『堤も蟻の一穴』からという諺がある。軽く考えていると、事態が悪化し、気がついた時にはどんな人間にもコントロール不能の事態になっていた。そんな戒めだな。
第一次世界大戦もそうであったというのが定説だ ― それはそうだろう。オーストリアの皇太子夫妻が海外で過激派青年に殺害されたからといって、その事件が原因となりドイツ、トルコ、ロシア、フランス、イギリス、イタリア、果てにはアメリカ合衆国をも巻き込む世界大戦が勃発するなど、誰が想像できたろうか。戦争が終わった後になって、一体この戦争の原因は何であったのかと振り返り、なるほど帝国主義的対立、植民地争奪戦、経済的権益の衝突など色々事情はあったがそれらはずっとあったもので決め手ではない、結局はあの暗殺事件、原因はあれではなかったのか、と。まあ、そのくらいしか原因は思い当たらない。そんな情況であっただろうと想像する。
殲滅戦が支配的であった19世紀の戦争から一変して第一次大戦は持久戦となった。この新しい戦争の様相から衝撃をうけた日本の帝国陸軍が将来の国家総動員体制を構想するようになり、ひいてはこれが軍国主義日本を歴史に登場させたことを想えば、王族二人が殺害された「サラエボ事件」ほど、歴史に残る「小さな事件」はそうそうはない。
蟻の一穴である。
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靖国神社公衆トイレ爆発事件の主犯として(案の定というか、心配されていたとおり)韓国人男性が浮上してきたと報道されている。
事件自体は全く小さな事であり、下らないとすら言える。
とはいえ、首脳同士の会話が再開され、外交的修復が期待されていた矢先にある中で、この小さな事件の落としどころは日韓双方にとって結構な難問になるかもしれない。産経新聞ソウル支局長の公判に世界遺産承認時のゴタゴタ、これに靖国神社問題が加わって、もとからある従軍慰安婦と竹島問題、それに元徴用工問題もあるか。だんだんと蟻の穴が増えて来た。そんな印象がある。
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引き続くようならビザなし入国の一時停止が検討されるだろう。戦略的には補完関係が支配する同調ゲームになっているだろうから、良い均衡から悪い均衡へ双方が滑り落ちていく可能性はかなり高いとみる。
政府は6日、今月末まで暫定延長されていた韓国からの観光客などに対する90日以内の短期査証(ビザ)免除措置を3月1日から恒久化すると発表した。韓国は既に日本に対し査証免除を実施済み。今回の措置で日韓双方が査証免除で足並みをそろえることになる。(出所)日刊スポーツ、2006年2月6日
今後、韓国からの観光客などの増加が見込まれ、政府が目標に掲げる「年間500万人交流時代」の実現に向け弾みがつく。日本側には、小泉純一郎首相の靖国神社参拝で冷却化した日韓関係を改善するための足掛かりにしたいとの思惑もありそうだ。
政府は昨年の愛知万博に合わせ、同年3月から9月末まで、観光や商用目的など90日以内の短期滞在について査証を免除。その後も5カ月間暫定延長した。
この間、入国した韓国人による不法滞在や刑事事件などの犯罪を調査したが、特に問題がなかったことが確認できたため恒久化に踏み切った。韓国からの入国者は、韓国経済の発展や、02年のサッカーW杯共催などで増加傾向にある。
10年前にはスポーツ新聞でもビザなし入国恒久化が報道されていた。
ドラマ『冬のソナタ』がNHKで放送され、日本の韓流ブームがブレークするきっかけとなったのが2004年である。「このドラマ、日本と韓国の政治家と外交官の何人分の仕事をしたんだろうね」と、その当時、カミさんと話したものだ。
現在の日韓関係は、その後10年間の政治家と外交当局の無能に原因がある。蟻の一穴から堤が崩壊する悲劇はこれまでにもあるが、放置した責任が管理者にあることは最初から明らかなことだ。
油断と無責任は何時の時代も大失敗の原因となるものだ。
それにしても、「靖国神社」。
江戸時代には、あの一帯は広大な火除け地(広場)であり、そこに明治になって小さな招魂社ができてからも、祭りやイベント、時には競馬をみに庶民が集まってくる場所であったときく。
小林清親、九段馬駈け
(出所)靖国神社
戦前の軍国主義が、陸軍軍人の危機意識と国家神道思想の鬼っ子だとすれば、平和な九段坂はいまだその思想に占拠されている。それを放置する日本人も(ある意味)油断していると言われても仕方がない。
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