ロシア=ウクライナ戦争勃発を契機にまるで「ゾンビ」のように活動を再開したいわゆる「西側陣営」だが、どうやら政治的にも、社会的にも危機に瀕している模様だ。
それは西側社会のコアを為すはずの《民主主義(=Democracy)》という価値観、というか理念が揺らぎ始めているという兆候だ。
英誌"The Economist"が先ごろ次のような記事を掲載した。ヘッドラインは
Westerners are fleeing their countries in record numbers
欧米諸国からの脱出が記録的な規模で進んでいる
Source: The Economist
Date: Mar 22nd 2026
URL: https://www.economist.com/finance-and-economics/2026/03/22/westerners-are-fleeing-their-countries-in-record-numbers
というものだ。
少し抜粋しておこう:
アーダーン・ニュージーランド首相といえば、2020年から21年にかけての世界的コロナ禍の時期、その進歩的な行政手腕から特に日本のマスコミでは高く評価されていた人物である。ところが:
After stepping down as New Zealand’s prime minister in 2023, Jacinda Ardern took up a role at Harvard University. Now she is based in Sydney. Ms Ardern’s decision to live abroad has struck a nerve with Kiwis, who were already worried about high levels of emigration.
記事は首相の座を降りてからシドニーに居を移し、ハーバード大学の為に仕事をしているという、こんな近況報道から始まっている。記事全体の趣旨は、いま西側先進国で激増(?)している国外移住者についてである。
Three factors explain the rise of the expat economy. First, the pandemic normalised the idea of geographical arbitrage.
海外在住者経済の台頭には3つの要因がある。第一に、パンデミックによって地理的裁定取引という概念が一般的になった。
日本国内では住み心地の良い適地を求めて自由に人が移動しているが、それが国境をまたぐ形で進んでいるというものだ。コロナ禍によるリモートワーク普及がこの動きの背中を押しているとも指摘されている。次は税制である。
Taxes are the second factor.
日本国内でも住民税を含め地方税を個々の自治体が完全に自由に決めることが出来るとすれば、「ふるさと納税」の普及をみても、どこに住むかは税と保険料次第という状況が来るだろう。物価の高い首都圏の独り勝ちにはならないのは確実だ。例えば、農水産物(とエネルギー)を含めすべての商品の価格に「県域外出荷税」をかけるとすれば、大都市圏と地方圏のどちらが先に音をあげるか?予想される帰結は明らかだろう。
三番目の理由が本日投稿の主旨かもしれない。
Third, politics play a role. Many of the Americans who waltz around Hampstead dislike Mr Trump. Many of the Britons who have moved to Dubai detest “Keir Starmer’s socialist Britain”. Conservative Canadians, now living through their 11th year of centre-left Liberal rule, are looking elsewhere. All these different examples, though, are a subset of a broader process—the growing sense among Westerners of all political persuasions that politics is broken.
第三に、政治が影響している。ハムステッドを闊歩するアメリカ人の多くはトランプ氏を嫌っている。ドバイに移住したイギリス人の多くは「キア・スターマーの社会主義イギリス」を嫌悪している。中道左派の自由党政権が11年目を迎えた保守派カナダ人は、別の場所を求めている。しかし、これら様々な例はすべて、より広範なプロセス、つまり、あらゆる政治的信条を持つ西洋人の間で政治が機能不全に陥っているという認識が高まっているというプロセスの一部に過ぎない。
政治が壊れるという現象は、何も君主制、寡頭制、独裁制、社会主義等々、政体を問わずどの国でも起こりうるということだ。
Their exit “went along with a deterioration of democracy in their home countries”, the authors find.
著者らは、彼らの出国は「母国の民主主義の悪化と並行して起こった」と結論づけている。
何も非民主主義的になったのではない。善い民主主義から悪い民主主義へと変質しつつあることを感じているからこそ、母国を見捨てるわけである。
実際、現世代は《民主主義》の創立世代ではなく、単なるユーザー世代である。「ユーザー」というのは、往々にして、不具合や動作異常に対してはお手上げ状態になるものだ。不平を述べることは出来ても、問題を解決できるだけの知識も経験もないものなのだ。
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同じ趣旨の観方は実はIMFも持っているようで、それをF&D Magazineで書いている。
The world’s largest economy is in a precarious fiscal position, with a debt-GDP ratio poised to breach its historic post–World War II high. But unlike in 1946, there is no large peace dividend from reduced defense spending to rescue public finances. Demographic factors are pushing spending even higher through the continuing expansion of old-age entitlements, and there seems little prospect of avoiding large deficits and higher debt, even if economic conditions remain favorable.
世界最大の経済大国である米国は、財政的に不安定な状況にあり、対GDP債務比率は第二次世界大戦後最高水準に迫っている。しかし、1946年とは異なり、国防費削減による大きな平和配当は財政を立て直す助けにはならない。人口動態の変化は、民主主義の圧力を通じて、高齢者給付を拡大させ続ける。たとえ客観的には経済状況が良好であるとしても、巨額の財政赤字と債務増加を回避できる見込みはほとんどないのだ。
Source: IMF F&D Magazine
Author: Alan J. Auerbach
Date: March 2026
URL: https://www.imf.org/en/publications/fandd/issues/2026/03/point-of-view-americas-perilous-fiscal-path-alan-auerbach
多数派の要求に正義があると前提するのが民主主義である。というより、「世論」には「正義」があると解釈しなければ、現代民主主義を運営できない。その大前提の下では、
無理を通せば道理が引っ込む
という社会状況がもたらされることになる。
これも《民主主義の失敗》への認識を示唆しているだろう。
小生思うのだが、もし幕末の時代、世論調査をすれば明治新政府は「攘夷」を推し進める以外に道はなかったはずだ。その当時、日本に民主主義がなかったことが近代日本への道を開いた。
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Krugmanはトランプ政権を「反逆者」呼ばわりするに至っている。それは、イランに対して
48時間以内にホルムズ海峡を開放しなければ発電所を破壊する
という脅迫をしたあと、結局は5日間延期すると表明したいつものTACOに戻った事に関連している。
実は、最初の声明から延期方針の声明までの短い時間内において、石油の先物価格がイレギュラーな乱高下を示したというのだ。データはYahoo! Financeから採られているようなので、日本のマスコミ各社も確認可能であったはずだ。Krugmanはこう書いている。少し長いが引用しておこう:
This “sharp and isolated jump in volume” — which you can see for the oil futures market in the chart at the top of this post — was especially bizarre because there were no major news items — no major publicly available news items — to drive sudden big market transactions. The story would be baffling, except that there’s an obvious explanation: Somebody close to Trump knew what he was about to do, and exploited that inside information to make huge, instant profits.
This wasn’t the first time something like this has happened under Trump. There were large, suspicious moves in the prediction market Polymarket before previous attacks on Iran and Venezuela. But this front-running of U.S. policy was really large: the Financial Times estimates the sales of oil futures in that magic minute Monday morning at about $580 million, and that doesn’t count the purchases of stock futures.
When officers of a company or people close to them exploit confidential information for personal financial gain, that’s insider trading — which is illegal. But we have another word for situations in which people with access to confidential information regarding national security — such as plans to bomb or not to bomb another country — exploit that information for profit. That word is “treason.”
この「急激かつ孤立した取引量の急増」(この記事冒頭のチャートで原油先物市場について確認できる)は、特に不可解でした。なぜなら、突然の大規模な市場取引を引き起こすような、主要なニュース(一般に公開されている主要なニュース)が一切なかったからです。この出来事は不可解に思えますが、明白な説明があります。トランプ大統領に近い人物が、彼がこれから何をしようとしているのかを知っており、その内部情報を利用して莫大な利益を瞬時に得たのです。
トランプ政権下でこのようなことが起こったのは今回が初めてではありません。イランとベネズエラへの攻撃前にも、予測市場であるポリマーケットで大規模かつ不審な動きが見られました。しかし、今回の米国の政策先読みは、これまで以上に大規模でした。フィナンシャル・タイムズ紙は、月曜朝のあの瞬間の原油先物取引額を約5億8000万ドルと推定しており、これは株式先物取引の買い越し額は含まれていません。
企業の役員やその近しい人物が、機密情報を個人的な金銭的利益のために利用することは、インサイダー取引であり、違法行為です。しかし、国家安全保障に関する機密情報(例えば、他国を爆撃するか否かの計画など)にアクセスできる者が、その情報を利益のために悪用する状況を表す言葉は他にもあります。それは「反逆罪」です。
Source:substack.com
Author: Paul Krugman
Date: Mar 24, 2026
URL: https://paulkrugman.substack.com/p/treason-in-the-futures-markets
この疑惑は、本日いま時点で、すでに日本でも報道されているから、ひょっとするとアメリカで大炎上するかもしれず、いまは大統領が抑えるとしても今秋の中間選挙で共和党が大敗すれば、大統領弾劾への動きが始まり、ト大統領に近い人たちは(最悪の場合)逮捕されるのではないかと予想しているところだ。
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民主主義と資本主義は相性が良い。しかし、この二つが並立すると、どうしても公私の関係については
私 > 公
公共のために個人の権利を抑えることは不可。私権を尊重する大前提の下で公益を追求せよ、と。そんな姿勢が是認されがちである。
小生は、現時点では『公という観念は虚妄である』と考えているから、公益のためには私権を制限するのは当たり前だという価値観には与しない。しかし、いやしくも《公》という価値を設定するなら、設定した以上は「公の為に私を制限するのは当たり前の道理だ」という帰結になるだろう、と。これは論理であろう、と。
そう考える次第。
いずれにせよ、とにかくトランプ政権は剣呑だ。どうなっても日本に火の粉が飛んでこないことを祈るばかりだ。
本ブログでも最近は民主主義の虚妄性を投稿することが増えているが、どうやら世界規模で思想の揺らぎ、理念の変質が進行中であるようだ。
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