日本国内を見ていてはそれほどピンとこないが、どうも安倍首相のイメージが世界全体で低落しているのではないかと憶測するようになった。アベノミクスは、日本の対外的イメージを変えるものであり、その意味では『周囲が自国をみる見方を変える行動をコミットメントという』というゲーム理論の教科書通りの「戦略」として、それは機能してきたと言える。
ところが、実際にはマネタリーな側面は黒田日銀総裁へ丸投げ、政府が真剣に取り組むべき経済成長戦略は「岩盤のような保守層」の前に後退に次ぐ後退を続け、重要な前線であるTPP交渉でもアメリカと正面衝突、一歩も引かずという戦術に固執して手詰まりに陥った。工夫をすれば果実を得られるにもかかわらず、このままでは何も得られず、という結果になる怖れが出てきた。くり返すが、安倍政権は「保守層」から支持されて誕生した政権なのだ。ここを間違えてはいけないと思う。
米紙Wall Street Journalは次のように書き始めた。タイトルは「1年を過ぎても実を結ばないアベノミクス」である。
日本の貿易赤字は、アベノミクスの一部がどれほど日本の実情とかけ離れているかも露呈している。もちろん、日本は輸出が減少し、輸入を増やす見通しだ。なぜなら、高齢の労働者が退職し、外国の若い労働者が生産したモノを購入するため貯金を切り崩しているからだ。(出所)WSJ、2014年2月19日
景気回復に向けた大胆な実験として導入されたアベノミクスが1年以上たつ今、日本が現在目にしているよりもずっと強い効果を期待することは理にかなっている。10-12月期のぜい弱な数字は、安倍首相にとって、まだ実現していない経済改革の「第3の矢」(民間投資を呼び込む成長戦略)を推進する時間が限られていることを示している。
安倍政権に比較的好意的なWSJも最近になって論調が厳しくなってきている。Washington Post、New York Timesなどに至れば言うに及ばず、だ。
「黒田円安」は、新経済政策を良しとするG7の賛同があったから容認されたものだ。韓国はその円安から最大の被害を被っている。ドイツは極めて批判的である。それでも欧米は全体としてアベノミクスに沿って日本が構造改革に努力するなら、世界にもたらすだろうマイナスよりはプラスの効果を重く見て、安倍政権のリーダーシップを評価してきた。こう言えるだろう。
ところが安倍内閣は、自らの政治的支持基盤に迎合する行動を繰り返している。そして為すべき政治的課題と正面から取り組むエネルギーを惜しんでいるようにみえる。政治的エネルギーの大半を自分自身の理念の実現に使おうとしているかのようだ。そして何と言っても、日本が必要ともしていない総理靖国参拝と解釈改憲を是とする超法規的な姿勢がある。これじゃあ公明党だって堪忍の緒が切れるでござんしょう…。親友まで見限れば、あとは落ち武者のような話し相手が寄って来るだけ、次の選挙は大敗に決まったというものじゃあござんせんか。小生の周りにはこんなことをいう御仁が増えてきた。
「アベノミクス」のこれまでの効果は、世界の期待があったから実現されたものだ。世界の期待が失われれば、マネー流出による株価暴落、経常収支赤字体質への懸念による円暴落、貿易収支赤字の一層の拡大と円暴落、嵐のようなインフレの到来という「悪夢の三重苦」が日本を襲うかもしれない・・・、そんな恐怖がひそかに感じられる今日この頃である。
どうもGHQによる占領が終わってから以降、戦後日本に「改革」なし。あるのは改革という名の模倣、改正という名の現状維持である。団塊の世代が現役であった時は、それでも組織の規律をものともせず、集団的な”Generational Energy”が発散され、そのお蔭で日本社会のダイナミズムが維持された。もう、しかし、それもお終いだ。破壊のエネルギーはない。上質の保守は慎重な知性を土壌とするが、腐敗した保守は独断と無関心を餌にする。
とはいえ、周回遅れのネオコン政治は誠に見苦しいものである。単独行動主義は勇敢に見えるが、経験知としては単なる愚か者として歴史の底に沈みゆく結末が予見されるばかりだ。せめて、ただ沈み去ってほしいのであり、混乱という負の遺産は残してほしくないものである。
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