2014年8月30日土曜日

カジノ誘致のいま

かなり以前になるが同僚が担当している授業を参観する仕事がまわってきた。その授業は、特定のテーマを決めてディベートを行うもので、賛成陣営、反対陣営に分かれ、自らの個人的意見とは無関係に賛成/反対の議論を行って、傍聴者の投票によって勝敗を決めるというものだ。

その日のテーマは『北海道へのカジノ誘致の是非』だった。これは面白い。残念ながら、参観時間は1限であったので、ディベートの現場を見ることはできなかったが、後できくと「カジノ賛成派」が勝利したそうである。

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もし小生が論じるとすればどんな点を強調するだろう。個人的には僅かな差で賛成しているのだが、反対の議論をせよと言われれば、反対するのも簡単だと思う。

ずっと昔、『▲▲先生は何でも反対するね』と言ったところ、『□■先生こそ、何でも賛成するやないか』と言われたことがあった。それはそうかもしれないとは自省しているところだ。

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北海道内で誘致に積極的な町は小樽、苫小牧、釧路である。大方の見方は、仮に北海道にカジノが開設されるとして―大いにありうると思っているが―小樽と苫小牧の争いではないかというものだそうだ。

釧路は不利か……、確かに釧路は、背後の釧路湿原まるごとラムサール条約に登録しているように、特異な自然の中に立地する町であるから、カジノをコアにしたリゾート開発には最も向かない町でしょう。そういう議論は必ず出てくるだろう。ホテルができたり、観光客の入り込みが増えてもいいのかと、環境保護団体が猛反発するのは必至である。とはいえ、カジノというのは<非日常的空間>に置くと最も効果的だ。「霧の街」釧路はロマンチックである。冬季の積雪が比較的少ないのも強みだろう。

ロマンチックであり、街の佇まいから非日常性を感じるとなれば小樽市も競争力はある。札幌からも近い。リゾート地として世界ブランドになりつつあるニセコも近い。新幹線も通る。本命はここではないかと思う時もある。しかしながら、小樽は市域全体が山の斜面にあり、狭隘である。鎌倉市と似ている地形である。一体、どこに作るつもりかねえ … …。投資するにも場所がないじゃないか。そう思います。

となると苫小牧か。まあ、土地はある。新千歳空港からも近い。少し行けば日高の牧場地域だ。まるで北太平洋のラスベガスではないか。しかし、苫小牧には産業集積がある。北海道随一の工業地帯である。苫小牧港は取扱い貨物量も大きく、市全域が「現役」というか、生産活動と暮らしの現場になっている。隣の白老町はアイヌ文化のメッカであり、近々、国立民族博物館ができる予定である。苫小牧といえば、産業と文化教育のメッカ。そこにカジノをつくるか……。カジノはもう少し目立たないところ、日常と切り離された時間と空間の場であってほしい。そういう願いはないだろうか。

なので、小生は世評とは違って、北海道なら小樽市と釧路市の争いなのじゃないかと、そうみている。

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ただカジノ誘致には強い反対もあるのが現実だ。日弁連は推進法案の廃案を求める文書を公開している。反対の骨子は以下の通りだ。
  1. カジノによる経済効果への疑問
  2. 暴力団対策上の問題
  3. マネー・ローンダリング対策上の問題 
  4. ギャンブル依存症の拡大 
  5. 多重債務問題再燃の危険性 
  6. 青少年の健全育成への悪影響
  7. 民間企業の設置,運営によることの問題
要するに、プラス効果には疑問符がつく、マイナス効果は色々あると。反対論は常にこういう論理構成になる。

一般に「嗜好品」は健康を害する性質がある。酒、タバコだけではなく、厳密に言えば珈琲に含まれるカフェインもそうだし、1本1000円もするユンケル・スーパーも元気が出るからといって大量に飲むと害があるそうだ。何ごとも<適量>が原則であり、この原則はあらゆる薬品・ハーブに当てはまると言える。

適量原則が守られるし、守らせる制度も設けると前提しよう。この場合は、飲酒を容認する方が色々な激務や不運に押しつぶされそうになっている人たちを守ることになる。酒が体質に合わない人にはタバコがある。酒やタバコの販売を容認している背景にはストレス社会に生きる人に気晴らしを提供するという目的もある。人は「気晴らし」を求めるものだ。

酒やタバコには限らず、心の疲労をもみほぐす、価格的にもほどほどの値段で、短時間で元気を取り戻せるような手段や場は、マイナス面がありうるという可能性の議論だけでもって禁止しないで、需要と供給のメカニズムにまかせるほうがより良い状態をもたらしてくれるのではないか。田沼意次が展開した現実的政策をモラルの観点から否定するのは、分かりやすいが故に社会には有害であった-専門分野でもそう考える人が増えていると思う。要するに、マア、「経済効果論」ということになるが、もともと小生、経済学を勉強したものでどうしても自然で合理的な解決を志向してしまうのだ、な。

故に、ギャンブルもほどほどにするルール、制度を設ければ、カジノもないよりある方がよい … …、という風な議論をディベートでして、どんな反論が返ってくるだろう。想像するだけでも楽しいものだ。


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