ところが今日あたりの日経には以下の記事が載っている。
日本の輸出が伸びない。財務省が20日発表した1月の貿易統計(通関ベース)で輸出数量が前年同月比0.2%減と、4カ月ぶりに前年を下回った。米国や欧州向けが回復したのに対し、アジア向けが前年を2.0%下回り全体の輸出を押し下げた。アジアの新興国経済が日本の外需を抑えており、4月の消費増税後の景気の不安材料となるおそれがでてきた。(出所)日本経済新聞、2014年2月21日朝刊
「アベノミクス」が始まってから、すいぶん円安になった。ところが輸出が増加しない。円安になれば原油や天然ガスなどの輸入代金が膨らむ。だから貿易収支は一時悪化するが、その一方で海外市場で日本製品は安くなるので輸出数量が増加に転じる。それ故、貿易収支の悪化は一時的で長期的には円安は貿易収支を改善させる。それが常識的な見方であったが、1年たっても貿易収支赤字は膨らむばかりだ。それで、「おかしい……」という人が増えてきた。
上の記事は、新興国経済が悪化していることが日本の輸出の停滞を招き、それが貿易収支の赤字を拡大させている。そう指摘しているわけだ。
商品ごとの内訳をみているわけではないが、日本から輸出されているのは最近では部品・パーツであり、それを新興国で組み立ててから輸出しているパターンが多い。だとすると、停滞しているのは新興国経済というより、世界市場における"Japanese Bland"だと言うべきだろう。
上の記事の先を読むと、タイの政情不安が結構きいているようだ。
タイは政府による自動車購入の補助が縮小したほか、政情の混乱が経済活動の停滞に及び始めている。タイは日系自動車メーカーの多くが生産拠点を置き、タイ国内の自動車販売でも日系が9割のシェアを持つ。タイの減速は日本からの自動車部品など関連品目の輸出鈍化につながりやすい。とはいえ、次の指摘もしている。
さらに日本製品が世界の市場で競争力を落としてきた分野もある。特にスマートフォンなどの情報通信機械は日本メーカーの苦戦が目立つ。これも輸出減の要因とする見方が多い。タイの混乱 → 日系企業の生産活動が低下 → 日本からタイへの輸出低下。つまり生産現場の混乱であって、日本製品への顧客が減少しているわけではない。これが楽観論。対するに、IT製品ではMade in Japanを求める客が減っている。外国の競合企業に顧客を奪われている。これは持続性をもつマイナス要因だから悲観論になる。
この日本製品の魅力低下というマイナス要因をカバーするために、原発を再稼働して日本国内の電気料金を安くするという発想ではまずダメだろう。大体、円安効果によって似たような効果は既に享受しているのである。電気代を少々安くするなどは焼け石に水であろう。
第二次大戦後のイギリスは、対外資産運用益ではカバーできないほどの貿易収支赤字拡大と、Made in Englandの競争力を回復させるはずのポンド暴落の繰り返しだった。何度かイギリス経済の危機が繰り返された後、今日のイギリスに生まれ変わったのは、サッチャー内閣による<半ば暴力的な>規制緩和、労働市場改革、教育改革が行われたからだ。
サッチャー以前に機械的に反復されたイギリス経済構造改革は、いまでは専門家でなければ覚えていないだろう。それは、改革という名の現状維持であったのだ。イギリスが歩んだ道を日本が歩むかどうかは、マクロ経済状況による。残念ながら、この道を行きたい、あの道は嫌だという国民の好悪の感情は、国民の将来とはほとんど関係がない。あらゆる戦争もそうだが、国の運命は因果関係によって決まるのであって、国民の希望は社会科学のロジックにかなっている時にのみかなえられるものだ。
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