわけだ。拡大を志向すれば、能力拡大投資に前向きとなり、企業は資金不足となるので金融機関への資金需要は旺盛になる。その分、リスク負担は高くなる。だから金利は上がり、物価も上昇基調になる。戦略的状況が代替的であれば、自らの成長志向は競合するライバルに慎重な行動をとることを強制する理屈になる。

しかし、アベノミクスが目指すマクロ経済は成長志向の経済強国である。それにはライバルが攻撃的な姿勢をとるときに協調的な譲歩を選ぶべきではない。後退しない(一見、非合理に見える)決意を明らかにすることによって、ライバルが日本経済をみる見方を変えることが日本にとっては利益となる。

このように、確かにライバルに対して強硬な姿勢をとることが正しいというロジックはある。観衆、つまり局外者がいる場合には、一般的な印象が自らの戦略的なリソースにもなるので、強硬な姿勢をとることの期待値が一層高まることにもなる。英紙Financial Timesに対して第一次大戦直前の英独関係を現在の日中関係にたとえたのは、一理ある言動なのだ。それがひいては、韓国が日本を見る視線にも影響し、将来の投資プロジェクトに変更を迫るかもしれないからだ。それは日本の利益となる。

とはいえ、アベノミクスが目指す経済強国への道を実際に歩めるためには、威勢のいい言葉だけではなく、実際に日本企業が攻撃的な市場奪取をしかけなければならないし、そのための拡大投資に打って出ることが不可欠だ。賃金引き上げの旗をふりながら、同時に法人税引き下げを渋る財務省を説得できないようでは、支離滅裂であるといわれても仕方がないところだ。

0 件のコメント: